第35話 『試験までの用意を』
お待たせ致しました、第35話です。
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激動の一日・・・もとい、一夜が明けた。
ガーディ邸の広さや設備の自重しなさっぷりに終始圧倒され、驚き・・・どっと疲れたリクとシルヴィアの二人は、夕食の後それぞれぷちマル達の案内で寝室へ向かい、特にリクはベッドに倒れこむようにして眠った。
マルの用意してくれた食事はとても美味しかったのだが、それさえも思い出せない程、二人は疲労困憊となったのだった。
大きな窓の前に備えられた、カーテンの隙間から差し込む朝日を瞼に感じ、大あくびをしながらリクは王都での初めての朝を迎える。
「ふ・・・わぁ・・・寝過ごした・・・早く起きて・・・走らないと間に合わ・・・あれ?」
大きく伸びを一つ。既に太陽が昇ってしまっている事に、半ば寝ぼけた様子のリクは思わずいつもの癖で飛び起きようとするが、視界に入る風景に戸惑い・・・自分が今どこに居るのか、という事を朧気ながら思い出す。
「あ・・・そっか、村じゃないんだった。・・・王都で普通に走ったりしたら迷惑だよな・・・って・・・うわぁっ!?」
「んぅ・・・」
寝ぼけた頭をスッキリさせようと、自身の短い黒髪をがしがしと右手で掻き、顔でも洗って目を覚まそうと思ったリクは、大きなベッドから身を起そうとして・・・飛び上がらんばかりに驚いた。
何故なら・・・そこには自分のシャツの裾を握ったまま身じろぐ、寝間着姿の幼馴染が眠っていたからだ。
「な・・・なんで!?・・・まさか・・・いや、落ち着け俺!・・・確かに昨夜は別々の部屋に案内された筈・・・なのになんで!?」
未だ気持ちよさそうに眠るシルヴィアを起こさないように・・・などという気を使う余裕もなく、混乱の極みに陥るリク。
一瞬、とんでもない事をしでかしたのかと、必死に昨夜の記憶を辿るものの、当然心当たりは無い。とはいえ、未婚の成人の男女が同衾した、という事実だけでも非常にマズい。
予想だにしない事態に完全に目が覚めたが、正直冷や汗が止まらないリクのパニックは、シルヴィアが目を覚ますまで更に10分以上の間続くのだった。
「・・・ふわぁ・・・おはよ、リっくん・・・」
「・・・お・・・おはよう・・・あ、あのさ・・・シル?」
「・・・んぅー?」
「・・・・・もしかしなくても、俺が寝た後・・・ここに来て、ベッドに潜り込んだな?」
「んー・・・うん・・・ちょっとね、寂しくなっちゃって」
半分以上寝ぼけたまま、大きく伸びをしてシルヴィアがベッドの上に身を起こす。
ずっと掴まれたままだったシャツの裾を離され、動く事が出来るようになったリクは、彼女に向き合うように・・・とはいかず、顔だけを向けて話し出す。
確かにそれぞれ別の寝室へとぷちマル達の案内で移動したのだが、親しい人間の居ない家の不慣れさからか寝付けなかったシルヴィアは、居ても立っても居られず・・・
疲れからか、ぐっすりと眠っているリクの部屋を訪れると、こっそりベッドに潜り込み、漸く眠りにつく事が出来たのだそうだ。
彼女の悪気無い大胆過ぎる行動に、リクは着ているシャツをびっしょりと冷や汗で濡らしながら、どうにか心を落ち着けようと懸命に試みる。
「シル・・・流石にこれはマズいよ。俺達もう子供じゃないんだからさ、一人寝にも慣れていかないと。何て言うか・・・」
「うん、そうだよね・・・ごめんね、リっくん。今夜はちゃんと自分の部屋で寝るから・・・それで、さっきから気になってたんだけど」
「何?」
「・・・・どうして顔だけこっちに向けてるの?」
「・・・・・うん、それは気にしないで欲しい。取り合えず顔洗ってきなよ?俺は汗を流したいから・・・朝風呂に行ってくるよ」
「そうだね。じゃあ、また後でね?」
栗色の長い髪をかき上げ、照れくさそうにはにかんだシルヴィアはリクの部屋を出る。その背中を見送り、リクは盛大に溜息をついた。
