第45話 『友人との帰宅』
大変長らくお待たせいたしました。第45話をお送りいたします。
諸事情で今回は短めです。
「ふぇっ・・・くしょんッ!!・・・ううー・・・死ぬかと思ったぜ・・・」
順位決定戦・女子の部の決着が宣言され、すぐさまシルヴィアは【氷結陣】の効果を解除し、ミーリィを氷の戒めから解き放ったのだが・・・
一瞬で全身を氷漬けにされ、短時間とはいえ極低温下に置かれた彼女は凍傷寸前にまで追い込まれ・・・大きなクシャミをしつつ愚痴る。
本来、寒冷な土地でも容易に適応して暮らす事が出来る程、人狼族は寒さに強い種族であるが、流石に氷漬けにされてはたまらない。
寧ろミーリィが相手であったからこそ、辛うじて無事と言える状態で済んだのだろう。
「ご、ごめんね?ちょっと魔力多く注いじゃったから・・・今、治癒魔法も掛けるね?【完全治癒】っ!」
本気で体を震わせて寒がるミーリィに慌てて駆け寄り、シルヴィアは謝罪の言葉と共に治癒魔法の最高峰の一つ【完全治癒】を彼女に対し行使する。
先程、シルヴィアと言葉を交わした後に降参宣言を行い、退避区域で負傷した他の受験生に治癒魔法を行使していたイリスを始め、監督役の教師達も一様に驚く。
「す・・・凄い。あれが治癒魔法の最高難度って言われる【完全治癒】・・・」
「さっきの男の子の【闘気】といい・・・今年の受験生はどうなってるの・・・?私達教師でもあんなの出来ないわよ・・・」
リクにしてもシルヴィアにしても、本来アカデミーの教師達が想定している受験生、または新入生としての力を遥かに逸脱していた。呆然とした表情で呟く女性教師の言葉がそれを物語っている。
二人からすれば、必要だったから身に付けた力や技術だったのだが、師匠達から言われた通り・・・リスティアの常識から見れば規格外でしかなかったのだ。
周囲のそんな空気を知ってか知らずか、手早くミーリィの治療を終えたシルヴィアは、彼女に肩を貸しながらそそくさと移動を開始する。
既に今日の実技試験は終了しており、先に終えている男子も集合して、教師陣からの総評と今後の予定を聞く事になっている。
その為、シルヴィアは出来るだけ目立たない様にと、既に整列を始めた他の受験生達の後ろの方へと並ぼうとしていた。これ以上注目を集めると更に大変な事になりそうだと彼女は考えたのだ。
ミーリィと共にどうにか後方へと移動を続け・・・彼女は小さく右手を振り、自分を待っていた少年の元へと辿り着く。
「・・・ちょっとやり過ぎだぞ?俺も偉そうな事言えないけどさ・・・兎に角。お疲れ、シルヴィア」
「うん。ありがとう、リク君。これで・・・私達、目標達成出来たかな?」
「お前達以上の奴が明日以降の試験に出るとは到底思えん。文句無しに主席合格は決まりだろう」
「・・・コイツらみたいなメチャクチャな奴が何人も居てたまるかよ!・・・うう、まだ体が冷たいぜ・・・」
それぞれに全力で戦ったリク、シルヴィア、アレイ、ミーリィは教師たちの準備を待ちつつ小声で話す。
周囲の受験生達がちらちらと視線を向けて来るが、若干距離を置かれている辺り、この四人は『規格外の実力者』と見做された事は間違いない。
故に、色々と話を聞いてみたいものの、距離を測りかねているのだろう。四人に近づいて話しかける様な者は皆無であった。
暫く待たされた後。一通りの評価と、明日行われる別の組の実技試験の結果を待ってから最終的なクラス編成が行われる事が伝達され、本日は解散とする事が宣言される。
編成には一日掛かるとの事で、結果としてリク達は二日間は実質休みとなり、明後日に再度大掲示板を確認する事となった。
周囲に安堵の空気が広がる中、リクはシルヴィアに一瞬申し訳ない、と目線を送った上で・・・口を開く。
「所でさ。まあ・・・お疲れ会って訳じゃないけど、この後皆、俺の家に来ないか?お茶位は出せるし・・・ミーリィには我が家自慢の風呂で体を温めて貰った方が良いと思うんだけど」
「・・・そうだな。色々と話をしておく必要はあるだろう。すまないがお邪魔するとしよう。シルヴィア、ミーリィ。二人共構わないか?」
「えっ?・・・う、うん。私は大丈夫、だよ?」
「風邪ひくよりはマシだな・・・分かった、アタシも行くよ・・・ふぇっくしょッ!!」
「ならばハーダル家の馬車を出そう。俺達は実技試験で目立ちすぎているからな。衆人環視の元、歩いて行くのは正直余計な手間を増やしかねん」
リクの唐突とも思える提案。それにすぐさま乗っかるアレイ。まるで打ち合わせでもしていたかのような流れと、先程リクが送って来た目線の意味とにシルヴィアは軽く驚くが、取り合えずは承諾し、ミーリィも温かい風呂の下りに敏感に反応しつつ応じる。
その女性陣の答えにリクはホッと息を吐き安堵する。実際には家に帰ってからが本番なのだが、まずは全員揃って話を出来る状況を作れた事で、少し安心してしまうのも無理はないだろう。
ただ、この四人が一緒に歩いて・・・となると他の受験生の手前、悪目立ちする事は避けられない。
