1-2.異世界番長
この男の人ならきっと。
一部始終を見ていたエルフの女性はエメラルドグリーンの瞳を輝かせた。
*
「む、外人さんか? へ、へる、ゆー? いかんわ。とりあえず助けますけぇ、大人しくしとって下さい」
ダイセンは女性の猿ぐつわを解く。
「ぷはっ……ありがとうございます」
ダイセンは目を見開いた。目の覚めるような金髪、白い肌、宝石のような緑の瞳。幼さは残るが目鼻立ちのくっきりした顔。自分の半分くらいしかない小さな頭にスラリとした均整の取れた四肢。明らかな外人だと思っていた美人女性から流暢な日本語でお礼をされたからだ。
「な、なんじゃあ、日本人か。それとも留学生かのぉ」
「あの、えぇと」
もぞもぞと身じろぎする女性。
「あぁ、すまんです」
ダイセンは女性の手足を縛っていたロープをつまんで引き千切った。
「す、すごい」
女性が宝石のような瞳を輝かせ、ダイセンを見上げる。
「鍛えてますけぇ」
ダイセンは頬を赤らめ、少しばかり照れる。女性慣れしていない彼にとって、そのキラキラした瞳があまりにも眩しかったからだ。
「じゃ、わたしゃこれで……」
照れくさくていたたまれなくなったダイセンは、そそくさとその場から立ち去ろうとする。だが、それは女性によって呼び止められた。
「待ってください! お話を……あなたの強さを見込んでお願いが!」
「お願い?」
「不躾なのはわかっております。でも、猶予が、もう猶予が無いのです」
そう言って女性はさめざめと泣いた。
*
エルフの女性の名は『グローリエル』。色々とあれこれ話すグローリエルだったが、何やらダイセンの反応が悪い。
「何やら村に獣が現れて被害が出てるんはわかったが、『えばんの森』だの『えるふ』だの『まじゅう』だのよくわかりゃせん。そもそもここはどこですかい? わたしゃ、気付いたらここにおって、何がなんだか。言葉が通じるけぇ、日の本じゃあ思うが」
今度はグローリエルが首を傾げる番だった。ダイセンの言っていることがいまいちよくわからなかったからだ。
「ヒノモト? そういえば、恰好も言葉遣いも……聞いたことないけど、異国の方なのかしら? 雷と一緒に現れたし、私の知らない魔法体系? まさか転移魔法をしたわけでもないだろうだし、うーん?」
「魔法? ちょっと待ってつかぁさい。そんなインチキの話なぞ、わたしゃしとりませんぜ」
「インチキ? 魔法、知らないんですか?」
「知っとるが、カガクの世である現代で、魔法なんてものは無いってテレビでゆうとうたぞ!」
「無いですって!? そんな、常識外れな」
「常識はしっかり学び舎で叩き込まれとるわい! 『いい飯食おう鎌倉うどん』! どうじゃあ!」
「はぁ!? あーもう!」
グローリエルはあまりにもままならない会話に痺れを切らし、手のひらをそこそこ太い幹の木に向けた。
「『ステータスオープン』!」
グローリエルの目の前に黒塗りの背景、そして細かい文字の羅列が現れる。ただ、これはダイセンには見えていない。『ステータスオープン』は自分が自分の『ステータス』や『魔法』、『スキル』等を確認するための魔法なのだ。
マジックパワーの項目を見ると『3/10』を示している。
「時間がたったから一発分……もったいないけど」
グローリエルは精神を集中し
「『ファイヤーボール』!」
叫ぶ! すると、彼女の手のひらから成人男性の頭ほどの火球が飛び出し、そこそこの木に直撃した!
「おぉぉ!?」
目を見開くダイセン。
木に直撃した火球はしばらく、木の表皮を削り焦がしながら、燃え続ける。そして、ぱっと、急に何事もなかったように消えてしまった。残ったのは木の表皮を削った焦げ跡だけだ。
「どうです!?」
グローリエルはふんすと鼻息を吐いた。ダイセンはキラキラした視線をグローリエルに向ける。
「すごいのぉ……すごい手品じゃぁ! なるほど、魔術師というわけじゃな!」
「テジナ? 魔術師というほど立派なものでは」
「手のひら見せてもらってもえぇですか!?」
「はぁ」
差し出されたグローリエルの手のひらをまじまじと観察するダイセン。その凝視っぷりに何やら裸を覗かれているような気恥ずかしさを覚えたグローリエルは頬を染めて慌てて手を引っ込めた。
「も、もういいですよね?」
「いやぁ、タネもシカケもわからんわい。えぇもん見せてもらいましたわ。よっしゃ、お礼にその村の件、いっちょやってみましょうか」
「え? いいんですか!?」
よくわからないが、ダイセンはグローリエルの頼みを聞いてくれるらしい。喜ばしいことであるが、何故か、グローリエルには純真な子供をだましているような罪悪感があった。本当のことをちゃんと話しているのに。
「本当にいいんですね?」
「男に二言はねぇです。それに、困った時はお互い様ですけぇ」
「ありがとうございます! ダイセンさん!」
「お、おう」
頭を下げたグローリエルにダイセンが少したじろぐ。ダイセンは、ヨレた帽子で顔を隠した。
グローリエルは不思議そうに首を傾げる。
「どうしました?」
「女の人に名前で呼ばれるのは、なんつうかのぉ……えらい恥ずかしいんじゃ。ぐろうりえるさん綺麗じゃから余計にのぉ」
なんというか、とてもピュアである。グローリエルは綺麗だと素直に褒められたこともあって、好ましく思ったが、いちいち名前を呼ぶ度に恥ずかしがられたらキリが無い。何かの拍子で不都合が起きるとも限らない。
「あの、なら、どうお呼びすれば……」
「豪田……いや、『番長』じゃ。『番長』なら、大丈夫です」
バンチョー? どこをどうしたらそんなニックネームになるのだ? 疑問はあったが、先を急ぎたいグローリエルはにこやかに頷いた。
「わかりました。バンチョーさん! さっそく村に行きましょう!」
【異世界番長 終わり】
【今日の最強ステータス!】
・ダッド
職業:盗賊リーダー
【基礎ステータス】:ステータスチェックで分かる範囲
ライフ(最大):62
マジックパワー(最大):4
力:32
体力:19
魔力:9
素早さ:32
【累計ステータス】:装備品込みの最終値
攻撃力:65
防御力:34
魔法威力:11
魔法抗力:14
素早さ:38
【代表スキル】
蛇王六連斬:目にも とまらぬ 六連斬!
【一言】
実は戦士として中々の腕前。その驕りが敗因だった。