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輝く君へ  作者: P4rn0s


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6/15

後悔を飲み込み、成長をし

終業式の日は、毎年どこか物寂しい。

朝から湿度を含んだ空気が重たく、制服の襟が肌にまとわりつく。先生の長い話は、誰にとってもただの雑音だった。視線は前を向いているふりをしても、心はすでに夏休みへと飛んでいる。


僕も例外ではなかった。

窓際から差し込む光は眩しすぎて、眠気すら呼び込んでくる。ちらりと横目で彼女を見る。彼女は隣の席の友達と小声で何かを話しながら、退屈そうに机に頬杖をついていた。


昼間の彼女は、僕には遠い。

まるでスクリーンの向こう側にいるようで、同じ空間にいるはずなのに、指先すら届かない。


けれど、放課後になれば違う。

その思いが胸の奥で静かに膨らんでいった。


式が終わり、荷物をまとめる音が教室に広がる。

「海行こうね!」「プールも!」「宿題やばそう!」

そんな声が飛び交う中、僕はいつも通り鞄を閉じるのを遅らせた。友達の輪に混じって出ていく彼女を、ほんの少しの間、見送るために。


昇降口へ行くと、彼女はやはりそこにいた。

大きな鞄を肩にかけて、髪を後ろでひとつに結んでいる。いつもより軽やかな雰囲気があった。夏休み前の解放感が、彼女の表情を柔らかくしているのかもしれない。


「暑すぎる」

第一声がそれだった。

「ほんとにね。まだ夏休み始まってもないのに」

「エアコンつけてくれたらいいのにね、体育館」


そんな他愛のない会話で足を揃える。

蝉の声が、途切れることなく鳴り響いている。アスファルトは陽に照らされ、白く光っていた。


「ねえ」

彼女がふいに声を落とした。

「また一緒に帰ろうね」


僕は一瞬、返事が遅れた。

彼女の目は真剣でも照れでもなく、ただ自然にそう言っているように見えた。


「……うん」

ようやく言葉を絞り出すと、彼女は安心したように微笑んだ。


それだけの約束なのに、僕の胸は大きく波打った。

夏休みになれば、毎日こうして坂道を歩くことはなくなる。部活や用事で校舎に来ても、時間はまばらだ。自然と、二人で並ぶ機会は減っていく。

その現実を彼女も分かっているからこそ、「また一緒に」と言ったのだろう。


坂道を下る間、僕たちはいつもよりゆっくり話した。

宿題のこと。見たい映画のこと。アイスの新しい味のこと。

本当にどうでもいいような会話が、どれも大切な記憶に変わっていく。


交差点が近づくと、僕は少しだけ焦る。

この先、会えない日が増えるかもしれない。

なのに、言いたいことは山ほどあるのに、言葉にならない。


信号が青に変わる。

彼女が右に進む前に、僕は勇気を振り絞った。


「……映画、一緒に行く?」


振り返った彼女は、目を瞬かせ、それから少し照れたように笑った。

「いいよ。……宿題終わらせてたらね」


軽口のように聞こえたその返事を、僕は心の中で何度も繰り返した。


「じゃあ、また」

「また明日」


手を振るでもなく、背を向ける。

ただそれだけの別れなのに、今日は特別な重みを感じていた。


夏休みの始まり。

いつもの放課後が、少しずつ形を変えていく季節。


彼女が交差点の向こうに消えていく。

蝉の声は途切れない。

その声を聞きながら、僕は胸の奥でそっと思った。


これ以上、何も望まなければ、きっと幸せでいられる。

けれど、それではきっと、いつか終わってしまう。


そんな矛盾を抱えたまま、僕の夏が始まろうとしていた。

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