「危なかった・・・『こんなの』シルに見られる訳にいかないからなぁ・・・ああもう、朝から大変な目にあった・・・」
時折こちらの妙な動きを覗き込もうとするシルヴィアから、体勢を地味に入れ替えつつ『若い男の生理現象』を見られないようにしていたリクは、ずっと冷や汗をかいていた。
そのせいでシャツは絞れる程に汗で濡れてしまったのだが、もし見られていたとすれば今頃は大惨事になっていただろう。
ギリギリで危機回避に成功したリクの安堵も納得というものである。
「・・・朝から風呂なんて、父さんじゃあるまいし・・・でも、しょうがないか」
暫くの後、どうにか色々なモノを鎮める事が出来たリクは、昨日案内された風呂場に一人向かう。朝からその足取りは非常に重かった・・・
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「本日から3日後、今年度のアカデミー入学試験が始まります。リク様とシルヴィア様の受験に必要な物は既に提出済でございますが・・・実技試験に持ち込む事が可能な物はまだ分かっておりません。故に、お二方さえ宜しければ、ワタクシが王都の案内を兼ねまして商店の紹介をさせて頂きますが、いかがでしょうか?」
怒涛の朝にひと時の癒し・・・マルの用意した朝食を食べた後、濃い目の熱いコーヒーと、やや温めのミルクティーを貰ったリクとシルヴィアは、食事の片付けを終えてリビングに戻ってきたマルと話していた。
マルが言う通り、アカデミーの入学試験は3日後。まず筆記試験が行われるのだが、大多数の受験者はここで落とされるとの事だ。
試験結果は即日・・・夕方にはアカデミー内の大掲示板に張り出され、そこに名前が残った者だけが翌日以降の実技試験に進むことが出来る。
願書や身分を証明する様な書類一式は、既にマルが代理で提出しているという事で、筆記試験に必要な物は殆ど無い。
だが、そこで躓く事など考えても居ないらしいマルは、先に二人が不慣れな王都の案内を兼ねて、南区域の商店を巡る事を提案したのだ。
「南区域、だったっけ?アリシアさんとヒルダさんと通った辺り・・・だよな?」
「うん、薬舗もあったし・・・試験って多分、高性能な魔法具とかは禁止になりそうだし、何か考えておいた方がいいかも」
「自覚無かったけど、俺達が作ったのって・・・結構な性能だったんだよな?」
「うん・・・アリシアさん達も『知らない人間には使って見せない方が良い』って・・・おば様の作る魔法具とあまり変わらないのにね?」
「お二方の魔法具は、昨日鑑定させて頂きましたが・・・控え目に申し上げて、超一級品。王家の所有する宝と遜色ない性能でございます。よって、試験での使用はまず不可能かと思われます」
「・・・なら、試験勉強は明日からにして、今日はマルに一日案内をお願いするよ」
「畏まりました。それではご用意が整いましたらお声がけ下さい。ワタクシはいつでも大丈夫ですので」
実際問題として、リクのリストバンドと、シルヴィアのバレッタにブローチは、アカデミーはおろか王都でもまず出回らない、高性能な魔法具である。
マルの鑑定結果も『王家の宝物に数えられても当然な超一級品』となる程、その性能は王都の常識を遥かに逸脱している。
実技試験で使おうものなら、それだけで主席合格も確定・・・そんな物の使用許可が出る訳はまず無いだろう。
それに、これからここで暮らして行く為には、普段着も含めまだ足りない物も多い。丁度良い機会だろう、とリクもシルヴィアも考えたようで、マルの提案を受け入れるのだった。
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リスティアの南区域。通称『商店街』と呼ばれる区域は、ガーディ邸がある北区域とは丁度反対側・・・坂を下って行った先の中央広場を越えた先に広がっている。
これまでリクとシルヴィアが行ってきた魔物の討伐依頼を出していた『ギルド』もこの区域にある、と二人の先を行くマルが教えてくれた。
