第3話 『【スキル】、発動』
PCで投稿していますが…スマホ向けに改行した方が良いのでしょうか?
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太陽が真上に上る少し前。走り続けてきたリクとシルヴィアは、遥か遠くに見えていた山、その麓を流れる小川の畔までたどり着き、少し長めの休憩を取る事にする。
春を迎えた川の水は、山頂の雪解け水の為か冷たく澄んでおり、辺りに清涼な空気をもたらしていた。
「~~~!、ふうっ!何とか麓までは来れたなあ…昼過ぎちゃったらどうしようかと思った」
「ふぅ……ふぅ……っ……つ、疲れたよぉ……」
息一つ乱さず、気持ちよさそうに大きく伸びをするリク。
シルヴィアはというと、時々遅れながらも、どうにかリクに引き離されずに、ここまで付いて来られた事に安堵したのか、上がった息を整えつつ苦笑した。
「さて、と!…山に上る前に、ここでご飯を確保しよっか。川だし、魚もたくさん居そうだしね。シル、ナイフとか……持ってない?」
「うん…準備してないよ。あ…でも、尖った石でも何とかなるかも。捌くの、たぶん出来るよ」
何の説明もなく、放り出された二人にまともな装備品などある筈もなく。
リクも無茶は承知でシルヴィアに問いかけたのだったが…答えは予想とは全く違っていた。
何も持っていないのは兎も角、石で魚を捌こうとか何の冗談だと。
「エリスおばさんの本にね、石でも包丁みたいに切れるって書いてあってね。聞いてみたの。ホントに切れるの?って。そしたらおばさんが魔法で石をこう…削ったのかな?」
石が刃物になる、という本の記述に疑問をもったシルヴィアは、すぐさまエリスに真偽を確かめた。
そして…彼女の目の前で、件の『石包丁』なる物をエリスは事も無げに作り出し、実際にそれを使って、その日の夕食を用意してしまったらしい。
「かーちゃん……」
「それでね、石は硬くて…でも薄くって。こう、ええと…削って、刃物にする…のかな?うん、たぶんそんな感じだったよ」
母は無茶苦茶だ。リクは心底そう思って額を手で押さえたのだが、シルヴィアは気にする素振りも見せず、自分の見たものを、自分なりに解釈して説明していた。
その後暫く、作戦会議をした二人は取り敢えず…
『魚をどうにかして捕まえて、何とかして調理して食べる。水も汲んでおく』
という方針を決め、動き出す。リクが魚を調達し、シルヴィアが調理。シンプルな配置もすぐに決まり、
二人は石包丁を取り急ぎ作ることにする。
まずはリク。川岸から少し山の方へと移動し、手近な場所にあった岩に向かってゆく。
道すがら、30㎝程の木の枝…子供の手に持てば、ショートソードの様な物になるサイズの棒を拾い、岩に向かって……剣で斬り掛かる様な構えを取った。瞬間、棒から淡い光が放たれる。
「……やっぱ、風かな。出来るだけ、薄く。だったよ…なっ、と!」
軽く。しかし、驚く程しなやかな動きでリクは棒を振り下ろす。と、ゴォッ!!っと風が岩に向かって吹き抜ける音が響く。そして、一瞬の後、岩は真っ二つに割れて左右に倒れた。
岩の断面を軽く見遣ると、リクは次々と棒を振るう。その度に三日月状の風が生まれ、刃となって突き進む。
子供の背丈程あった筈の岩はこうして細切れにされ、片手で握れる包丁のサイズに適した欠片へとなり果てた。
【戦技:鎌鼬】
リクが放った風の刃。それは、この世界の力の根源と言われる…【スキル】と呼ばれるものだ。
【鎌鼬】は、得物を高速で振り下ろす際に生じる真空を刃として放つものだ。理屈は単純だが、真空の刃が発生する程の速度で武器を振るうのは並大抵の事ではない。
幾ら父親の人外じみた訓練を、知らず知らずこなしてきたリクもまだ5歳の子供だ。真空の刃は出せても、本来なら岩を斬り裂く威力が出せよう筈もなかった。
