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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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異世界常駐なんて聞いていないんですが

 いやいや、トリビアを知っていることに感心している場合じゃない。

 外伝と称しているが、このゲームはパクリではないのか?


 それ以前の話として、こちらでも日本のゲームが盛んらしいが、輸出管理上、問題ないのか?

 日本から異世界への輸出って許可されているのだろうか?


『DBT>ゲームは正規の手続きで輸入しているのですか?』

 無反応だ。

 考えていると言うより、しらばっくれているみたい。


 権利関係だってある。

『DBT>この外伝。著作権問題をクリアしていますか?』

 これにも無反応だ。

 肝心の御大も返事をしない。


 日本のゲームの海賊版が流布しているのか。

 著作権を無視して、ゲームの登場人物をコピーして、自分たちのやっていることを正しいと信じている確信犯か。


 完全に無視されたので、もう一度、自分の立場上の問題点を突っ込んでみる。


『DBT>山田さん、異世界常駐って聞いていないのですが』


 しばらくすると、ようやく山田さんが重い腰を上げたのか、返事を返してきた。

 二度も言われると、しつこいな、仕方ないな、と思ったのだろう。


『やまだ>作業場所については明記していませんでしたが、こちらで作業するのは何も問題がありません』

 何を言い出すのかと思えば、正当化してきたよ、この人。


 少し怒りがこみ上げてきた。

『DBT>でも、一応、異世界って外国ですよね? 皆様のお話を伺っていると、もしかすると輸出管理や著作権の問題があるようにも思いますし、私も外国で作業する手続きを取っていませんので、この作業自体に問題があると思いますが』

 異世界が外国だなんて、おかしな論法かもしれないが、黙っていると同意したことになる。

 だから、議論をふっかけたのだ。


 さらに、少し大げさに言って波風を立ててみる。

『DBT>たとえば、私は鞄の中に携帯ゲーム機を持ってきましたし、USBメモリも持ってきましたが、これらの高度な機器を異世界、つまり外国へ持ち出す場合、手続きが要りますが、それをしていません』


 携帯ゲーム機やUSBうんぬんは、本当は、海外に持ち出していいのか/いけないのかは知らないのだが、とにかく、無視を決め込む連中を、議論の土俵に引っ張り出したい。


 違うなら『違う』と言ってくるはず。

 それがチャンスなのだ。


 少し間をおいて言い訳が書き込まれた。

 議論の土俵に上ってきたのだ。


『やまだ>そちらの世界の輸出管理のお話をされていますが、おっしゃる異世界については規定がないので何も問題はありません』

『やまだ>また、携帯ゲーム機やUSBメモリのようなローテクノロジーの機器には規制自体がありません。海外へ携帯ゲーム機を持っていくとき、輸出の手続きをしましたか?』

 敵も()る者。

 手続き不要と来た。でも、チャンスである。


『DBT>いや、輸出に関係する『外国』の定義は『本邦以外』であって、『本邦』とは北海道、本州、四国、九州とその附属の島だったはずで、そういう意味でこちらの異世界は外国です。だから該当します』


『やまだ>でも、そちらが輸出を規制している仕向地のリストに、おっしゃる異世界が入っているですか?』


 なにー!

 これには困った。

 そこまでわからないから言い返せない。今の僕には関連する法律の知識がないので無理だ。


 どうしよう……。


 ふと気づくと、チャットの画面が山田さんの書き込みでどんどんスクロールしていく。

 僕はそれを目で追い、大きく目を見開いて、何度も読み返してしまった。

 彼はついに恐ろしい真実を語り始めたのだ。


『やまだ>守秘義務を厳守していただくことを前提にお話しします』

『やまだ>今回の作業場所の件で私どもが説明不足で申し訳ありませんが』

『やまだ>事前に子細をお話しすることができない事情がございます』


『やまだ>実は、日本とこちらの世界との間で秘密裏に交わしている密約といえるものがありまして』

『やまだ>交流している文化に関わる物資や技術は、輸出管理も著作権も対象外になっています』

『やまだ>ですから、こちらの世界で日本人が作業をすること、いわゆる技術の提供は、貨物の輸出と同じく規制の対象外になっています』


『やまだ>これは、この世界の存在について、日本では極秘になっているためです』

『やまだ>もちろん、輸入に際しては、正当な対価をお支払いしておりますので問題はありません』

『やまだ>日本とこの世界の橋渡しをしているのが、私どもの会社です』


『やまだ>ご指摘の通り、チャットに参加しているこのゲームの開発スタッフは、こちらの世界の住人ですが、私は日本人です』

『やまだ>唯一問題になるのは、私があなたに作業指示を直接出すと、偽装請負になることです。それで、依頼内容は山本さんにメールで送っています。山本さんからあなたの会社の上司へメールが転送されています。この作業指示の証跡があるので、問題にはならないはずです』


 僕は、次々と明らかになる真実を目の当たりにして、ぽかんと開けた口を閉じるのを忘れていた。

 日本政府のどの所轄が、この異世界と極秘に交流を進めているのかは知らないが、国相手では僕の議論なんか無力だ。

 話をつけてやる、と意気込んで始めたチャットだが、あえなく玉砕した。



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