そこでアレイが自分の家の馬車に全員が乗って移動する事を提案したのだ。伯爵家の馬車というだけあって、三人増えた程度ではどうという事もない広さなのだそうだ。
こうしてリク達はアレイの申し出をありがたく受ける形で、ガーディ邸へと移動を開始した。
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10分弱の移動を終え、ガーディ邸の正門に馬車を止めた四人は、主の帰宅を感知して自動的に開く門を越えて邸内へと入る。
アレイとミーリィは、初めて見るガーディ邸の無駄に広い敷地と庭に驚き・・・リクとシルヴィアを出迎えに屋敷から駆けてきたマルの姿に更に驚く。
「・・・俺の実家とこんなに近いとは思わなかったが・・・この屋敷がリクの家だったとはな。いや、それよりも・・・」
「おかえりなさいませ。リク様、シルヴィア様。お客様をお連れになられたのですか?」
「ああ。ただいま、マル。この二人はアレイとミーリィ、俺達の大事な客人・・・いや友人、かな?」
「・・・あ。そういう事、なのかな?・・・ただいま、マルちゃん。みんなの分のお茶の用意、お願いして良いかな?」
「いや、ちょっと待てよ!?リク!シルヴィア!取り合えずこの状況を説明しろよ!?」
貴族であるアレイは屋敷の広さなどにはすぐに慣れたのか、まだ比較的冷静ではあるようだが、ミーリィは混乱の極地といった表情で、銀色の樽の様な何かと親し気に話すリクとシルヴィアに説明を求める。
彼女からすれば、北区域の高級住宅地・・・アレイの実家の伯爵家などが軒を連ねる場所に、平民だというリクの家がある事自体、理解の範疇を超えている。
混乱するな、という方が無理というものである。そんなミーリィの姿に、自己紹介がまだであった事を思い出したのか、マルがアレイとミーリィに向き直り、恭しくお辞儀する。
「お初にお目にかかります。ワタクシ、当ガーディ邸の管理人兼、執事兼、メイド兼、料理長の『マル』と申します。以後お見知りおきを」
「あ、ああ・・・失礼した、俺はアレイ・フォン・ハーダル。一つ向こうの通りのハーダル伯爵家の嫡男だ。こちらこそ宜しく頼む」
「・・・アタシは人狼族のミーリィ。コイツ等とはまだ知り合ったばっかりなんだけどね・・・まあ、よろしく」
「アレイ様にミーリィ様、で御座いますね?当家の主、リク様とシルヴィア様の御友人をお招きでき、恐悦至極でございます。ささ、皆様お疲れでしょう?まずは屋敷にお入りくださいませ」
「・・・主?おい、リク。一体どういう事なんだ?ここはアンタの家なんだろ?何でシルヴィアも主なんだよ?」
「うん、まあ・・・そこら辺を説明しなきゃいけないなーって思ってさ。兎に角、マルの言う通りまずは中に入ってくれ・・・あと・・・『シル』?」
「・・・なぁに?」
「・・・先に謝っておくよ、ゴメン。やらかした・・・俺が全面的に悪いです・・・」
「もう!ダメじゃない・・・『リっくん』!・・・ちゃんと、二人に説明してね?」
マルの仕事内容の多さを物語る自己紹介。丁度始めてガーディ邸に着いた時にリクが取ったリアクションとよく似た驚きを見せるアレイだったが、どうにか貴族の一員らしく、丁寧に挨拶を返す。
一方のミーリィは、普通に・・・と言うより、驚きが大き過ぎて素で返しつつ、リクの家で有る筈のガーディ邸の主に、マルがシルヴィアも加えている事に疑問を持つ。
元々、その事を二人に説明するつもりで招いたリクは、ここで覚悟を決めた。即ち・・・シルヴィアに怒られる事を。
そして、リクはアレイとミーリィの前で、幼馴染の少女を・・・慣れ親しんだ『シル』という呼び名で呼んだ。これから全部話すのだから、もう隠す必要もないだろう、と。
先程からの会話の流れから、リクが・・・恐らくはアレイの前で『うっかりボロを出した』のだろうと推測していたシルヴィアは、謝る少年に少しだけ怒った声を出しながら・・・
こちらも呼び慣れた『リっくん』と返す事で応える。口調こそ怒ってはいるが、順位戦の時とは異なり、彼女は微笑んでいた。実際にそれほど怒っている訳ではないのだろう。
寧ろ、その声音は嬉しそうでさえあった。実はシルヴィアからすれば、呼び方の件は相当我慢していたのだ。
ミーリィの前で噛み噛みになりつつ、ギリギリで堪えたように・・・一歩間違えば、先にボロを出していたのは彼女の方かも知れなかった。
そんなやり取りをしつつ、四人はマルに先導され、漸く屋敷へと入っていく。
日はいつの間にか大きく西へと傾き、激闘を繰り広げた長い一日が、静かな夜へと移ろうとしていた。このガーディ邸を除いて、だが。
屋敷内でのやり取りが長くなりそうなので、次話に分けた結果短くなってしまいました・・・
月末月初で更新が遅れました事、改めてお詫び申し上げます。
その間、感想やレビューも頂き、また沢山の方に読んで頂けて、仕事にも励む事が出来ました!
読者の皆様、本当にありがとうございます!




