表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
302/316

第294話 帝都火撃隊

「状況はこうです。『サイバネティック・ネオアズチにおいて、ノブナガ・オダが謀反を起こされた。その謀反には氾濫(スタンピード)の主人が関わっているようで、帝都のすぐ東にあるネオアズチを支配下に置いた反乱の主人がこの後どういう行動に出るかわからないので、先に軍を進めてこれを討伐してしまおう』」


 帝都火撃(かげき)隊──


 その起源は『帝の祖の活躍を広く知らしめるため、その伝説的な行いを歌劇によって広く大衆に膾炙(かいしゃ)させる』というものであった。

 発足の当時だと『歌劇』というものはなく、『どうすれば帝の祖の活躍をより大衆に膾炙させることができるだろう?』という苦心の果てに歌劇という概念が生み出された、というのが正確な順序になる。


 伝説的な人物の伝説的な行いを広く、なるべくそのままに知らしめる、ということで、武人役には『実際にそのエピソードの元ネタの武人ぐらい強く』という基準で採用されることになったりする。


 かくのごとく配役オーディションの基準は『いかに元ネタに近いか』というのが最優先であり、そこ以外は年齢、容姿、性別さえもどうでもいい──というぶっ飛んだものであり、その結果、男性が女性役をやったり、女性が男性役をやったりといったことが日常茶飯事と化している。

 とはいえオーディションは希望制なので、役者本人もなるべく自分に近い役をやりたがり、そこまでの大事故が起こったことは、歴史を振り返っても数えられる程度しかないが……


 この歌劇団が蒸気甲冑を乗り回して帝の懐刀のような『実際の戦い』をすることになった経緯、その具体的なエピソードについては諸説ある。

 何分、この歌劇団、帝の祖の時代に実際に戦った人が創始者なのだ。その歴史は五百年以上に及ぶ。なので、現在から振り返ると、創設エピソードには曖昧な個所も多い。


 ともあれ重要なのは『帝の祖の活躍を知らしめるための演劇者集団が、なぜか蒸気ロボットを乗り回して帝の指示で戦う懐刀としての役割も負っている』ということであり……


 帝都火撃隊は、帝の指さす先にあるモノを斬る『懐刀』なのだ。


 なので当然、


「私は火撃隊エース組のまとめ役として、このたびのネオアズチ攻め、帝に同行するべきと考えています」


 という話になる。


 ……とはいえ、それが確定事項なら、劇場地下の重要会議を行う部屋に、各組のエースを集めて、こんな話をする必要はなかったのだ。


 桃井(もものい)がこのたび各組のエースを、この分厚い扉の中にある、五角形のテーブルと五つの椅子があるきりの狭い部屋に集めた理由は、『帝の出撃に同行するのが確定事項ではないから』だ。


「なぁ、桃井(モッさん)よお」


 背もたれに背中をあずけ、天井を仰ぐように喉を反らせ、頭の後ろで手を組むようにしている女が声を発した。

 油の黒いシミが目立つタンクトップ。腰から下はツナギ。一見してその服装は『整備士』である。

 実際、その女の組は蒸気甲冑の整備も請け負う『雪組』だ。


 雪組トップスタァにして、持ち前の腕っぷしと並みいる男性をよせつけない粗暴さ、酒豪エピソードなどで知られる、その白髪を短く刈り込んだ女──


 黒沢(くろさわ)は、桃井に喉を見せるような姿勢のまま、声を発した。


「アタシにゃ難しいことはわからん。わからんが、一つだけわかることがある。そいつは──アタシらは戦争なんぞできねえってことだ」


 黒沢が視線を桃井に向けた。

 ボーイッシュ、と言っても足りない、どこか獰猛で、それから勝気そうな、『確かに女性ではあるのに、まとう雰囲気からヤンチャな少年、あるいは不敵な猛将を連想させる』という不思議な雰囲気の顔……


