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ちゅうに探偵 赤名メイ  作者: 神有月ニヤ
46/53

⑯′′

《ちゅうに探偵赤名メイ⑯′′》


起き上がった赤川は、何も言わなかった。いや、何も言えなかったの間違いだったかもしれない。自分自身、何と声を掛けて良いものやらと決めあぐねていたから、この時ばかりはありがたかった。俺も起き上がり、赤川に側面を見せる形で座った。


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


気まずい沈黙は、体感ではそこそこ長く続いた。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


お互いが切り出せぬまま、心臓の音がまるで秒針の様に鳴った。規則正しい音は、押し殺された呼吸によって少し乱され始めた。


「・・っ・・・・」


「・・・あの、さ」


沈黙をやぶり、先に口を開いたのは赤川だった。言葉尻は弱かった。俺は無言で目をやる。


「怒ってる、よね・・・」


いつにもなく弱気な声は、俺が望んではいない声だった。違う、俺は赤川を悲しませるために黙っているんじゃない。伝えたかった。でも言葉は出てこない。こういう時に何か言える奴が、人間として立派な奴なんだろうな、と思ってしまった。


「私その、一言、謝りたくて・・・」


「!!!・・・何だよそれ!!」


俺は赤川の声を遮る様に声を上げた。これには彼女も驚いていた。それもそうだろう、今まで黙っていた奴が急に叫んだのだから。


「謝るって何だよ!!謝るぐらいなら、最初から言ってくれよ!!」


俺の声は、狭い室内に響いた。外に聞こえていてもおかしくはない程の大きさの声に、俺は構いもせずに捲し立てた。


「俺たち幼馴染だろ、ちゃんと相談してくれよ!!おじさん達が亡くなった時だってそうだ。何で言ってくれなかった!?後から人伝(ひとづて)に聞かされた時に思ったよ。あぁ、俺は赤川に変な気を使われてるのか、友達としても見てもらえてなかったのかって!!」


赤川の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「困ったことがあるなら迷わず頼ってくれよ・・・!迷惑なんか掛けてくれ。高校出てからは疎遠になりつつあったけど、俺はやっぱりお前たちといるのが楽しいんだ!!それを・・・俺は失いたくない・・・っ!!だから、頼む・・・お前の身に何が起こっていて、お前がどうしたいのか、教えてくれて・・・!」


気付けば、俺の目からも涙が流れていた。感極まった俺たちは目を腫らし、室内にはスンスンと鼻をすする音が聞こえた。


「・・・ごめん・・・」


「謝るなよ!!」


情けない。でも心からの感情だった。俺のこの一言から、再び沈黙が始まった。必死に涙を堪えようと肩を震わせ、口に手を当てて我慢しているのを見れば見る程、赤川がどれだけ苦しい思いをしてきたのかが、手に取るように分かってしまった。それでも、強い言葉しか掛けれないのは、俺が未熟な証拠だった。


「・・・落ち着いたら、話してくれ」


俺はそう言うと、赤川に背を向ける様に座った。


今ここで俺は、何の力にもならない。考えろ、俺が出来る事を・・・!


それは、赤川に対する事でもあったし、現状の事でもあった。何とか今捕まっている事を探偵事務所のメンバーや、藤堂警部たちに伝える事はできないかと考えるが、持ち物と言えば、ピンクガーデンこと桃園が出発前に渡してくれたボールペン型のボイスレコーダーのみ。俺は再度、ボイスレコーダーの頭をカチカチ、カチカチと押してみた。未だにこれが起動しているのかされていないのかは分からなかった。軽く溜め息を吐き、俺はゆっくり立ち上がった。


くまなく調べれば、何かあるかもしれない。


まずは唯一の出入り口である扉に近付いた。こちら側にはドアノブすら付いていなく、開ける事はまず無理だろう。押して開けれるのなら、体当たりとかし続ければ開くかもしれないが、残念ながらこちら側に引くタイプの扉だ。蝶番(ちょうつがい)の留め具が見えている。


正面突破は無理、か・・・。


今度は壁伝いに何かないか探す。もしかしたら誤って閉じ込められてしまった際の非常用の扉があるかもしれない。と壁に手を置いたり、軽く叩いてみたりしてみたが、やはり何もない。だが、まだ俺の中では探索できていない部分があった。それは【双響(そうきょう)渓谷(けいこく)】のメンバーの履歴書や、収支の記録、活動報告書などの大量のファイルが入っていた段ボールの下だ。積み上げられたものではなく、一つ一つ並べてある辺り、俺の読みが正しければその下が怪しかった。


何かあってくれよ〜・・・?


期待に胸膨らませ、せっせと段ボールをどかす作業。しかしいくらどかせども、俺が想像していた床扉的な物はなく、俺の体力は浪費されただけになってしまった。


「ちくしょう・・・何も無かった・・・」


俺は再び溜め息を吐いた。と、背後に気配を感じて振り向くと、そこには赤川が立っており、何か決意に満ちた表情でそこにいた。


「赤川・・・?」


「・・・青山、今まで黙っててごめん。私なりに、何から説明すれば良いか分からなかったの。・・・全部、話すね」


彼女はお腹の前でギュッと手を握り、俺が知ってる【赤川(あかがわ) 千尋(ちひろ)】がそこには居た。


《ちゅうに探偵 赤名メイ⑰′′》へ続く。

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