第34話 『その名は、マル』
お待たせいたしました。第34話です。
重ね重ね、投稿が遅くて申し訳ありません・・・
リクとシルヴィアが辿り着いた邸宅に待っていた金属製の樽・・・の様なモノ。その背丈・・・と言っていいのかどうかは兎も角、サイズ的にはリク達と同じ位の謎の存在。
日の光を受け、銀色に輝くボディから蛇腹状の腕部と脚部、開閉する輪っか状の手とインゴットの様な形状の足・・・そして球状の目。
一目見て異様そのものの姿をしたそれは、恭しくお辞儀をし、流暢な言葉で挨拶を述べる。
想定すら出来なかった事態に、リクとシルヴィアは理解が追い付かず・・・
『マル』と名乗ったモノに、兎に角話を聞いてみる事にするのだった。
「何なんだ、これ・・・いや、マルって言ったっけ?管理人ってお前の事なの?ていうか、若旦那様とか若奥様ってどういう事なんだよ?」
「わ・・・若奥様・・・あぅ・・・」
「おや?旦那様や奥様から何もお聞きではないのでしょうか?・・・それでは改めましてご挨拶を。ワタクシ、当ガーディ邸の管理人兼・メイド兼・コック長の『マル』で御座います」
「兼務多くない!?・・・旦那様と奥様って、父さんと母さんの事か?」
「左様でございます。ワタクシは奥様・・・エリス様により作られた存在、【自動人形】で御座いまして、旦那様方がご不在の間の屋敷一切の管理を任されております」
リクは疑問に思った事を次々とマルにぶつけていく。シルヴィアが真っ赤な顔であうあう言っているので、彼が聞かなければ話が進まないのだ。
矢継ぎ早に質問されるマルは、一つ一つその疑問を解消出来る様に、説明をしていくのだが、その度に新たな疑問が湧いてきたリクがまた質問をして・・・
大体の事情を何とか理解するまで10分程を要する羽目になってしまった。
まず、【自動人形】・・・エリスが開発した、とマルが言うようにその本質は魔具の一種である。
マルが直接本人から聞いた所によれば、たまたま余っていた素材が有り・・・『家の事を任せられる物を生み出せないか』と研究を始め、その末に生み出された作品、という事らしい。
自我を持ち、流暢な会話を行い・・・複雑な家事も難なくこなす存在。一体どれ程の技術と素材がつぎ込まれているのか、リクには想像さえ出来なかった。
「あぅ・・・え、えっと・・・私達がここに住むのを、マルちゃんがサポート・・・してくれるの?」
「左様でございます、若奥様。ワタクシは一日千秋の思いで、お二方をお待ち申し上げておりました!どうか当屋敷の事はワタクシにお任せ下さいませ!」
「はぅっ・・・そ、その・・・あうあぅ」
何とか会話が出来る程度までは回復したシルヴィアだったが、再びの『若奥様』攻撃であっさり撃沈される。
見かねたリクは真っ赤な顔でふらつく彼女を支え、マルに一つ提案・・・お願いをする事にした。
「・・・マル、悪いけどさ。シルが大変な事になるから・・・俺達の事はリクとシルヴィア、で頼めないかな?」
「畏まりました。それでは失礼ながら・・・リク様、シルヴィア様、とお呼びする事をお許し頂けますか?」
「うん、それで頼むよ。これからよろしくな、マル!」
「あうぅ・・・よろしくね、マルちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします!!不肖、このマル・・・お二方の快適な王都生活を精一杯サポートさせて頂きます!さあさあ、お疲れでしょう。まずは中で一休み致しましょう。すぐにお茶をお入れしますので・・・」
自分達の呼び名を名前にして貰う事を取り付け、どうにかシルヴィアも少し落ち着き始め、改めて二人はリスティアでの同居人へ挨拶をする。
久方ぶりに屋敷に主を迎える事が出来たマルは、それこそスキップでも始めそうな勢いで喜び、リクとシルヴィアを屋敷の中へと誘うのであった。
