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第38話 『波乱の実技試験』

お待たせいたしました、第38話です。




「今年度の実技試験は、一次試験合格者が例年よりも多い為に複数日に分けて実施されます、か」


「私達は初日・・・今日だね。間隔が空かない方が(なま)らないから助かるね」



一次試験の筆記を無事突破した翌朝。朝食後のお茶を飲みつつリクとシルヴィアは、ガーディ邸のリビングで今日の予定を確認していた。


例年、一次試験合格者は翌日に実技試験を受ける事になっているが、今年度は結構な数の受験生が一次試験を突破した為、一日で全ての実技試験を行う事が困難になったらしい。


そこでアカデミーは、無作為に合格者を2つに分けてそれぞれ別の日に試験を行う、と筆記試験の合格者発表と併記する形で大掲示板に記したのだ。


リクとシルヴィアは初日である今日・・・つまり、例年通りの日程にたまたま組み込まれていたのだ。


シルヴィアの言う通り、日が空けばその分『二人にとって』十分な訓練が出来ないここでは体が(なま)る。


ベストな状態で試験に臨みたい二人にとっては、この流れは好都合というものであった。



「ワタクシもリク様とシルヴィア様の応援に行きたいのですが・・・アカデミーには関係者以外が立ち入る事が出来る日は限られておりますので・・・ここでお二方の御武運をお祈りしております」


「大丈夫だって。ちゃんとやり過ぎない様に注意する・・・でもって、絶対一位で合格してやるからさ!」


「流石はリク様で御座います!・・・ではそろそろ出立されますか?」


「うん。マルちゃん、お家の事お願いね?私も絶対一位になるからね!行ってきます!」


「お任せ下さいシルヴィア様!そして、頑張って下さいませ!」



自分達の目標とする一位・・・即ち『主席合格』を心から応援してくれるマル。すっかり大切な家族である彼(?)にリクとシルヴィアは笑顔で手を振り、アカデミーへと登校していくのだった。



-----------------------



昨日も往復した道程(みちのり)を二人はのんびりとした速度で歩き、数台の馬車に追い抜かれつつアカデミーへと向かう。


ただ、馬車の台数が昨日に比べると明らかに減っていた。例年より多い、と発表された一次試験合格者ではあるが、その数の減り方からしてやはりアカデミーは狭き門であるのだろう。


