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輝く君へ  作者: P4rn0s


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7/15

希望と現実と

夏休みが始まってから、もう一週間が過ぎていた。

時計の針の音が妙に耳に残るような、退屈な午後だった。宿題は机の上に広げっぱなしで、シャーペンはほとんど進んでいない。窓の外では蝉が鳴き止む気配もなく、空は雲一つなく青かった。


ふと、携帯の画面を見た。誰からもメッセージは来ていない。僕はため息をついて、ペンを机に投げ出した。

──会えない日々は、こんなに長かっただろうか。


学校に行けば、彼女は必ずどこかにいた。教室の中心で笑い、昇降口で待ち、坂道を並んで歩いた。放課後は確かに僕のものだった。

けれど夏休みに入ると、それは一瞬で消えてしまった。彼女はどこかで友達と遊んでいるのかもしれないし、家で涼んでいるのかもしれない。僕には知るすべがない。


そう考えているうちに、どうしようもなく彼女の顔が浮かんでしまう。

会いたい。

でも、それを伝える理由が僕にはなかった。


午後三時を過ぎた頃、僕は机に向かうことを諦めて外に出た。

近所の商店街まで自転車で出かける。熱気に包まれた道路、風を切っても涼しさはない。それでも家に籠っているよりはましだった。


商店街のアーケードに入った瞬間、少しだけ空気がやわらぐ。冷たい風が店から漏れてきて、ほんの少し涼しい気がした。

そのときだった。


「あれ?」


振り返ると、そこに彼女がいた。

白い半袖のブラウスにデニムのスカート、髪を後ろでゆるく結んでいる。学校の制服姿とは違う、夏休みの彼女。僕は思わず言葉を失った。


「こんなとこで会うなんて、すごい偶然だね」

彼女は笑って手を振った。


僕はどうにか口を開いた。

「……ほんとにね。買い物?」

「うん。アイス食べたくなってさ、コンビニ行こうと思ってたんだ」


それだけの会話なのに、胸が熱くなった。

この一週間、会えなかった空白が一気に埋まるような感覚だった。


「じゃあ一緒に行こうよ」

気づけば僕はそう言っていた。

彼女は少し目を丸くしたあと、にっこり笑って頷いた。


歩きながら、彼女はずっと話していた。

最近読んだ漫画のこと。友達と遊んだ日のこと。部屋の掃除をしたら小学生の時の写真が出てきたこと。

僕はただ相槌を打ちながら、その声を聞き続けた。


コンビニでアイスを選ぶ彼女は、迷いなく冷凍庫を覗き込んでいた。

「チョコにしようかな、でもソーダもいいな……」

「どっちも買えば?」

「そんなに食べられないよ。君は?」

「……じゃあ、同じので」

「え、なんで?」

「なんとなく」


彼女は小さく笑って、結局チョコを選んだ。

店を出ると、太陽はまだ高く、アスファルトからは照り返しが上がっていた。

歩道の脇のベンチに腰掛け、並んでアイスを食べる。溶けるのが早くて、指にまで甘い液体が垂れてきた。


「夏休みっぽいね」

彼女が笑った。

「うん」

それしか言えなかった。けれど、その一言にすべてが詰まっているように思えた。


しばらく黙って、蝉の声と人のざわめきだけが耳に残る。

彼女は空を見上げ、ぽつりと呟いた。

「なんか、不思議だね。学校じゃ全然話さないのに、こうして一緒にいるの」


僕は胸が詰まった。言いたいことはたくさんあったのに、結局、言えたのは──

「……たしかに」

その一言だけだった。


彼女は笑って、アイスの棒をゴミ箱に放り込む。

「また会えるといいね」


その言葉は軽く聞こえたのに、僕の心には重く沈んだ。

──また会えるといい。

それは、約束ではなく、ただの願いだ。


帰り道、並んで歩いた。だけど交差点に近づくと、彼女は自然に足を止めた。

「ここでいいや。今日はありがとね」

「……うん」


それだけ言って、彼女は手を振った。

夕陽に照らされた笑顔が眩しくて、僕は目を逸らした。


彼女の背中が人混みに紛れて消えるまで、僕は立ち尽くしていた。

胸の奥で、言えなかった言葉が熱を帯びていた。

「また会おう」ではなく、「ずっと一緒にいたい」と。

でもそれを言葉にしたら、この関係は壊れてしまう気がして──僕はただ黙っていた。


蝉の声は途切れず、夏の空気は熱を失わない。

アイスの甘さだけが、指先に残っていた。

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