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第37話 『実技試験を控えて』

お待たせ致しました、第37話です。

前回登場出来なかったもう一人の新キャラがお目見えです。



リクと別行動を取る事になった為、食堂を離れ校舎から外に出たシルヴィアは、周囲の建物の配置を確かめていた。


アカデミーの敷地はかなり広大なもので、まだ短時間しか歩いていない彼女はその全容を掴みかねており、取り合えず目に付く施設を順に見て回る事にしようと考える。



(思ってたより広い・・・あっちの施設は多分、魔法系の実技用施設か研究用施設の建物。向こうのグラウンドみたいな所は、結界魔具が有ったから多分戦技訓練用、かな?)



遠目から施設を見ては、考えを巡らすシルヴィア。辺りには昼食を終えた受験生たちが、思い思いに結果発表までの時間を過ごす姿が見られる。


そんな中、周りの受験生から距離を置き、壁を背にして佇む獣人族の少女が目に留まった。



(あの女の子・・・どうして一人で居るんだろう?多分、人狼族(ウルブス)の子だと思うけど・・・)



小首を傾げ、不思議に思うシルヴィア。他の獣人族の子達も多数見受けられるアカデミーの受験生から、わざわざ距離を開けるようにして佇むその姿は、まるで何かの襲撃に備えているかの様にさえ見える。


しかし、シルヴィアはその表情にどこか張り詰めた空気を感じた。他者への接し方が分からないのでは無く、わざと自分から周囲を拒絶しているのではないか・・・そんな気がしたのだ。


意を決した彼女は、狼の特徴を色濃く持つ獣人族・・・人狼族(ウルブス)の少女へと近づいていく・・・が



「・・・チッ」


「あ、あれ?」



何の構えも用意もなく、普通に歩いて近づこうとしたシルヴィアの動きに気付いた少女は、一瞬鋭い視線を向けたかと思うと、小走りにその場を去ろうとする。


予想外の行動に呆気(あっけ)にとられるシルヴィアだったが、こちらもつられて小走りで駆け出す。


丁度、軽い追っかけっこの形で少女二人が他の受験生達から離れていくのだが・・・



「・・・しつこい奴だなッ、アタシについて来れる人族なんざ居ないっての!!」



一人の時間を邪魔された、とでも感じたのか人狼族(ウルブス)の少女は前傾姿勢を取り加速する。一瞬で風を切る様な速度に到達し、そのまま引き離そうとする少女だった・・・が。



「早い・・・けど、これなら追い付けない速度でも無いかな?【走破】だと・・・【高速走行】を引き離せないから、ね」


「げッ!?嘘だろ!?・・・お前、ホントに人族かよ!?【高速走行】なんてアタシ達獣人族でも滅多に発現しないっての!」


「ちょ、ちょっと酷くないッ!?私、れっきとした人族だよぉ!」



すぐ後ろから聞こえる声に人狼族(ウルブス)の少女は、狼の耳と尻尾をピン!と立てて驚く。


それもその筈・・・引き離すどころか、シルヴィアは涼しい顔でピッタリと自分の速度に合わせて走っていたのだ。


獣人族特有の高い身体能力に加え、彼女は【走破】を発現しており、足には特に自信を持っていた。


それ故に人族の少女が自分について来れる訳など無い、と思っていたのだが、シルヴィアは普通の人族からは既にかなり逸脱していた。


10年以上の間、幼馴染の少年と毎朝走り込んできた訓練の成果・・・シルヴィアの【高速走行】は【走破】の速度を大きく上回る効果を持つのだ。


それは(かつ)て、いつもリクを待たせてしまう事になった【スキル】の差を誰よりも知るシルヴィアだからこそ、瞬時に判別出来たのだ。あれは以前の自分が持っていた【スキル】であると。


故にシルヴィアは【肉体強化(フィジカル・ブースト)】や【風の疾走】を行使する事無く、ただ走って追い付いたのだった。



「ったく、なんなんだお前・・・アタシに関わってもロクな事ないぞ?」


「そ、そんな事無いと思うけど・・・ねえ、ちょっと聞いても良い?」


「・・・何だよ?」


「どうして一人で・・・ううん、誰も近寄らないようにかな?ほんの少しだけ殺気、放ってたでしょ?」


「・・・・・やっぱお前、人族じゃねーだろ?悪魔族か?それとも神族か?」


「違うってばっ!?」



相手の方が『今の状態では』自分よりも速い。その信じ難い事実を、苦虫を噛み潰したような表情で人狼族(ウルブス)の少女は認めざるを得なかった。


振り切る事を諦め、走る事を止めた少女はぐるりと振り返り、不機嫌を隠そうともしない声音でシルヴィアに話しかける。


灰色の長い髪が風に(なび)き、長身かつスレンダーな体形と相まってか、その姿は野生の美しさを放っていた。


投げ掛ける視線の鋭さは、正に獲物を狙う狼そのものであり・・・この視線に僅かでも殺気を込めたのならば、気の弱い人間はそれだけで戦意を喪失するのではないだろうか、と正面に立つシルヴィアは思う。