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「・・・やっぱり広すぎだろ、この家・・・」
「はぁっ・・・でも、やっと人心地って感じだよぉ・・・」
マルに案内されたのは、屋敷の一階中央部にあるリビング兼応接室・・・という広すぎる部屋だった。
今、二人はマルが用意してくれた飲み物を飲み、シルヴィアの言通り漸く落ち着くことが出来た・・・という心地で、豪華なソファーに身を預けて、ぐったりとしている。
リクには濃いめのコーヒー、シルヴィアには甘いミルクティーと、二人の好みを聞いた上で、手早く美味しい物を用意してきたマルの手際の良さは、流石にエリスの作品である事を如実に語っていた。
「お口に合いましたでしょうか?何分、リク様とシルヴィア様にお飲み物をご用意させて頂くのは初めてなもので・・・」
「あ、大丈夫。美味しいよ・・・ありがとうな、マル」
「ホント・・・凄く落ち着くよ。マルちゃんって凄いね?」
「お褒めに預かり恐縮です。奥様には『温い。もっと熱いのを淹れて』と良く叱られております故、少々熱めかと思いますが・・・」
「ああ・・・だから母さんの淹れ方っぽいのか・・・何ていうか、苦労してるんだな・・・マルも」
銀色のボディを、簡素な・・・どうやらマル専用の持ち運べる物らしい椅子に落ち着かせ、マルは飲み物の加減を二人に聞く。
エリスに相当仕込まれたらしく、彼女の好みを参考に淹れられたコーヒーとミルクティーに、リクが懐かしさを感じた程、その腕前は確かな物だと言える。
温かい飲み物に、ここまでの旅路の疲れが少し癒される。リクとシルヴィアは、すっかりこの奇妙な管理人・・・これからの家族に好感を抱いていた。
「そういえば、気になってたんだけど・・・マルちゃん、そのボディの素材って、銀色だけど・・・もしかして、魔法銀?」
「おお、シルヴィア様は博識でいらっしゃいますね。左様でございます、ワタクシのボディはエリス様が自ら加工された魔法銀製でございます」
「って、オイ!・・・魔法銀ってかなり希少な金属だろ?」
「はい、リク様。ですが、あの奥様の事でございます。憶測ですが『私が作る以上は最高、と言える物以外あり得ない』と拘られたのではないか、と」
「うわ・・・あり得る・・・っていうか、それしか考えられない」
「流石はおば様というか・・・マルちゃんって、おば様の・・・それこそ技術の集大成、っていう感じなんだね。ホントに私達と何も変わらない位、人間らしいし・・・」
魔法銀は、魔力の伝導率が非常に良く、軽量かつ頑丈な金属である。
通常、鉱山で鉄鉱石の採掘中に稀に見つかる事が殆どで、流通量は多くない。それ故、希少な金属となっているのだが、エリスはそれをマルのボディに使ったらしい。
マルの最初の説明からすると、余った素材を使ったとの事だったが、製作者であるエリスは途中から本気になったのだろう。希少な材料であろうが惜しみなく投入し、最高の作品を作り上げたのだ。
そして、息子であるリクは母の性格から、マルの憶測は間違いなく当たっているだろう・・・と思うのだった。
シルヴィアはと言うと、ミルクティーのカップをテーブルに置き、興味深そうにマルの事を見ていた。
じっと目を凝らして見るものの、エリスが一体どのような魔力回路を彫り、完成させたのか・・・皆目見当もつかず、溜息をつく。
二人が中身を飲み干したカップを丁寧に片付けながら、マルはリクとシルヴィアに話しかける。因みに口に相当する部分は動かず、拡声器の様な構造になっているようだ。
「ワタクシの事は、時間のある時にでもゆっくりとお調べ下さい。それでは夕食の支度を致しますので、お二方は湯浴みでもされて旅の疲れを癒して下さいませ」
「あ、ああ・・・。そうだな、風呂もあるんだ・・・そりゃこの大きさなら、父さんと母さんが作らない訳ないよなぁ」
