第16話 『12歳の決意 - Side:シルヴィア -』
お待たせ致しました。第16話です。
今回はシルヴィアのお話です。
「「絶対、強くなる。別々でも、ずっと一緒に強くなる」」
指切りをして、リクと固く約束を交わした山から戻ってから一日。シルヴィアは自宅である薬舗…『セルフィード薬品店』、その調合室に居た。
ここ2年の間、両親であるロイとメルディアは、充分な在庫が溜まってきたらしく、村人の薬を用立てる事に注力するべく、旅には出ていない。
その為、シルヴィアは寝起きは自宅に戻ってするようになっていた。尚、食事に関しては両家合同で取っている。これは経費節減の一環、だそうだ。
「……リっくん、大丈夫かな…」
日が十分に上り、朝の爽やかな空気が漂う時間帯。リクがラルフに決死の訓練を志願していた頃、シルヴィアは一人呟く。
いつもの麻で作られた訓練着…女性らしい体付きへと成長したシルヴィアの物は、リクとは違うデザインになっては居たが。
しかし、彼女の今の服装はそうではなかった。
自宅で薬草や薬品を扱う際は、父母が着用しているのと同じ『薬師の作業着』へと着替える。
丈の長い、白いスモックの様な服は簡易的な魔具となっており、足首付近までを薄い障壁で覆う事が出来る。
調合の失敗は時として、薬品の飛散や爆発を伴う事が有る為、この様な装備の着用が必須なのだ。
シルヴィアは、長く伸びた栗色の髪を後ろで一本に縛り。まず、一日10本の制作を課題とされている『高位回復薬』の調合に取り掛かる。
高位回復薬は、一般に『普通回復薬』と呼ばれる、外傷を治癒する為に用いられる薬に属する物の一つだ。
回復薬は高位の治癒魔法には及ばないものの、誰にでも簡単に扱える為広く流通しており、騎士や冒険者達を中心に多数の需要もある。
今、シルヴィアが調合を開始した物は、一般販売されている中では最高位に近いとされるもので、良質な材料と熟達した調合技術・知識が必要とされる、難度の高い物だ。
その分効果はかなりの物で、骨折程度ならば瞬時に治癒される。主に重傷者の命を救う為に、戦場の切り札として求められる事が多い回復薬として知られる。
但し、近年は材料である薬草の価格が高騰しつつあり、また高い技術を持つ薬師の不足から、高位回復薬級の回復薬流通量は減少傾向にあった。
ライラックの村では、ロイとメルディアが10年以上に渡り、各地を巡って集めた豊富な薬草素材や、貴重な薬品が揃っており、それは王都の一流薬舗を上回る品揃えを誇る。
そして、夫婦共に一流と呼べる二人は、旅に出なくなった今、専ら村での調合と、娘への技術指導を行っていた。
娘が自ら望んで『薬師の修業を付けてほしい』と頼んできたからだ。最初こそ戸惑いもしたが、子供に親の技術を受け継ぎたいと言われて、断る理由がある筈も無く。
そこで主に午前中、自分達の手が空いている時に、ロイとメルディアが交代で教えることになった。本日の講師は母・メルディアである。
「そうそう…良いわよぉ、シルヴィア。もうお母さんより上手になったんじゃない?あっという間に出来上がりそうねぇ」
「わ、私、まだお母さんみたいに上手じゃないよ…?……ん~、やっぱり色がまだ薄いよ」
母と娘は同じ様に、10本の高位回復薬を調合していた。材料となる薬草数種を乳鉢で磨り潰し、魔具で精製した水…不純物の無い『純水』で溶かす。
更に、何度か濾過を行い、水溶液に混ざる物の無い様に整えた物を、専用の瓶へと注いで完成するのだが・・・
メルディアの物と、シルヴィアの物は同じ、青い色の回復薬である。しかし、シルヴィアが溜息交じりに言う様に、両者の色の濃さが違う。
シルヴィアの高位回復薬はやや薄い青色であるのに対し、メルディアの物は明らかに色が濃く、深い青色になっている。
この色の濃さの違いは、効果の違いこそ無いが、回復薬の保存可能期間が大きく異なる。
