第2話 『走る少年と止める少女』
文章量、少し増えました。読み辛くなってないかな…?
ゆっくりと東の空が明るくなってくる。早朝の少し冷たい空気が心地良い。
今日も穏やかに晴れそうだ、とぼんやり考える村外れの牛飼いのおじさんが見遣る先を…
子供が二人。土煙を立てながら、馬の様な速度で駆けて行く。
村一番の早起きを自負するおじさんは、思わず目を擦りもう一度、土煙の方向を見つめて納得の表情を浮かべた。
「ああ、ラルフさんとこの坊主と…薬屋のお嬢ちゃんか」
村の子供は多くない。正確には、赤ん坊ならここ最近増えているが、リクやシルヴィアの年頃の子供は居ない。
それより年上となると、とっくに成人である15歳を過ぎている。
そして、リクの父親であるラルフは嘗て王都で名の知れた冒険者だったと聞く。
その過去を知る人曰く、「訓練の鬼」 「騎士団の人外製造機」 「武芸百般にして歩く非常識」等々…
「息子にも容赦無しか…しかも、余所さんの子供まで巻き込んで…いいのかね、あれ?」
おじさんは苦笑する。確かに自分の息子を鍛えるのは兎も角、シルヴィアを一緒に行かせるのは良いのか?
普通は誰もがそう疑問に思う筈。だが実際のところ、少女の両親はラルフ夫妻に娘を任せている。
教育方針も一任し、1年の内おおよそ半分。薬の材料を求めて各地を夫婦二人、旅に出ているのだ。
『娘もリクと一緒に伸び伸び育ってくれればそれが一番だよ、悪いけどまた暫く頼むよ』
『エリスさん、ご飯も勉強もお願いしてごめんなさいね?じゃあ、行ってきます!』
半年前。笑顔で娘の頭を撫でながら、シルヴィアの両親は旅立っていった。
何でも遠い南の地に行くそうだ。
尚、エリスはリクの母親で、この時は薬屋夫婦に『夫が暴走したら締め上げるから大丈夫』と返していた。
要するに、少年と少女の両親は変わり者同士ウマが合ったのである。
牛飼いのおじさんは両家と住む場所が遠く、詳しい事は知らないだけだった。
それでも、リクとシルヴィアの二人が早朝から走り回っている事は、村人にとって周知の事実、
この村…『ライラック』の日常なのだ。
「まあ、子供は元気が一番、だな。怪我するなよー」
遠く離れていく土煙に向け、エールを送ったおじさんは牛の世話へと戻っていく。
一方、その土煙。もとい、全力疾走の少年と、必死に追い縋って走る少女の方は…
「くっそー、全っ然近づいてる気がしない…何であんな遠くにあるんだよ、あの山!」
「ふぅ……ふぅ……リっくん、無茶苦茶だよぉ。何でいきなり全力なの…?」
「………あ、そっか。ごめん、シル。スピード落とすよ」
言われてみれば。と、何も考えずにフルスピードで飛び出した事を思い出し、リクはシルヴィアが
楽に付いて来れる程度に、走る速度を落とす。
「ごめんごめん。つい、いつものランニングのつもりになってた」
「はぁ……はぁ……うん……だと、思った・・・」
失敗した、と右手で頭を掻くリク。上がってしまった息を整えつつ、漸くシルヴィアはその隣に
並び、苦笑した。確かにいつものランニングならば、最初から最後まで全力疾走でもきっと走り切れる。
物心付くかどうかの3歳から、二人はいつも野山を駆け回っていた。いや、駆け回らされていたのかもしれない。
『村の中なら安全だからな。飯の時以外は外でこのコースでも思いっきり走って遊んで来い』
昔、ラルフから言われた言葉だ。一瞬、子供を外で遊ばせる、ただそれだけの言葉にに聞こえる。
だが、そこに含まれた『コース』という物が意味を全く違うモノに変えていた。
それは、成人用体力強化メニューを幼児向けに組み直した『訓練』そのものの内容。
見た目こそ、子供用に上り棒だの、雲梯だのと遊具を模した物を配置していたが、例えば上り棒は
最初は高さ1.5メートル程度の棒だったのに、翌日には2メートル。また翌日には2.5メートルへと。
雲梯は、1日毎に1本掴み手の棒が減って行く仕様にする等…
難易度は日を追う毎、またはクリアする度に爆上がりし、新しい障害を増やし、距離が伸びていく。
そして遂には村を1周する以上の距離のマラソンコース(障害付きハードモード)へと…
リク曰く、『野山ランニングフルアタック』 二人は5歳になる今日まで、ずっとそれをこなしてきたのだった。
そうして、5歳児としてあり得ない走り込み(?)の成果でリク自身、体力には自信を持っている。
しかし同時に、コースが変貌する度に日が暮れるまで走る羽目になった事も散々経験した。
そこから5歳児の彼が導き出した答えは実に単純だった。取り敢えず全力で走ってみる。
これだけだ。
行ける所まで全速力で走り、時間を少しでも稼いでおこう…と。
「気持ちはわかるけど、途中でご飯も、あとお水とかもどうにかしなきゃいけないし…考えながら行こう?わたし、そういう事なら得意だし…ね? 少しゆっくりめにしよう?」
シルヴィアは諭すようにそう言った。同じ5歳児ながら、遥かに大人な意見だ。
彼女はリク程体力に自信が無い。寧ろ、運動に若干の苦手意識さえ持っている。
同い年の少年は、同じ時から同じメニューをこなす際、常に自分の前で待っていてくれたのだ。
それはシルヴィアにとって、とても嬉しい事であると同時に、申し訳ない思いを抱く事でもある。
自分がちゃんと付いていけないから…と
しかし、彼女には少年には無い特技が身に付きつつあった。それが家事能力。
リクの母親、エリスの手伝いを自発的に行う内に、炊事はそこそこ出来る様になっていたのだ。
勿論、子供達だけで食事の用意などまだやった事など無い。ただ、出来るか出来ないかで言えば
『材料になる物さえあれば出来る』
その位の自信はあった。これならリクの役に立てる、と強くシルヴィアは思っている。
「確かにそうだよなぁ。ご飯も水も、俺…何も考えてなかったよ。…よし! 進みながら一緒に考えよっか」
「うん!…大丈夫、ちゃんと間に合うよ、きっと。わたし、頑張るからね!」
意見がまとまり、お互いににっこり笑う。年相応の子供らしい笑顔で、二人はまた駆け出してゆく。
朝日は少しずつ高くなり、ライラックの花咲く村の一日が動き出す。
「ま、待って!リっくん!速い、速いよぉ!」
「えー?……あ、まだスピード出過ぎだった…」
加減が上手くいかないリクが止まり、シルヴィアを待つ。追いついたらまた繰り返す。
どうにもペースが上がらない二人であった。
今更ではありますが、書き溜めておりませんので投稿は2日に1度程度が
限界かも知れません…