 その顔立ちの黒沢の視線は、冗談を言っているような軽薄さと、『ここから先の言葉次第では、噛み殺してやる』というような、不穏な迫力を秘めていた。


「なぁ、モッさん、アタシにゃ難しいことはわからねえ。だが、一つだけわかってることがあるぜ。アタシらは戦いなんぞしたことがねぇ」

「……」

「帝都騒乱──ハンッ。御大層な演目がついたもんだぜ、なあ? あの時までは、できると思ってたよ。だが、アレを経験して、はっきりわかった。アタシらにできるのは、演技だ。戦争を演じろと言われりゃあ、演じる。観客総立ちの大戦争を見せつけてやることもできるだろうよ。けどな、本物の戦争はできねえ。できなかったんだよ、すでにな。そして、できるようにもなってねぇ。帝都騒乱から三年。アタシらが何してきたか、モッさんなら、わかるよな」


 帝都火撃隊──

 帝の懐刀としての戦力。帝の勅令によってのみ出撃し、帝の指定した目標を打ち倒す、華々しき隊。


 しかし、帝都騒乱の際に、その対応力の低さ、甘さを思い知らされる結果となった。


 極めて客観的な視点から語れば、帝都騒乱の対応がグダつき、被害が広がった背景には、『当たった敵との相性差』が強く影響している。

 ヤマタノオロチ──ヤマタノノヅチにはエースではない隊員たちが当たったが、あちらにこそエースが当たるべきだった。

 また、市場に複数のネームドを含む破落戸(ごろつき)の剣士たちが出たところへとエースたちが当たったが、そちらこそエースではない隊員たちを束ねて数で挑むべきだった。


 そういった『相性の悪い相手に当たる』ということによって、ヤマタノノヅチに複数の隊員が撃墜されて火撃隊の被害も増えたし、市場の側には数が足らずに多くの被害を許すことになった。


 それは、『運』のせいだとも言える。

 そもそも帝でさえ前兆を掴めていなかった、歴史に二度はないであろう『同時多発謀反』なのだ。これを火撃隊だけ事前予測しろというのは無理がある。

 なので事前情報がないまま挑んで、たまたまハズレを引いた──そう言うこともできる。実際、帝からは、そのような意味のお言葉と励ましを賜っている。


 だがこれが『軍』としての動きと見ると……


「なぁモッさんよ。アタシにゃ難しいことはわからねえよ。だが、アタシごときにもわかるぐらい、帝都騒乱では、『戦略で負けてた』んだ」

「……」

「帝からの勅を賜った出撃じゃあなかったとはいえ、だ。噛み合う相手の情報を得ることができなかった。その時点で戦略的敗北だ。んでもってな、その次だ。戦術でも負けてる。アタシらは、出撃したあと、状況を見た。そんでもって、目の前の状況に対応することに必死になった。必死になって、配置を変えて当たろうって発想をすることさえできなかった」

「……それは、」

「ああいや、モッさんのせいじゃねえよ。アンタはよくやってる。スタァの集うエースチームのまとめ役、っても委員長役だしな。別に指揮官じゃねえ。っていうか──全体の配置をいじれるような現場指揮官がいねぇことがアタシらの最大の問題だろう」

「……」

「で、話を戻すぜ。この三年、アタシらは何をしてた? 帝都騒乱の対応失敗を経て、アタシらがしてたことは、なんだ?」

「……民心の慰撫」

「ああそうだよ、まったくその通りさ。アタシらがやったのは、劇団員としてのまったく尊い仕事だよ。──『軍人としての体制改善・修練・勉強』。こういうことを、何もしてねえ」


 忙しかった。

 ……帝都歌劇団として、あまりにもこなすべき仕事が多すぎた。


 華々しいスタァたちが、住む場所を壊されて心を痛め、破落戸剣士たちの襲撃の恐怖から立ち直れない民心を慰撫する。

 日常というものを壊された人たちに、日常を感じさせる──その尊い責務を果たすべく、青空劇場で公演をしたり、ファンサービスを行ったり、慰問を行う帝の横で笑顔を浮かべて用意された原稿を読み上げたり、そういうことをした。