現に先程、壁を背にして立っていた少女は自分に視線が向きそうになる度に、そちらへ僅かな殺気を放ち、自分へ関わろうとする人間が無いように振舞っている様に見えたのだ。


その疑問をストレートに口にするシルヴィアに、今度は胡乱(うろん)な目を向ける少女。余程鋭い人間か、または実戦経験豊富な者でもない限り、あの僅かな殺気を感じる事など出来ない、と少女は思っている。


少なくとも、穏やかな雰囲気を纏う、目の前のシルヴィアにそんな気配を感じる事は出来ず、悪魔族や神族の類では無いかと逆に疑ったのだ。


無論、シルヴィアは人族の少女である。ただ、人狼族(ウルブス)の彼女の見立てはその本質を見抜くことは出来ていなかった。


まさか、目の前の少女がギルド本部でも指折りの撃破数(スコア)を上げている人物だとは思わなかったのだ。


必死に自分が人族だと訴え続けるシルヴィア。やがてその剣幕に押し切られ、人狼族(ウルブス)の少女は灰色の髪を乱暴に手で掻き、大きな溜息をついた。



「はぁ・・・もう良いよ。なんかメッチャ疲れた・・・あのな、アタシ達は受験生だ。要するに、次の実技試験が終わって合格するまでは敵同士なんだぞ?」


「敵ってそんな・・・そ、そりゃあライバル?だとは思うけど、いがみ合う訳じゃないんだし・・・」


「別に本気で敵視してる訳じゃないさ。ただね、結果が出るまで慣れ合うのは違うってアタシは思うだけ。実際、ここにとんでもない奴が居た事だしね・・・」


「・・・ふえっ?・・・もしかして、私の事?」


「アタシは一族の中で一番速いのが自慢だった。それをアンタはあっさり追い付いた・・・しかも、本気を出さずに、だろ?」



彼女の言っている事は正論だった。シルヴィアも、人狼族(ウルブス)の彼女も、現時点では試験に合格していない『受験生』であり『負けられない相手』なのだ。


それを『敵』と言い切る彼女は、自らを律し、自分の力に慢心する事無く・・・最後までベストを尽くす為に、敢えてあの様な態度で他者を寄せ付けないようにしたのだろう。


そして実際に、自分の脅威となる相手が居たのだ。ほぼ本気の速度の自分に難なく追い付いて来た栗色の長い髪の人族・・・



「アンタ、名前は?・・・アタシはミーリィ。人狼族(ウルブス)のミーリィだ」


「・・・ミーリィ、だね?私はシルヴィア。シルヴィア・セルフィード、だよ」


「実技試験じゃこうはいかないよ。次は本気で勝ちに行かせてもらうからね・・・アンタも本気で来な?」


「うん!宜しくね、ミーリィ!」


「だからッ!?慣れ合う気は無いっつってんだろ!?・・・アタシはもう行くからな!」



自分の最大のライバルはこの人族だ・・・そう直感した少女、ミーリィはもう一度鋭い視線で実技試験では本気で勝負する事を宣言するのだが、対するシルヴィアは満面の笑みで右手を差し出し握手を求めていた。


闘志を燃やしていたミーリィは、その穏やか過ぎる空気に完全にペースを乱され・・・真っ赤な顔で怒る様に、ドスドスと荒々しい足音を立てて歩き去る。



「・・・私も、ちゃんと本気で受けなきゃね。・・・あ、そろそろ筆記試験の結果を見に行かなきゃ。リっくん、もう来てるかな?」



行き場を無くした右手をきゅっと小さく握り、自分も実技試験では全力を出そうと一人心に決めるシルヴィア。


ふと気づけば、太陽が随分と西へと傾いている。思ったよりも大掲示板の有る場所から遠くに来てしまっていた事に気付く彼女は、小走りで元来た道を戻っていくのだった。



-----------------------



「・・・ふう。やっと家に帰って来れた・・・やっぱ俺、机にじっと向かうの苦手だ」


「ふふ・・・お疲れ様、リっくん。・・・まずは第一段階突破、出来たねっ」



少しシルヴィアが遅れたものの、概ね予定通りに正門で合流したリク達二人は徒歩で帰路につき、マルの出迎えを受けやっとの思いでリビングのソファーに体を預けて休んでいた。


