第026話「ボンボンと呼んであげて」
静寂に包まれた西アルヴァリス砦の教会。
高い天井から差し込む光が、大理石の床に柔らかく反射している。
白亜の女神像が立つ祭壇の前に白い光の渦が舞い踊り、その中心にシャルルの姿が現れた。
「はい。セーブポイントからリスタートっと――」
軽く体を伸ばしながら辺りを見渡す。
「そんで、女神様はどこ? 一緒に行くんでしょ?」
「ここにいますよ」
不意に声が聞こえたが、姿が見えない。
「ん? どこ?」
「ここ、ここ」
帽子の羽飾りが喋っていた。
「なんですか、これ?」
「新しくアバターを作るのも手間なので、シャルルさんの帽子の羽飾りを再利用させてもらいました。効率重視なんです。コスパとタイパは大事ですもんね」
女神(羽飾り?)はそういうと、帽子から離れてシャルルの頭上をパタパタと飛び回る。
白いふわふわモコモコの丸い毛玉に、小さな羽。羽飾り部分はそのまま長い尾羽根になっている。つぶらな黒い瞳に小さな黒いくちばし――
例えるなら、シマエナガっぽい何か。
「魔物に間違えられないといいけれど」
「こんな可愛らしい魔物がいてたまりますか。それに人前ではなるべく羽飾りのフリをしておきますよ」
「なんていうか、耳かきの白いふわふわのアレを連想しますな」
「ひょっとして梵天のことですか?
神の依代になんてことを……私を耳の中に突っ込んだりしたら大声出しますからね!」
「それって鼓膜にダイレクトアタックってこと? 怖っ!」
* * *
「さて、それでは審判の時間です。聞きなさい、尾本コウよ――」
女神は厳かに言葉を紡ぐ……ただ、その姿はシマエナガっぽい何かだが。
「あなたの今朝の測定結果です。
体重は80.7kg、昨日より0.9kgダウン。体脂肪率は30.0%、昨日より0.3%ダウンです」
「よっしゃ!」
シャルルは小さくガッツポーズを取る。
「これぐらいで喜ばないでくださいよ。体脂肪率30%って、まだまだ肥満体ですからね」
「分かってますって。それに、このアバターでの体の動きや軽さにはちょっと憧れるというか、こうなりたいって思わせてくれるんですよねー」
シャルルは踊るように、くるりと回る。
羽のように軽いとは、まさにこのような感じだろう。
「それは何よりです。一応、ヘルスデータが変化した分だけアバター・シャルルの身体能力にもボーナスを加えておきました。まあ、微々たる差なので体感できるほどじゃないでしょうけれど」
「よし。そんじゃあ、魔物どもにバージョンアップしたシャルル様と新武器のお披露目といきますか!」
「何を言ってるんだか……ん? 新武器?」
フェルネスが首をかしげたその時、舞い踊る白い光の渦が再び現れる。
光の中心から現れたのは、高身長で精悍ながらもどこか柔らかい雰囲気を持つ青年だった。蒼い鎧を纏い、肩には赤いマント。茶色い髪が光に揺れ、堂々とした立ち姿が絵になる。
「あ、シャルルさん。こんにちは」
「おう。アヤトくん、お疲れ~」
《やっほ~、シャルルっちー》
頭に響いた謎の声に、シャルルは反射的に猫耳を押さえ、キョロキョロと周囲を見回す。
だが、アヤトとシマエナガっぽい何かしかいない。
「……何ですか、これ?」
不思議そうにシマエナガっぽい何かを指差すアヤト。
「あ、これ? え~と、これは……梵天さん」
「梵天……」
絶句するアヤト。
「言いにくいなら、ボンボンと呼んであげて」
「ボンボン……」
絶句するフェルネス改めボンボン。
「俺の世界によくいる使い魔的なお助けキャラだよ。気にしないで」
「え? あ、はい……」
アヤトが間の抜けた返事をする。
どうやら彼は、予想外の事態に対応するのが苦手らしい。
ボンボンはパタパタと舞いながらシャルルの帽子の上に戻り、小声でシャルルに話しかける。
「ちょっと! 急な設定を色々とぶっこんでこないでくださいよ!」
「しょうがないでしょうが、フェルさんが事前に言ってくれなかったんだから。
それより、ボロが出ないように話をちゃんと合わせてくださいよ」
「もう!」
「さてと。それより今日はどうする?」
アヤトが我に返り、胸元から懐中時計を取り出す。
「そうですね。前回の戦いから三日ほど経過してますし……
いったんライウス隊長に話を聞きに行きましょう!」
懐中時計の蓋が閉まる音が教会の中に響いた。