 それ以外にも、劇場での公演も例年通り行った。


 もちろん『日常が戻っている』という演出のためにだ。


 帝都歌劇団は良くも悪くも帝都の顔であり、これの公演が行われているというのは、帝都の民に強く『日常』を感じさせる。


 また、そもそも『エースにしてスタァである』というのが帝都火撃隊としての強みだ。『我らのスタァが蒸気甲冑に乗り込み飛べば、帝の敵がたちまち滅ぶ』という……言ってしまえば演出。

『役者が戦い、華麗に敵を滅ぼす』というのは、良くも悪くも人々から『闘争の現実感』を奪った。実際にあった戦いさえも、演目のように錯覚させ、人々を平和に浸らせた──平和ボケさせたのである。民を平和ボケさせるのは、統治者にとって必要なことだった。歌劇団はそのための活動を忠実に行い続けた。


 行い続けたがゆえに、辞めるわけにはいかなかった。


 特に『自分たちの住まう場所で大規模な事件が起こった』あとに、いきなり『平和の象徴』が活動方針を変更などしたら、民の不安は計り知れないだろう。


 演者にして軍人。

 ──では、ない。帝都火撃隊はどこまでも演者である。


 帝の懐刀という公人にして、民間から選ばれた役者という私人。

 ──では、ない。帝都歌劇団はその根っこが公人である。


 造られた偶像(アイドル)が、帝都火撃隊かつ歌劇団の本質だ。

 だから、黒沢は語る。


「足手まといなんだよ、アタシらは」

「……それは否定ないわ。でも……」

「まぁまぁ待て待て、まだアタシが話してんだ。アタシの話を遮るなんざ、酒が入ってたらぶん殴ってるところだぜ」


 黒沢のいる雪組は、わりとアルハラとパワハラの温床である。


「なぁモッさん、アタシにゃ難しい話はわからねえ。けど、一個だけわかることはあるんだぜ。帝が『来い』って勅令を出さなかった理由だよ。そいつは『来るな』って意味だ。そうだろう?」

「……」

「『上』の判断はそうなんだよ。だっていうのに、スタァが雁首並べてこの狭苦しい部屋に集まって、いったい何を話し合おうっていうのか、頭の悪いアタシにもわかるように言ってくれよ。結論は出てる。『命令をされなかった』。これが結論だ。違うのか? 違うってんなら、どう違うのか、教えてくれ」


 桃井は、視線を卓の上に落とした。


 黒沢は桃井(じぶん)の言葉を待っている。


 白瀬(しらせ)は──どうだろう。普段から無口で無表情な白瀬の考えは、桃井には読み切れない。ただ、普段の様子を知っているからこそ、今、自分が声を発するまで、何か話を始めることはないだろうなと思えた。


 青田平(あおたたいら)はヒクつくような声で笑っている。恐らく、自分と黒沢との話し合いに、何か楽しい要素を見出して『観客』になっているのだろう。青田平にはそういうところがある。


 そして……


 もう一人、『鳥組』のエースがここにいるべきなのだが、今、鳥組のエースは不在だ。

 元エースはあの熚永(ひつなが)アカリ。……帝都の歴史に刻まれる最悪の謀反人であり……


 こういう時に、それとないフォローをしたり、誰よりも早く結論を出して場をまとめたり、そういう役回りをする女だった。


 アカリは目立ちたがり屋で身勝手だが、努力家だった。

 家柄を鼻にかける者の多い鳥組の中で、『御三家のうち一つ』という太い実家を鼻にかけることはなかった。


 熚永アカリが最悪の謀反人なのは客観的事実だし、桃井もその扱いに文句はない。

 だが、エースチームメンバーのうち一人としての熚永アカリは、桃井にとって重要なサポート役であり、気品と礼節がどんなに(かぶ)いてもにじむ育ちの良い御令嬢であり、それから……