大掲示板に張り出された筆記試験の結果は、文句なしの合格であった。帰り道を歩く二人は、個別に行動していた間の情報を交換しつつ、のんびりと話していたかったのだが・・・



「ひっきりなしに受験生の馬車に追い抜かれて、家に入るのに【隠密行動】まで使う羽目になるとは思わなかったね・・・」


「うっかりしてたよな・・・そりゃ住宅街なんだから、皆帰る方向同じじゃないか・・・間抜けだった」



そう、大事な事を二人は見落としていたのだ。北区域は住宅街であり、大体の王都に暮らす者は、何かしらこの区域に住居を持っている事が殆どだった。


つまり、家の中に入るまではボロを出す訳にはいかず、特に一緒に家に入るところを目撃される事は・・・絶対に避けなければいけない。


止む無くリクとシルヴィアは、街中にも関わらず【隠密行動】を発動させ、人目を忍んで帰宅したのだった。



「お疲れの所申し訳御座いません。実は・・・先程、奥様から通信が入りまして。リク様とシルヴィア様にお伝えする事が御座います」



二人の為にと熱いコーヒーと、温めのミルクティーを用意して来てくれたマルは、リクとシルヴィアを労いつつエリスからの通信・・・伝言がある事を二人に伝える。



「母さんが?・・・村に何かあったのか?」


「いいえ、そうではありません。リク様とシルヴィア様が実技試験に挑まれる際の注意事項をお伝えする様に、との事です」


「注意事項?なんだろ・・・おば様がおっしゃる事なら、守らなきゃいけない何かなんだろうけど・・・」


「奥様からのお言葉は『実技本戦ではくれぐれも本気にならない様に。やり過ぎると相手を本当に死なせかねないからね?』で御座います」



村に何か異変があったのではないか、と危惧したリクであったが、予想に反してエリスからの伝言は実技試験についての事だった。


それでもきっと大事な事に違いない、と言うシルヴィアは姿勢を正してマルの言葉を待つ。リクもまた彼女に倣って姿勢を正す。


そして・・・マルから告げられた伝言の内容にピシッ、と動きを止めた。



「流石は母さん・・・多分、父さんもだろうけど、先に釘さされちゃったなあ」


「うん・・・おじ様もおば様も、筆記で落ちるって思ってなかったんだね・・・どうしよう」



実の所、二人は実技試験の後半では若干、本気の力で挑もうと考えていた。ミーリィとの一件があるシルヴィアは尚更である。


リク自身も、アレイというかなりの実力を持つと見た男と、正々堂々とやり合う事を約束していた。


とはいえ、師匠達の指示は正論だ。実際に本気で挑むとなれば、相手の力量を見誤った場合・・・その命を奪う事が起こりうる。


実戦を幾度も経験してきたリクとシルヴィアは、魔物が相手ならば、その力・・・脅威度を即時に判断する事が出来る。


しかし二人は、ラルフとエリス以外に『人間』を相手に戦った経験が無い。あの二人が相手なら、それこそ全身全霊を掛けて挑んだとしても、そんな心配は必要なかった。


だが今回は同じ歳の・・・実力未知数の受験生達が相手になるのだ。万が一があってはならない。



「仕方ないな・・・最初は抑えていこう。ただ、本気を出しても大丈夫な相手にだけは・・・・」


「そうだね、相手に失礼だし・・・その時は、全力出そう?リっくん」


「ああ、負けるなよシル。俺も男子の部、絶対一位になるからさ」


「うん!負けられないもんね。私も女子の一番、取るからね!」



それは初めての師匠達に対する『小さな反抗』


ギリギリまでは指示に従うが、リクとシルヴィアには今回、どうしても譲れない事がある。それは・・・二人で主席合格を勝ち取る事。


それぞれがライバルと定めた相手にだけは、全力をもって応える・・・夜も更け始めたリビングで、二人はそう方針を固めたのだった。




分割していなければやはり一万字オーバーでした(白目)

どこかで『一回の更新は多くても一万字以内』と書いておられた方が居たので・・・


ミーリィはスレンダーですので、胸は平坦な方です。


皆様のご意見・ご感想・評価・ブックマーク等全てが励みになっております。

これからもご愛読の程、よろしくお願い致します!

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