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第029話「狙いどおりじゃ!」(前編)

 薄暗い石造りの室内を、黒い毛玉のような魔物がパタパタと飛び回っていた。

 カボチャほどの大きさのその魔物は、コウモリのような翼を持つ。毛玉の中央には、ギョロリとした不気味な目玉がひとつ。忙しなく視線を動かしながら室内を観察している。

 ザルバスはその様子を見て、機嫌よく笑った。


「どうじゃ? 試しに作ってみたぞ。カンシ・ドローンじゃ」


「またくだらないものを……

 青結晶のムダ遣いはやめろと言ったはずだが?」


 シセは呆れたようにため息をつく。


「いちいちうるさいのう……

 こいつはわしが魔力で操るタイプの魔物じゃから知能はない。コストはそうかからっとらんよ」


「正直に言え。これを作るのにガウム何匹分の青結晶を使った?」


「聞いて驚け。このドローンを作るのに、1匹分しか使わんのだ」


「嘘じゃないだろうな?」


「……まあ、実験などで10匹分ぐらいは使わせてもらったが」


 シセは小言を言おうと口を開きかけたが、やめた。

 どうせ、この偏屈爺(へんくつじじい)に何を言ってもムダでしかない。


「そのドローン、役に立つんだろうな?」


「もちろんよ。監視の他に、ちょっとした荷物や魔物1匹ぐらいなら余裕で運べるぞ。

 あまりに使い勝手がよくて、さっそく祭壇の監視に1匹送り込んどるわい」


「祭壇の監視か……そう言えば、レオガウムはどうなった?」


「やっと復活したぞ。今は瘴霧の森で部隊を編成中じゃ」


「時間がかかったようだな。何が原因だ?」


「わしにもわからん。ひょっとしたら、アイツの意思が介入しているのかもな――」


 ザルバスはふと視線を外し、遠くを見るように目を細めた。

 その一瞬だけ、いつもの飄々(ひょうひょう)とした雰囲気が消え、わずかに物思いに沈む。


「アイツとは誰だ?」


「いや。ただの独り言じゃ。気にするな。なんの根拠もない」


「くだらん。それより例のトカゲ……ヴァルガンの生産はどうなっている?

 祭壇の改良も滞りないのだろうな?」


「ふん。わしを誰だと思っとる。抜かりないわい。どちらも順調すぎるほど順調――」


 言いかけて、ザルバスはふと口を閉ざした。

 片眼鏡の縁をなぞりながら、思案げに視線を落とす。


「どうした?」


「祭壇の近くに監視用に送っておいたドローンが、雷鳴のような音を聞いてな。

 方向は瘴霧の森の東辺りか……」


 ザルバスはキョロキョロと辺りを見回す。

 ドローンから送られる映像を共有し、確認しているのだろう。


「おっ! 例の女勇者ではないか! 向こうから来てくれたのか。

 これでデータが取れる。さっそく瘴霧の森に待機させていた魔物を何匹か向かわせよう」


 新しい玩具を見つけた子どものように、ザルバスは目を輝かせた。


 * * *


 森の中から小鳥たちが羽ばたき逃げていく。その群れの中には、ザルバスのドローンも紛れていた。

 ザルバスの指示を受け、2匹の犬頭の小人――ガウムが森を飛び出し、岩陰に隠れている女勇者めがけて駆けていく。ドローンは上空から、その様子を冷静に伺っていた。


「獣の耳と尻尾が生えた少女か……あれは魔物か? それとも人間なのか?」


 シセはドローンをムダなものと判断していたようだが、こうして戦場を俯瞰できるのは、やはり便利だ。改めてそう実感する――


 次の瞬間、雷鳴のような轟音が鳴り響いた。

 先頭を走っていたガウムの1匹が、青白い光となって爆散する。後ろを走っていたガウムが慌てて足を止め、焦ったような表情でドローンを仰いだ。


「馬鹿が! 何をやっておる!」


 ザルバスが罵ると同時に、そのガウムも弾丸に貫かれ、光となって弾き飛ばされる。


 ザルバスは女勇者の手にした武器を確認した。

 金色のエングレービングが施された、白銀の筒。その先端からは紫色の煙が立ち上っていた。


「どういう仕組みじゃ? 威力はあるのに、魔力をそれほど感知できん」


 女勇者は躊躇(ちゅうちょ)なく、その武器を投げ捨てるが、それは空中で青白く砕けて消える。

 どうやら、弓矢とは違って使い捨ての武器らしい。


「あの武器を回収して解析したいが……

 なるほど。解析させんように消滅する魔法だけ仕込んでおるのか。

 あの女勇者、そこまで考えているとなると相当の切れ者じゃな」


 ザルバスは気持ちを切り替え、森の入口にある大木の裏に隠しておいた3匹のトカゲ兵――ヴァルガンに、念で指示を送る。


「だが、いくら強力な武器だろうが、しょせんは使い捨ての飛び道具よ。

 左右にデタラメに動きながら前進して間合いを詰めろ!

 仲間がやられても足を止めるな! 次の攻撃まで3秒はかかっておる。そこを狙え!

 とにかく相手の懐に飛び込め! 1匹でも女勇者にたどり着けばこちらの勝ちじゃ!」


 勝利を確信したザルバスは上がりそうになる口角を抑えた。

 

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