小話13.タイム・イズ・番長
グローリエルは最初、「『グラードの案内役』としてダイセンと同行する」と言ってマシタが、彼女は村から出たことすら最近の超世間知らずデス。知っていることも閉鎖的な村に居てはかなり限定的で、案内できるほどグラードに精通してイマセン。ダイセンに同行を認めてもらうために、自分をちょっと盛っていたのデスネ。
小話13.タイム・イズ・番長
時は遡り、四人が森を歩く場面からである。
フロンはウエストポーチから金色の『クロッグ・バッガ』を取り出し、蓋を開くとガラスのはめ込まれた文字盤を眺めた。
「ゆっくりしすぎると時間に遅れちまう」
「あぁ、それ!」
グローリエルが彼女ににじり寄り、それをキラキラした大きな瞳で見つめる。
「クロバ! いいなぁ」
「『くろば』?」
眉をしかめるダイセンを眇めつつ、フロンは『クロッグ・バッガ』に繋がった鎖を手にし、本体をブラブラと宙に揺らした。
「携帯用の感応式陰陽計だよ。別に珍しいもんでもないだろ」
「私達の村じゃ陰陽計自体が珍しいの。ね、お兄様」
むっつりと頷く兄のマルディル。
「俺達エルフはあまり時間を気にしないからな。俺も持っていないし、持とうとも思わん」
「そんなこと言って! 興味あるくせに!」
「ない」
「むー」
グローリエルは片頬を膨らませるが、すぐに興味津々に金色に輝くそれを、また見つめた。
「ね、ね、これどうやって時間見るの?」
「それも知らないのかい!? ……はぁ、これだからエルフって奴は」
フロン、呆れと意外さで思わずため息が出る。
エルフはとんでもなく長生きの種族になる。ドワーフの寿命が70歳前後に対して、エルフはなんと600歳(グローリエルもマルディルも若く見えるが、その実、ここにいる他二人よりもずっと歳は上である)! 更に彼等は他種族との交流を極端に嫌い、閉鎖的な集落で生活しているときた。
そんな奴等からすりゃ、一日の時間を細かく気にする必要などないのだろう。長生きなのは羨ましいけど、こんな世間ズレ起こすなら自分は絶対エルフにはなりたくないね、と思いフロンは小さく首を振った。
そして、そのエルフさえ目じゃない世間ズレをしている男が興味深そうに顎を摩る。
「時間っちゅうことは、そりゃ『トケイ』か!」
「『トケイ』ねぇ……」
まさかウチが常識人側になるとはね。フロンはブラブラさせていたクロバを引き戻し、バシッと掴みとる。
「ま、世間知らず共のために、特別に説明してやろうじゃないか」
面倒げに言いつつも、フロンは口角を上げた。
ただ、エルフ共はともかくダイセンに色々教えるのは楽しい。理由の一つとして、何たって反応がいい。『グリッジレグル』を見た時にはどんな反応をするのか、今からでも楽しみだ。
「その代わり、バンチョ。後でその『トケイ』って奴のこと詳しく教えな」
そしてもう一つ。彼からは思いもよらない新しいことを知れたりするからだ。魔法が無い世界で発達した文明。興味が無いわけがない。
ダイセンが元々いたという『地球』。一体そこはどんな場所なのだろうか。彼女は見知らぬ異世界へと思いを馳せた。
*
携帯用感応式陰陽計『クロッグ・バッガ』! についての解説はあとがきを参照して頂きたい! ぶっちゃけると大して重要なものでもない。簡単に説明するなら、ダイセンの言った通り、『時計』である。手のひらサイズの懐中時計タイプを『クロッグ・バッガ』、お家に使うような掛け時計タイプは『クロッグ』、規模の大きなタイプは『クロッグ・モーラ』と呼ぶ。これくらいがわかっていれば問題ない。
それよりもいい機会なのでグラードの時間について説明しよう。
グラードの1日は全20時間となる。空が明るい『陽』が10時間、暗い『陰』が10時間だ。時刻の経過は『陽の1』『陽の2』・・・『陽の10』『陰の1』『陰の2』・・・『陰の10』そして『陽の1』に戻るといった具合である。更に細かい分割単位としては、『央』があり『央の40』が1時間となる。『央の20』は丁度1時間の半分のため『半』と表現する者も多い(『陽の10半』など)。これ以上に細かい分割単位としては『刻』があるが、一般的には使われない。普通に生活する分には『央』までの管理が出来ていれば十分なのだろう。
*
フロンは再びクロバへと視線を落とす。
「長々話し込んじまったせいで流石にやばいね。みんな、走るよ!」
そして、そう言うやダッと駆けだした!
「がっはっはっ! なんら誰が一番に着くか、競争でもするかぁ!」
「よぉし、負けないからね!」
「グローリエル! 金の件は後で詳しく説明してもらうからな!」
他の三人もそれに続き駆けだすのであった。
【タイム・イズ・番長 終わり】
補足! 長いぞ!
・携帯用感応式陰陽計『クロッグ・バッガ』
グラードの日中と夜を分けるのは『陽の精霊』と『陰の精霊』の支配力の強さであることは前部でグローリヴリンが言っていたことと思う(詳しくは3-1.転移番長をチェック!)。それは急に切り替わるような代物ではなく、二つの精霊の支配力割合が時間経過で移り変わることで起こっている(どちらかが支配力割合の閾値を超えると『日中』『夜』へと変化するのである)。この移り変わりは規則的なものであり、1年を通して変わることは無い。
つまり、時間を知りたいならこの二つの精霊の支配力割合、陰陽割合を計測すればよいことになる。
それを可能にするのが『感応石』という、とある二つの特殊な魔鉱石を配合することによって造られるものだ。感応石は『一定間の陰陽割合の時だけ光る』性質や『一定周期の陰陽割合の時に光る』性質を持っており、二つの魔鉱石の配合割合や配合方法で様々なパターンの感応石を作ることができる。
そして、何十種ものパターンの感応石を、懐中時計のような箱の中にダーツの的のように敷き詰め、ガラスで蓋をしたものが基本的な『クロッグ・バッガ』になる。どこの部分が光っているかで現在の時間を知る『光の時計』というわけである。
感応石のパターンを増やせば増やすほど、当然細かい時間を計れるが、当然それなりの『大きさ』も必要になっていく。携帯用のクロバでは1時間光る感応石20種と1時間毎に『央の5』の間光る感応石8種の計28種で出来ているものが普通である(我々の感覚から言えば5分単位の時計といったところ)。フロンの持っているクロバもこのタイプのようだ。最近はこの感応石の配列を様々にアレンジしたクロバがナウなヤングに流行している。ドラゴンの形に配列したものはかなりの人気(ただ、時間はパッと読み取りにくい)。
ちなみにフロンは、ダイセンから『地球では1日の24分割を1時間。1時間をさらに60分割したのを1分。1分をさらに60分割したのを1秒と言って、時計は携帯用のものでも1秒単位で計測するのが普通だ』と聞かされたとき、技術水準の高さに驚くと共に「個人でそんな細かい時間を気にしてどうすんだい」と呆れ果てた。