やがて二人は正門を通り、大掲示板の前へ辿り着く。


今日の試験会場や諸注意が張り出されていると、一次試験合格発表の際に明日の掲示板を確認するように、と但し書きがあったのだ。


それによれば、前半の試験は屋内訓練場にて男女合同で実施。後半は屋外の戦技教練グラウンドで男女別に行われる、と記されていた。


それぞれの施設の場所を記した地図もあり、丁度両方を昨日実際に確認していたシルヴィアが、リクに簡単に場所を説明する。



「ん?そこに居るのはリクか?早いな、もう来ていたのか」


「・・・その声はアレイか?おはよう、そっちこそ早いじゃん」



シルヴィアの説明を聞いていたリクは、後ろから掛けられ・・・その大きくよく通る男の声に振り返る。


そこには自分よりも長身のゴリマッチョが笑顔を浮かべて立っていた。昨日知り合ったばかりのアレイだ。



「ああ、おはよう。何、大掲示板が混む前に確認したかっただけさ・・・ん?そちらの女性は・・・」


「そっか、昨日は会ってないもんな。紹介するよ、彼女はシルヴィア。俺とは同じ村の出身なんだ」


「あ、初めまして。私、シルヴィア・セルフィードです。リク君とは同じ師匠の元で訓練してました」



まだ他の一次試験を突破した受験生もまばらな中、リクとアレイは親し気に挨拶を交わす。


余程ウマがあったらしい二人だが、昨日は会う事が無かったシルヴィアに気付いたアレイが、彼女の事をリクに尋ねた。


言われて気付くリクが紹介し、続いてシルヴィアもアレイに挨拶と自己紹介をする。


アカデミーでの『お互いの呼び方』も少しは慣れたようで、噛む事無く無難にこなす事が出来た。



「成程、同門という事か・・・失礼、申し遅れた。自分は、アレイ・フォン・ハーダル。ハーダル伯爵家の嫡男だが、良ければリクと同じようにアレイと呼んでくれれば助かる」


「は、伯爵家!?・・・ええっと、良いのかな?失礼じゃないんですか?」


「良いんじゃないか?アレイもアカデミーでくらい肩の力抜きたいだろうし。だろ?」


「はははっ!全くもってその通りだ。と、いう訳なのでリクと同じ様な感じで接して欲しい。学友とは家名など気にしないで付き合いたいからな?」


「は、はぁ・・・じゃあ、私の事もシルヴィアで。宜しくね、アレイ君?」



シルヴィアの自己紹介に対し、アレイも整った作法で自分の事を彼女に伝える。


ただ、リクと同じように気軽に接して欲しいと言うあたり、余程自分の家名や爵位というものが煩わしいようだ。


そんなアレイの態度にシルヴィアは軽く驚きつつ、リク同様に気遣いをすること無く振舞おうと考えるのだった。



「じゃ、お互いに自己紹介も終わった事だし・・・試験会場に向かうか」


「そうだね。折角早めに着けたし、今のうちに出来る事は準備しておいた方がいいね?」


「同感だな。では行くとするか」



だんだんと大掲示板の前に人が増え始める中、三人は実技試験の前半部が行われる屋内訓練場へと向かう。


屋内、とはいうがその大きさは一般にいう体育館の様な物で、かなりの人数が収容出来るようだ。


ここに10人ずつを呼び出して試験を受けるのだと、入り口で受験生を案内する教員から告げられる。


なんでも、個人の戦力を測る為の試験だそうで、測定器を兼ねたデコイ人形を、相手に自分が得意とする戦技や魔法をぶつけるのだと教員は説明してくれた。


順番は先着順らしく、早めに来たつもりだったリク達三人は、既に結構な人数が列を成している事を見て、意外にも普通の時間だったのかと揃って首を傾げる。



「うーん・・・みんな結構速く来てたんだな。掲示板に人が少なかったのは、もうここに並んでたって事か?」


「どうもそうらしいな。出遅れたのは間違いないが、並ぶ順番で合否が決まる訳でもあるまい」


「寧ろ・・・ちゃんと自分の実力を出し切る事が大事だよ?・・・あれ、ミーリィ?」



殆ど雑談のノリで会話しつつ、自分達も列に並ぼうとするリク達。そして最後尾につこうと移動を始めた時、シルヴィアは見覚え有る灰色の髪の長身の少女を見つける。


彼女が昨日、高速の追い掛けっこを演じた相手・・・人狼族(ウルブス)のミーリィだ。名前を呼ばれた事で振り返る彼女は『げっ!?』と声を上げた。



「おはよう、ミーリィ。早いね、もう並んでたの?」


「・・・アンタさ、昨日アタシが言った事欠片も理解してなかったのか?実技試験が終わるまでは敵同士だって言ったろ?」


「そうだけど・・・朝の挨拶くらいは良いかな、って。ダメだった?」


「いや、ダメとかそういう問題じゃないだろ・・・・つくづく調子狂う奴だよ、ったく」



シルヴィアは別にミーリィの言葉を理解していない訳ではない。ただ、彼女にとっては挨拶をする事くらいなら普通にいいだろう、と他意無く思っただけの事なのだ。


ミーリィも彼女の態度から、特段挑発などの目的で言っている訳でも無い事はすぐに理解できたのか、シルヴィアの天然ぶりに呆れた表情を見せる。



「あー、悪いな。シルヴィアはいつもこんな感じだからさ。試験も真剣勝負に変わりは無いし、きっちり全力でやる事は俺が保証するよ」


「・・・なら良いけどね。アンタ、相方ならちゃんと言い聞かせといてくれよな?」



これは流石にフォローを入れるべきだろうと、リクが二人の間を取りなす様に会話に参加する。


ミーリィはまじまじとそのリクの姿を見た後、きっちりシルヴィアに注意するようにと念を押してきた。


そしてミーリィは前へと向き直り、口を閉ざす。既に彼女は臨戦態勢の様だ。



「・・・悪い奴ではないな。いや、口は悪いが・・・あれは彼女なりの気遣いなんだろう」


「だろうなぁ。本当に敵同士、なんて思ってるなら『甘さ』を忠告するような事しないだろうしな」



ミーリィとの会話には参加せず、後ろで様子を見守っていたアレイが指摘する通り、シルヴィアがその性格故に全力を出す事を躊躇わない様に、彼女はわざとあのような言い方をしたのだろう。