色が濃ければ濃い程、不純物は少なく、長期の保存に耐える回復薬となるのだ。専用瓶は密閉性が高く、少々の事では腐る事は無いが、純度が高く長期保存が可能な回復薬はそれだけで価値が上がるのだ。
未だ、母の作る物に品質では及ばない。その事実を改めてシルヴィアは知るのだった。
「この歳でこれだけ出来れば十分よぉ。調合の手際は文句無しだし、正確に分量も見れてるわぁ……後は、繰り返し練習、よ?」
「うん……お母さんにも、お父さんにも負けない位、良い薬を作れるように頑張るね!」
「うふふ……楽しみねぇ」
気合を入れ直し、今度は父からの課題である『魔力回復薬』の調合に取り掛かるシルヴィア。メルディアは優しく娘の頭を撫で、微笑みながら見守る。
魔力回復薬は、消費した魔力を回復させる際に用いる物で、『魔法回復薬』とも呼ばれる。
普通回復薬とは異なり、一種類しか調合出来る物は開発されておらず、作成した薬師の腕によってのみ、効果の良し悪しが決まる。
そして、最大の違いは材料となる薬草や薬品、生成用の魔具以外にも必要な物がある。…薬師自身の魔力だ。
元々、豊富に魔力を含む薬草を主原料にしている魔力回復薬だが、自然の薬草に含まれる魔力だけでは、戦場で大きな効果は望めない。
瞬時に、戦闘継続が可能な程度の魔力を回復させる…その為に編み出された調合法が、作成者自らの『魔力を込めて薬効を増幅させる』方法だ。
薬師の魔力を媒介として、本来薬草が持つ魔力との間で、相互に反発する性質を逆手に取り、渦状に魔力練り上げる事で効能を上げて行く。
但し、この製法は危険を伴い、製作者の魔力のコントロールが上手く行かない場合、爆発の恐れがある。
それ故に、高位の薬師には正確な魔力の運用術が求められる。この製作難易度の高さも相まって、魔力回復薬の一般流通量は非常に少ない。
シルヴィアは、先程の高位回復薬同様、乳鉢に摩り潰した材料に純水を加え、濾過した原液に慎重に己の魔力を注ぎ始める。
多過ぎず、少な過ぎず。ゆっくりと、慌てる事無く。正確に魔力をコントロールして行く。これは魔具制作にも通じる技術だ。
元々、彼女は魔力のコントロールに長けている。それは、性格的なものも多分にあるが、魔法系の【スキル】を数多く発現させ、リクと共に毎日訓練に明け暮れた何よりの成果である。
攻撃や防御に魔法を行使し。魔具を作成したり、修理したりと、日常のほぼ全ての場面で魔力を扱って来たシルヴィアは、この点において、大人も顔負けの技術を既に手にしていたのだった。
「……んっ!……出来た。お母さん、どうかな?」
「ん~?……うん、良い出来だわぁ。これならお父さんも褒めてくれる、立派な一級品よぉ」
「ホント?……良かったぁ。これで、お昼からエリスおば様の訓練も受けられるねっ」
「えっ!?……え、ええ。そうねぇ、お昼ご飯を食べてからなら…大丈夫じゃないかしら?…ちょっと、エリスに言ってくるわねぇ…」
娘の作成した魔力回復薬に合格点を出し。そろそろ昼食の支度を一緒にしようか、と考えていたメルディアは一瞬、絶句する。
シルヴィアは満面の笑みを浮かべ、午後からはいつもと同じく師匠の訓練を受けると言い出したのだから。
流石にオーバーワークでは…と思う母心だが、おとなしそうに見えて娘は意外にも頑固だ。言い出したら恐らく止めるだけ無駄だろう。
隣家のエリスに承諾を得る為、玄関の戸を開けて外にでるメルディアは思う。これもきっと…
「リクの力になりたい一心なのねぇ、きっと。…うふふ、娘ながら可愛いわぁ~」
少々、無茶をしないかだけが心配なものの。ご機嫌なメルディアは軽くスキップする勢いで出かけて行った。
予想よりは動いてくれました・・・多分。
月末までに10万字・・・は残念ながら届かない公算が大です。
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