また、もし、いつか、やっぱなんでもないよ
日が傾き、坂道には長い影が伸びていた。
今日も僕は、ひとりで坂を下る。
風が制服を揺らし、遠くから自転車のベルの音が届く。
前まで隣にいた彼女の笑い声は、もう届かない。
交差点に差し掛かる。
左右を見渡すけれど、彼女の姿はない。
その瞬間、胸の奥に小さな穴がぽっかりと開いたような感覚が走った。
けれど不思議と、泣き出したくなるほどの痛みではなかった。
ただ、静かに、確かに、何かが終わったことを感じた。
歩きながら思い出す。
彼女と並んで下った坂道、交差点で交わした何気ない言葉、手を振る仕草、ちょっとした笑い。
すべては甘く、あたたかく、だけど今となっては遠く霞んでいる。
その思い出は、胸の奥にそっと残されたまま。
いつまでも手の届かない場所で、僕だけが抱えている。
家の扉を開ける。
部屋は静かで、夕陽の光がほんのり机の上に差し込む。
ノートを開くけれど、言葉はなかなか出てこない。
それでも心の中で、彼女に話しかけるように小さく呟く。
──元気でいるかな。
──笑ってるかな。
答えは返ってこない。
けれど、この問いかけをやめることもできない。
それが、僕にとって最後に残された彼女との接点のように思えた。
夜が深くなり、窓の外の町の灯りが一つ、また一つと灯る。
僕は静かにノートを閉じ、ベッドに横たわる。
明日もまた、放課後に彼女がいるかどうか確かめたくなるだろう。
でも、その日が、もうないかもしれないということも、心の片隅で知っている。
そして眠りにつく前、最後に思う。
坂道を並んで歩いたあの日々は、きっと二度と戻らない。
けれど、確かに僕たちはそこにいて、笑い、話し、隣を歩いていた。
それだけで、十分に甘く、静かに胸を満たす日々だったのだと。
風の音だけが窓の外で揺れ、僕は静かに目を閉じる。
彼女の存在は、もう手の届かないところにあるけれど、
それでも、心の奥深くでずっと、たゆたうように残り続けるのだった。
ただ、一歩踏み出せば。
ただ、がむしゃらになれたら。
ただ、君をもっと好きでいたら。
また、未来は変わっていたのかもしれませんね。
いや、まだ届くのに手を伸ばさない。そんな彼にこんなことを考える資格はないのかもしれませんね。