リクも同様に感じたようで、アレイに賛同の意を示しつつ、自身も全力を出し切ろうと気合を入れ直すのだった。



-----------------------



「それでは5組目の皆さん。前の人から順番に自分の得意な技をあのデコイ人形へと放って下さい。与えた衝撃の強さで、簡易ではありますが皆さんの戦力測定をさせてもらいます」



待つ事およそ1時間。リク達の順番が回ってきた。5組目の最後が丁度アレイであり、ミーリィを含めた四人が同時に実技試験前半の部を受けることになる。


それぞれ用意された訓練用の衣服に併設された更衣室で着替え、剣や槍といった武器を模した鉄の棒など、思い思いに試験に使う得物を選んだ後・・・いよいよ試験が始まった。


程なく、一番目の受験生が自分の得意とする技・・・魔力(マナ)による風の刃を放つ。それは狙い違わず目標に命中し、ザンッ!という音と共に人形に・・・小さな傷を付ける。



「あれ・・・?あの人形って、魔具だろうけど・・・そんなに頑丈なのかな?」


「・・・いや、多分違うぞシルヴィア。()()は・・・単に威力不足だ」


「だよね・・・・・アレイ君はどう思う?」


「俺も二人と同意見だな。正直な所、あれを破壊するなと言われる方が困る位だ」



続く二番目の受験生も、三番目も・・・六番目の受験生に至っても、人形を破損出来た者が一人も出て来ない。監督役の教員が苦笑を抑えるのに必死になる惨憺(さんたん)たる有様だ。


ここまでの受験生達は口々に人形の頑丈さに驚き、結果を悔しがる。


だが、リクもシルヴィアも、そしてアレイも・・・あの人形がそれ程頑丈な代物だとは到底思えなかった。


この組はこのまま誰も破壊できないかも知れない。先に得意な技を放った受験生達にそんな空気が流れ始める中・・・それを打ち破る、一陣の風が訓練場の中を吹き抜ける。


何事かと驚く6人の受験生。その風は7人目の受験生・・・ミーリィの右足へと集まっていた。



「だらしない連中だね、この程度の物も壊せないのか?・・・シッ!!」



苛立った声を隠そうともせず、気合と共にミーリィは風を纏った右足を鞭のようにしならせて振り抜く。刹那、ゴオッ!!っという凄まじい音を立て、彼女の蹴りから風の刃が放たれる。


1番目の受験生が放った刃とは桁違いの轟音は伊達ではなく・・・ミーリィの風は易々とデコイ人形を両断し、訓練場の壁に到達するとそこにも大きな傷を付け、やっと消滅した。



「この位出来なくてどうすんのさ・・・アカデミーで上を目指すんだったらね」



あっさりと人形を破壊し、フンと鼻を鳴らすミーリィに6人の受験生達は項垂れる。まざまざと実力の差を見せつけられたショックは大きい・・・


だが、そんな彼等が完全に自信を失うのは寧ろこれからであった。



「【鎌鼬(カマイタチ)】か・・・自分や師匠以外のを見るの初めてだから新鮮だな」


「・・・あっさり言うね。アンタも同じ技でやるのかい?」


「いや?違うけど」


「は?」



ミーリィが放った技。それはリクも得意とする【鎌鼬(カマイタチ)】を蹴りで放ったものだった。一目で自分の技を見抜くその様子に、リクが同種の技を使える事をミーリィも感づく。


なら同じ【鎌鼬(カマイタチ)】で威力を競うつもりか?と問うミーリィに対し、リクはその問いを否定する。



「それだと面白くないだろ?そっちが風なら俺は火で行くかな・・・【壱式・紅蓮(いっしき・ぐれん)】!」



リクは用意されていた鉄の棒・・・丁度片手で持てるサイズの剣に見立てた得物に炎を纏わせた。魔力(マナ)を調節し、使い慣れたいつもの剣の時より気持ち炎を抑え目にする。



「こんなもんかな?・・・ふっ!!」



短い気合の声と共に、リクはその場で炎を纏った棒を上段から振り下ろす。すると切っ先に当たる部分から炎が猛烈な勢いで迸り、目標である人形を覆いつくして・・・消滅させた。