「元々はこれといった後ろ盾の無い冒険者の方々が、相互に助け合う・・・互助組合として作られた物ですが、現在では南区域の商業活動も含め、幅広い分野で力を持つ機関でございます」
「そっか・・・『冒険者カード』に預貯金の機能とかがあるのも、ギルドが一括して管理してるからなの?」
「左様でございます。商人の方達も独自にシステムを構築しようとされたらしいのですが、それ以上にギルドのシステムに相乗りする方がメリットが多いと判断されたと聞いております」
「・・・何にしても、今は顔出さない方が良いって父さんから言われてるし。用事がない限りは入らないでおこう」
ここリスティアには冒険者ギルドの本部がある。それは以前から聞いていたリク達だったが、同時に用事がない限り近づくなとラルフに厳命もされていた。
当時未成年であったリクとシルヴィアの魔物討伐数は、非公認の物も多かったが、それでも本部の冒険者達の撃破数を圧倒的に上回っていたのだ。
直接の面識が無いとは言え、仮登録カードの提示を求められれば一発でバレる。そうなればどうなるのか・・・
『アカデミーなんかどうでもいいから、今すぐ正規組合員に!って強引な勧誘を受けるぞ』と、半ば脅しにも似たラルフの言は二人にしっかりと刷り込まれていたのだった。
ギルドの本部を横目に見つつ、リクとシルヴィアはマルの勧める商店を巡り、日用品や衣服、実技試験で使う事が出来そうな装備などを見繕う。
支払いはこれまでの貯えを、緊張した顔のシルヴィアがカードから引き出して行う。どうしても『あり得ない程の残高』が怖い彼女である。
「大体はこの辺りまでが商店の並ぶ区域でございます。リク様、シルヴィア様、ご満足いくお買い物は出来ましたでしょうか?」
「うん、ありがとうマルちゃん。戦闘衣もダメだろうし、服とか装備とかもいっぱい買っちゃったけど・・・全部入れちゃって大丈夫なの?」
「お任せ下さいませ。ワタクシの胴体部には収納用魔具が内臓されております。ささ、ご遠慮なく」
「すげぇなあ、マル・・・」
「ああ!大切な事を忘れるところで御座いました!!・・・この先にも店舗が立ち並ぶ区域が御座いますが、くれぐれもお二方はお近づきになりませぬようお願い致します」
「ん?まだ店あるの?・・・でも、近づくなって」
「この先には歓楽街が御座います。ギルド公認では御座いますが、止む無き場合以外は、近づく事自体をお勧め致しかねます」
結構な荷物になってしまった買い物を、マルが腹部・・・と思しき場所を開き、収納用魔具となっている箇所に次々と片付けてゆく。
その最中、大事な事を伝え忘れた、というマルは輪っか状の手で南区域の更に奥を指し、歓楽街・・・夜の街がある事を教え、行かないようにと注意をする。
無用なトラブルに巻き込まれないように・・・と考えての事だったのだが、成程とその言葉に頷くリクとは対照的に、シルヴィアから笑顔が消えた。
「・・・・リっくん」
「・・・え?・・・ど、どうしたんだシル?」
「絶対、行っちゃダメだよ?」
「え・・・行かないけど・・・・待ってくれ、シル。なんか母さんそっくりの目してないか!?」
「い・い・か・ら、はっきり返事、して?」
「は、はい。絶対行きません。約束します」
「・・・・・やはりシルヴィア様こそ若奥様とお呼びするにふさわしいお方です。一瞬、奥様がおられるのかと・・・」
笑顔が消えたシルヴィアの目は、まるでエリスがそこに居るのかと錯覚するほどに冷たい物だった。瞳の色こそ違うが、纏う雰囲気が凍てつくあの視線と相まってそっくりで・・・
言われるがままに、決して近づかない事を誓うリクと、感慨深げにその姿を見守るマル。この後、屋敷に戻って夕食が終わる頃までシルヴィアはどこか不機嫌になるのであった。
次回から入学試験が始まります。新キャラ達も登場予定です。
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