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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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ゲームが勝手に進んでいく

 声の方向へ振り向くには、首だけ動かせばいい。なぜなら、コントローラが不要なモードだから。

 そうすると、自然と視点が移動して、見たいものが視界に入ってくる。


 見えてきたのは彼女だ。そう、あの壁抜けの。


 セーラー服を着た紅色の髪でショートボブの彼女が、こちらに笑顔を投げかけている。


 もし彼女に悪意があっても、この笑顔を見ていると、鼻の下を長くしてついて行ってしまいそうになる。

 そのくらい、警戒心を無力にする笑顔なのだ。

 破壊力すげー。


 それはいいが、この状態では、彼女を見ている間、ずっと左に首を向けたままだということに気づいた。

 まてよ。このままでは首が疲れるぞ。

 さてどうしよう。


 そうだ! このReal&Theaterモードの不便なところ、欠点となるところはこの状態だ!

 すぐにチャットで報告しておこう。


 まず、画面が停止するイメージを持って『ポーズ』を念じる。

 ちゃんとポーズになる。

 このまま寝転がっていてはキーボードが打てないので、上体を起こした。


 ここで首を正面に向けた。これは無意識だった。

 おや? ポーズだからか、画面が動かないではないか。

 あ、これでもいいか。解決策、みっけ。


『DBT>Real&Theaterモードは正面をずっと向いているなら便利ですが』

『DBT>たとえば、一度左横を向いてしまうと、その方向に体の正面を向けたいとき』

『DBT>いったん首を正面に向けてから念じてゲーム内部の体の向きを左向きに変える必要があります』

『DBT>または、ポーズにして首を正面に向ける必要があります』


 すると、意外に早く回答が来た。

『やまだ>どれも正解ですが、今のケースですと、左横を向いた先にある物体をジッと見つめたまま体を左回転しろと念じれば、結果的に同じことができます』

 えっ? そんなことできるの?

 神業っぽいんですが。


 画面はポーズのままなので、頭の中でシミュレーションしてみる。

『左横を向いた先にある物体をジッと見つめたまま体を左回転』

 あ、できる!

 よく考えてみれば、実際の人間の動きもそうではないか。

 なんだ! そういうことか!


 山田さん、あなたは賢いです。


 さて、実際にそう動けるかは、後で試そう。

 まずは、『Quit』を念じてチャット画面を閉じる。

 ここでキーボードが見えなくなる。


 今は、僕、つまり主人公が正面を向いていて、彼女が目の前にいる状態。

 ここで『ポーズ解除』を念じる。

 解除された。

 彼女が瞬きするので、それがわかる。


 さて次は何をしようかと思っていると、突然、ヘッドフォンから男の声が聞こえてきた。


「ヴァス?」


 えっ? これって主人公のボイス?


「コメンジー」


 これは彼女だ。

 画面でも彼女の唇が動いている。

 彼女はそう言うと、にこっと笑って手を差し出す。


「ヴォーヒン?」


 これは主人公の声だ。


「ダスムジクツィンマ」


 彼女がそう言って、さらに手をこちらに近づける。


 おいおい。僕の意思に関係なく、クリックしないでも話が進んでいくではないか。

 言葉の意味がサッパリわからないので、吹き替えなしの洋画を見ている気分。

 で、洋画の主人公がプレイヤー、つまり僕。


 Real&Theaterって、こういうモードなのか。

 もちろん、画面下に奇妙な文字が出ているが、僕は何も操作することがないので、映画の字幕をボーッと見ている感じ。


 これは楽チンである。

 寝転がってプレイするのにちょうどいい。



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