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輝く君へ  作者: P4rn0s


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3/15

君の世界を

翌日の放課後も、僕らは昇降口で顔を合わせた。

「待った?」

「今来たところ」

いつもと同じやり取り。けれど胸の奥は前日から続く余韻でまだ熱かった。

彼女の秘密を知った僕は、昨日よりも一歩近づけたような気がしていた。


校門を出て、並んで歩き始める。

坂道の上空には大きな雲が漂い、夕陽を分厚く隠していた。

街に灯りがひとつ、またひとつとともりはじめ、昼と夜の境目を曖昧にしていく。


彼女は珍しく、しばらく黙っていた。

昨日の告白を思い出しているのか、それとも何か迷っているのか。

僕は声をかけたい衝動を抑えて、ただ隣に歩調を合わせた。


「……ねえ」

彼女が口を開いたのは、坂を半分ほど下ったところだった。

「私の絵……見たいって思う?」


僕は一瞬返事をためらった。

彼女の夢に触れること、それは彼女のもっとも繊細な部分に触れることだ。

簡単に「うん」と言うのは、彼女にとって軽すぎる返答かもしれない。

けれど、心はすでに答えを決めていた。


「……見たい」

声が震えていないか、不安だった。

けれど彼女は小さく頷き、安心したように息を吐いた。


「じゃあ、寄り道してもいい?」

「うん」


僕らはいつもの交差点を曲がらず、そのまま住宅街へと足を踏み入れた。

夕暮れの街並みは、昼間とはまるで違う顔をしている。

窓から漏れる食卓の明かり、犬の散歩をする家族、軒先の花にかかる水滴。

生活のにおいが濃く漂い、その中を二人だけの秘密を抱えて歩く。


やがて彼女は足を止め、小さな公園のベンチを指さした。

「ちょっと座ろ」


ベンチに腰かけると、彼女は鞄の中から一冊のスケッチブックを取り出した。

表紙は少し擦れていて、角も丸まっている。長い時間、彼女がずっと触れてきたことを物語っていた。


彼女はしばらく抱えたまま迷っていた。

視線は僕ではなくスケッチブックに落ち、指先で何度もページを撫でる。

やがて小さく笑って、「笑わないでよ」と呟きながら、一枚目を開いた。


そこには、見慣れた学校の風景があった。

黒板と机、窓の外に広がるグラウンド。

けれど線はぎこちなくも、彼女の目で見た「教室」がそこに確かに描かれていた。

不思議と僕は胸が熱くなった。

誰も気づかない教室の陰影や、窓から射す光の柔らかさが、彼女の線に宿っていたからだ。


ページをめくるごとに、彼女の世界が広がっていく。

街角の古びた自販機。

近所の猫。

電車の中で眠る人。

夕焼けに染まる川。


どの絵も上手いとは言えなかった。

でも、どれも温度を持っていた。

「誰かの目を気にして描いた絵」じゃなく、「描かずにいられなかった絵」だった。


「下手でしょ?」

彼女が笑う。

「……下手じゃないよ」

僕はすぐにそう答えた。

「俺には、すごいって思える」


彼女は驚いたようにこちらを見て、また視線を逸らした。

耳まで赤くなっているのが、街灯に照らされてはっきり見えた。


「……ほんと、君って変わってる」

そう呟く声は、どこか嬉しそうだった。


最後のページをめくったとき、僕は思わず息を呑んだ。

そこには──僕がいた。

制服姿で、ノートを広げて机に向かっている僕の横顔。

線はまだ荒く、髪も歪んでいる。けれど確かに「僕」だった。


「……これ」

声が出ないまま指を差すと、彼女は慌ててスケッチブックを閉じた。

「い、今のは忘れて!」

「なんで?」

「恥ずかしいから!」


彼女は顔を覆い、笑いながら首を振った。

「勝手に描いちゃって……ごめん」


僕は首を振った。

「……ありがとう」


その瞬間、彼女の手が止まり、目だけが僕を見た。

言葉はなくても、伝わるものがあった。

放課後に重ねてきた小さな時間、その延長線の先で、僕たちは互いに「秘密」を預け合っていた。


夜風が強く吹き、ページの端がふわりと揺れる。

彼女はスケッチブックを抱き締め、少し照れた笑顔を浮かべた。

「これからも……見せてあげてもいい?」


僕は迷わず頷いた。

それが彼女の夢と、彼女自身を守る約束になるような気がした。


遠くで教会の鐘のようなチャイムが鳴り、僕らはベンチから立ち上がった。

交差点に向かう帰り道、彼女はいつもより少しだけ近くに寄り添って歩いていた。


その夜、眠りにつくまでの間、僕の頭の中には彼女の描いた「僕」が焼きついて離れなかった。

不格好で、線の揺れも多かったのに、それは誰よりも正確に僕を僕として描き出していた。

あの瞬間、僕は確かに彼女の世界の中にいた。

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