そこで、リクは【魔法:風系統】の【スキル】を重ねて放ったのだ。この場合、予め剣に纏わせる様なつもりで風を起こすイメージといった所か。
風の力を操る……一般的に『風の魔法』と呼ばれる物を総合したものだが、詠唱や集中、といった予備動作は必要ない。
ただ、力を行使する事を心に思い描き…力の根源と言われる『魔力』を、そのイメージに沿って注げば良い。これは一般に『魔力を練る』と呼ばれる行為なのだが……
それ以外にも、魔力を必要としない【スキル】も数多存在するので、一概には言えないが…【スキル】は『能力や才能』とか『得意な技や魔法』と解釈した方が分かりやすいだろう。
-四種族の者が、自分の努力や師匠の教え、経験した事などによって後天的に得る『力』-
誰にでも発現し、誰にでもある、自分だけの【スキル】は千差万別だ。
その後も風を駆使して、削り終えた石をシルヴィアに渡したリクは小川へ入っていった。
魚はどうやら素手で捕まえるつもりらしい。やる気満々の表情で腕を川へと突っ込んで行く。
一方、シルヴィアは出来上がった石包丁に草を巻き付けて握りを作る。
彼女は既に、魚を捌く用の石の台と、魚を焼く為に使う、焚き火用の石組みを作ろうと準備を進めていた。
勿論、彼女も【スキル】を行使して作る。それは、【魔法:大地系統】-大地に属する物を操る力。
必要な石を集めて組み上げる作業も、調理台代わりの石を運ぶ事も、シルヴィアには大仕事だ。
世間一般の『力』を大分逸脱した少女ではあるが、本来、5歳の女の子に力仕事は無理筋と言う物。
しかし、大地に属する物を操る魔法…この場合は石に干渉して自在に動かす、というコントロールで力を行使した。
魔法系統の【スキル】に共通する魔力の輝きを放つと、次々と石が宙に浮かび上がり、組体操のの様に整然と積み上がる。イメージした通りに魔力を練り上げられた証拠だ。
程なくして、石組みは完成。同様に、川の流れによって程よく削れ、平らな表面をした岩も移動させた。
手で撫でれば非常に滑らか。申し分ない調理台兼まな板が出来上がったのだ。
「……よしっ、と。味付けとか出来ないけど、頑張る!」
小さく両の拳を握って気合を入れるシルヴィア。ここからは彼女の別の力 -【調理】の出番。
才能、と呼ばれる側の【スキル】
それは意識する事も無く、常に効果をもたらし続ける……常時発動型と呼称される物だ。努力や経験で得られる点は同じなのだが、より個人に依存して発現する傾向がある。
これに対し、戦技や魔法と言われる【スキル】は能動型と呼ばれている。
素手掴み漁は思ったように上手く行かず、成果は散々だった。
結局、リクは風の魔法を駆使して魚を次々と焚き火の方向へ飛ばし、それをシルヴィアは拾う。
石包丁で下処理をして、適当な枝をこれまた石包丁で串へと整えて刺し、焚き火で炙る。
鱗や内臓、大きな骨を取り除いただけの素焼きではあるが、とても子供の仕事ではない。
ラルフだけではなく、エリスの教え…仕込みも相当無茶苦茶なレベルである事を伺わせるのに十分な昼食の準備が着々と進んでいった。
「腹減った~~……良い匂いだなあ。シル、もう食っても良い?」
「もう、リっくんったら。ちゃんと火、通ったかな?……うん、大丈夫。はいどうぞ、召し上がれ!…って、焼いただけなんだけど、ね」
獲れたての魚を川原で捌いて、すぐに焼いて食べる。
リクとシルヴィア、二人の力だけで用意した昼ごはんはお腹いっぱい食べられる量では無かったが、二人にとって何よりも美味しい、温かいご飯だった。
このお話におけるキーワード、【スキル】
一般のファンタジーの魔法とか技能というもの全てを内包させています。
常時発動型はそれこそ、個人の特徴も…
【腰痛持ち】とか【水虫】とかマイナスかつネタにしかならない枠もあります。