 ……重要な潤滑剤でもあった。


 最悪の謀反人であることと、リーダー、サポーターとしての資質を持つこととは矛盾しない。

 むしろそういう人物であるからこそ、多くを陰から操ることができたし、単独で戦略目標を定めて、臨機応変に戦術を組み替えて、ああも大きな騒ぎを起こすことができた。


 はっきりと、言ってしまえば……


「今の私たちに必要なのは、『熚永アカリ』なのよ」


 桃井の発言に、他の三人は驚かなかった。


 黒沢が不敵な、あるいは生意気な笑い顔を浮かべて、顎をしゃくって続きを促す。


 桃井はたくさんの息を吸ってから、言葉を続けた。


「仮に、帝都騒乱の時、熚永アカリが味方だったとしたら、ああも大きな被害は出なかったと思うの。……家の太さもあるでしょうけど……ああいう時、自分の判断に絶対の自信を持って、配置換えでもなんでも勝手にして……その勝手な指示に人を従わせる、そういう人物といえば、熚永アカリだった」

「評価が高いじゃねえの。モッさんはあいつのこと嫌いかと思ってたぜ」

「正直、嫌いよ。『規律』とは正反対の性格だったし。身勝手な理由で会議は遅刻、酷い時だと無断欠席するし……」

「モッさんはそういうの気にするよな」

「でも、帝都騒乱みたいな時に必要だったのは、熚永アカリ。これは、心からそう思っているわ」

「で?」

「……でも、熚永アカリはもういない。いたら、帝も、ネオアズチ出撃に『来い』と仰ったでしょうね。……でも、いないのよ」

「……それで?」

「私たちは、あの帝都騒乱で、熚永アカリ一人に負けた」

「そいつは事実ではねえな。アタシらが戦った相手はアカリじゃねえし、帝都騒乱の黒幕はアカリ一人じゃねえ」

「気分の問題よ」

「ならしょうがねえな。それで?」

「私たちは、負けた。熚永アカリだけじゃなくて……黒沢も『対応失敗』って思ってる。白瀬も、青田平ちゃんも、そうでしょ」

「まあな」


 黒沢だけが、声で肯定した。

 しかし、白瀬も青田平さえも、その認識を否定しなかった。


 桃井は、


「私たちは確かに実際の戦いをしたことがない。最後の一戦が、あの帝都騒乱で、それは敗北に終わった。だから、勝利をしたいと思わない?」

「……おいおいモッさん、そいつはアタシでもわかるぜ。つまり、アレか──『最終戦績敗北が悔しいから、最終戦績を勝利にするために戦争に同行します』って話だろ?」

「そうよ」

「なあモッさん、間違いだったらそう言ってくれよ。今、この場で話し合われてるのは、『モッさんがどうするか』じゃねえだろ? 『火撃隊はどうするか』だろ? つまりだ──モッさんの『最終戦績を勝利にしたい』っていうわがままに付き合って、アタシらも、火撃隊の予備員も、命を懸けて戦争に行けって、こういう意味だ。アタシにはそうとしか受け取れねえ」

「そうよ」

「狂ってる」

「自覚はあります。でも、ただのわがままではないわ」

「教えてくれよ、アタシにもわかりやすくな」

「私たちは、なぜ、戦いに行くのか、考えたのよ」

「……」

「別に、劇団員っていうだけでもいいでしょう。というか──劇団員、かつ、蒸気甲冑乗り、っていうの、よくわからないでしょう? 特にこのご時世……帝都騒乱前までは、劇団員になって、演者としてスタァになりたい。そのついでに蒸気甲冑に乗らなきゃいけないから乗る──こういう人が、多かったわよね」