燃やし尽くす、ではなく文字通りの消滅。それはデコイ人形の耐久力を遥かに上回る熱量の炎が一瞬で蒸発させてしまった為だ。


リク自身は十分に加減したつもりだったのだが、それでも威力が強すぎたのである。



「ありゃ?・・・思ったより脆いんだな・・・・」


「・・・化けモンかよ、アンタ・・・」



きちんと力加減をしたつもりの【壱式・紅蓮(いっしき・ぐれん)】で消滅してしまった人形・・・が立っていた部分を見て首を傾げるリク。異常な威力の戦技を目の当たりにした受験生達は声も出ない程唖然としていた。


先程、見事な【鎌鼬(カマイタチ)】を放ったミーリィでさえも、声を絞り出すのがやっとな程驚いている。そこに今度はリクと入れ替わる形でシルヴィアが魔法を放つ体勢に入った。



「じゃあ、次は私。・・・そうだなあ・・・私も火で!【一点集束:炎爆破(フレイム・バースト)】!!」



シルヴィアが放ったのは、今まで使う事が無かった火系統の広域爆破の魔法【炎爆破(フレイム・バースト)】・・・それを一点に集束させたものだった。


本来の魔法効果では自分も周りの受験生も巻き込んでしまう為、集束化の技術を用いてデコイ人形にのみ効果が発動するように調節したのである。


但し、シルヴィアは『敢えて』魔力(マナ)を抑える事なく魔法を発動させた。それは、ミーリィに対して彼女なりの『全力を出し切る』という意思表明である。


その結果・・・人形はまたしても跡形も無く消滅した。今度は爆破の影響で訓練場の床も一部が消し飛んでしまったが・・・



「あ・・・ちょ、ちょっとやり過ぎちゃった・・・かな?」



立て続けに人形が消滅してしまう威力の戦技と魔法を見せつけられた受験生達・・・そして監督役の教員さえも言葉を失い、呆然とする様子にシルヴィアは少し焦る。


そんな彼女が場所を譲り登場するのは、第5組最後の受験生。大柄で筋骨隆々としたアレイは堂々たる態度で、無手のまま構えを取った。



「二人とも凄まじいな・・・これは俺が一番見劣りする事になりそうだが、それでも・・・この程度、破壊するのは容易い事だッ!!」


吠えるアレイは【肉体強化(フィジカル・ブースト)】を発動させると、そのまま目標に向け全力で走り出し、一瞬で距離を詰めると右腕を高々と振り上げる。



「喰らえぇぇぇぇッ!!!!」



剛腕一閃。叫びと同時に人形の頭頂部へと振り下ろされたのは、アレイの必殺の拳。無手にも関わらず、鍛え抜かれた体を【肉体強化(フィジカル・ブースト)】で更に強化した渾身の一撃は、デコイ人形を真っ二つに引き裂き・・・そのまま床を砕く。



「いや・・・十分えげつないと思うぞ、アレイ」


「お前達二人に比べると地味じゃないか?破壊さえ出来れば問題はないのだがな・・・」



力ずくで人形を粉砕したアレイの背中にリクが呆れた声を掛ける。しかし言われた側のアレイは『派手さ』が足りない事が不満なようで、しかめっ面をしていた。



「・・・・・はっ!?み、皆さんお疲れ様でした!これで5組目の前半試験は終了です。後半の試験は昼食後、戦技教練グラウンドに集合するようお願いします・・・」



呆然としたままだった監督役の教員が、リクとアレイの雑談じみた感想を聞き、(ようや)く我に返る。


気を取り直して・・・いや、まだかなり混乱状態ではあるが、それでも教員は、続く後半の試験が午後からである等の連絡と説明を行い、解散を宣言した。


頑丈な測定具としてアカデミーが他に誇るデコイ人形が、2体は完全破壊、2体は消滅という前代未聞の事態の発生・・・


この影響で、代わりのデコイ人形が用意されるまでの間、6組目以降の受験生はかなりの時間を待たされるという被害を受けるのであった。




次回から男女別の後半試験に入りますので、久々の個人視点でのお話になる予定です。


ランキングへの道は果てしなく険しいですね・・・一度でいいから端っこに載りたいものです。


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これからもご愛読の程、よろしくお願いいたします。



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