「嬉しい・・・髪が埃まみれだったから、ずっと洗いたかったの。マルちゃん、お風呂場ってどこにあるの?」
「浴場へは案内を付けさせて頂きますのでご安心を。男女別となっておりますが、その点はご了承頂きたく思います」
「あ、交代で入らなくていいのか・・・って、その拘り方は父さんが犯人だな、これ」
「おじ様、お風呂大好きだもんね。おば様も呆れる位よく入ってたし・・・」
旅の疲れを心配してか、風呂を勧めて来るマル。実際、色々な事が起こった為二人はかなり疲れていた。特に、埃で汚れてしまった髪を気にしていたシルヴィアには朗報だろう。
一方、やたらと広い屋敷に入浴設備がある事自体には驚かないリクだったが、男女別に風呂を作った辺り・・・風呂好きな父親の影が頭をよぎり、若干呆れてしまう。
あの父と母は、本当に自分達『だけ』の事は自重するつもりが欠片もない。だが、息子はほんの少し感謝もしていた。
男女共用だと、自分が先に入ってシルヴィアを待たせる訳にはいかない。とはいえ、意外に疲労が溜まっている事を自覚する今は、待っている間にそのまま寝てしまうという心配があったのだ。
「ではご案内をさせて頂きます、ワタクシの分身とも言える者達をご紹介致しましょう・・・ぷちマル、集合!!」
「「えええええっ!?」」
マルが右腕を高く掲げ、号令を掛ける・・・と、屋敷のあちこちからガシャン、ガシャン、とけたたましい音が響き出す。
案内をする者を呼ぶという事らしいのだが、既視感のある足音に驚く暇もなく・・・三分の一程度のサイズのマルそっくりのモノがリビングへと集結してきた。
その数、20体。部屋中が銀色の樽で一杯になるという、異様極まりない光景にリクとシルヴィアは小さく叫んでしまう程驚く。
「これが、奥様から与えられましたワタクシの分身・・・兄弟、というべきでしょうか?自我はございませんが、ワタクシ一人では手が行き届かない部分がありますので、この者達もリク様とシルヴィア様のお手伝いをさせて頂きます」
「母さん・・・やり過ぎだ・・・」
「ええっと・・・この子達は、マルちゃんが指示をすれば動く・・・んだよね?」
「左様でございます、シルヴィア様。基本的にワタクシとぷちマル達は常時繋がっておりますので、如何なる事にも即対応出来るものと自負致しております」
マルが言うには、この『ぷちマル』なる小型のマル達は、マル本体からの指令により、屋敷内ならばどこであろうとも自在に動かす事が出来るらしい。
ぷちマル達からの情報は常にマルに共有されるので、もしもぷちマル達の手に余るような案件である場合は、即時にマル自身が対応に赴くとの事だ。
これら全てが母の手によるものだと確信したリクは、眩暈がする思いであった。この分だと、屋敷全体が魔具だという事すらあり得ると嫌な予感さえする。
兎も角、リクとシルヴィアはそれぞれぷちマル達に伴われ、浴場へと移動する。男女別に分けられた脱衣所で服を脱ぎ、更に奥に進んでみれば・・・かなりの広さの岩風呂が温かな湯気を出していた。
「ひ・・・広すぎるだろ・・・父さんも母さんも自重ってものを知らなすぎだ」
一体何人同時に入る設計なんだ、とリクは溜息交じりに呟く。広すぎる風呂場に自分の声が反響するのを聞き、諦めの表情で湯に浸かる。
隣の女湯から『ふえぇぇ・・・』と響くシルヴィアの声からして、あちらも大概な事になっているのは間違いない。
「・・・俺達、こんな凄い家で普通に暮らしていけるのかな・・・いや、考えちゃダメだ。今は入学試験に合格する事が最優先なんだ・・・」
マルが用意してくれているという夕食を食べたら、今日は早く寝よう・・・色々と疲れたリクは、半分湯に沈みながらそう思うのだった。
『樽だらけのカラクリ屋敷』という感じのガーディ邸でございます。
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