「そうだな」

「でも、帝都騒乱を境に、変わった。……『蒸気甲冑で敵を倒すスタァになりたい』っていう人の比率が増えたのよね。私たちの活動を見てのことだって」

「ああ、そうだな」

「今、目の前の戦争に出向かないなら、私たちはきっと、ただの演者になる」

「……」

「『演者、かつ戦闘者』ではなくなっていくと思うの」

「そいつは、何が悪い?」

「外聞が悪い」

「…………参ったね」


 黒沢が目を手で覆って、また天井の方を向いた。


 ……だが、それはあきれているのではなく、口元には笑みがあるが、嘲笑っているわけではなかった。


『外聞が悪い』。


 それがどうした。外聞が悪い程度がなんだ。戦争に行く教育を受けていない自分たちが命懸けの戦争から遠ざかるのが、外聞が悪い? 命があるなら良いではないか──


 普通の人は、そうだろう。


 だが……


「役者が見栄を張らなくてどうするの」


 スタァは、違う。


「演者かつ戦闘者──変よ。すごく変。考えれば考えるほど、変。だから、私たちの代で見直されたら、将来二度とそんな制度はできない」

「……」

「第一ね、『帝の懐刀と呼ばれている火撃隊が、帝の御親征の時に、帝都に引きこもってました』だなんて、次の日からどんな顔をして街を歩けばいいわけ?」

「ハンッ」

「それがしかも『火撃団を終わらせた』だなんて言われたら……死んでも死にきれないわ」


 格好つけに命を懸けるのは、馬鹿々々しいことだ。

 しかもその決断が自分以外を巻き込むとくれば、馬鹿を通り越して愚図で身勝手だ。


 だがしかし、


「火撃隊は終わらせない。団員の命を懸けてでも。死ぬなら、格好のために死んでもらいましょう。役者なら役者として生きるのに命を懸けるべきだわ。できないなら、辞めてもらって構わない」

「モッさん、そいつはきっと、脱落者が出るぜ。批判も出る。聞いたことあるだろ? アタシらが帝都騒乱のあと、すぐに青空劇場なんかやった時だ。『不謹慎だ』と石を投げる連中もいた」

「演技で黙らせてきた」

「ああ、まったくもってその通りだ。だがな、アタシは賛成できねえ」

「……そう」

「アタシは格好のためにゃ命は懸けらんねぇよ。アタシが命を懸けるのはな、『気持ちよく酔うため』だ」

「……」

「『帝都火撃隊を終わらせないために、格好つけて、戦争にいく』。──そいつはいいな。最高に酔える。アタシ自身が美酒になるって感じだ。アタシは自分に酔いてぇんだよ。だから、アタシは戦争に向かうことに賛成だ」


 桃井はふっと笑い、それから、視線を巡らせた。


 これまで黙っていた白瀬は、黙ったまま、無表情のまま、コクリとうなずいた。


 桃井は視線を黒沢に戻し──


「──あ、あ、あ、あのお、わ、わたしに視線とか、くださらないんですかぁ?」


 青田平がヒクつく笑みを浮かべて『こっちにも振って!』をしてくるので、げんなりした顔で視線をそちらに向け、


「……青田平ちゃんも、賛成でいい?」

「えへ、えへへ……い、いいですよぉ。大賛成ですぅ。て、ていうか、行かないなら、ひ、一人で行く気でしたぁ……だ、だ、だ、だ、だって、せ、戦争とか、ぜったい、絶対、ぜぇぇぇぇったい、酷いことになりますよねぇ。酷い目に遭いますよねぇ? いいですよねぇ。阿鼻叫喚、い、今から、気持ちよくなっ──」


 桃井は意識から青田平を閉め出して、黒沢に向き直る。


「帝の勅はいただいていないけれど、帝都火撃隊の総意で、このたびの御親征にはついて行く、ということで」

「いいねえ、最高だ。アタシにもわかるぜ。格好つけのために帝の命令無視の独断──」

「いえ、命令無視はしません」

「──何?」

「なので、これから蒸気塔に全員で乗り込んで、帝を説得し、勅をいただきます」

「……モッさん、アタシは、アンタのそういう行動力、かなり好きだぜ」

「ありがとう。……じゃ、仕事をしましょう。各組の劇団員に召集をかけて。緊急集会をします。そこで今回の方針に反対の人は、まあ、お留守番ということで」

「辞めてもらうんじゃねえのかい?」

「私たちが死んだあとにも、歌劇団は必要でしょう?」

「あんまりアタシを酔わせんなよ。飲み干すぞ」


 黒沢、男も女も両方いける。


 桃井は圧のある笑顔で、黒沢を黙らせ、行動を開始する。


 桃井らの直談判を受けた帝は一言「そうか」と述べ、火撃隊に出陣の(みことのり)を発した。


 かくして、祖の代以来となる帝の親征に、火撃隊が付き従うこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