寝転んでプレイできるスーパーリアルなゲームの世界
壁にめり込んだままになっている女生徒を放置して、コントローラで言われたとおりに『Config』で『View』を『Real&Theater』に設定する。
それから、メニューをクリック……、おっと、Real&Theaterだから念じればいいはず。
なんと念じればいいのだろう。
こういうときは、簡単な単語から当たってみるのがベストだ。
『メニュー』という単語を心の中で思い浮かべる。
右下を見ても何も表示されない。
ならば、メニューが表示されるのをイメージして『メニュー』と念じる。
今度は画面右下にメニューが現れた。そうか、工夫が要るみたい。
『終了』と念じる。
何も起こらない。
そうだ、メニューでは『Exit』だ。
『Exit』と念じる。
『Save? Yes No』と表示された。
ここで、『No』と念じる。
すると、画面が真っ暗になり、音楽も終了し、中央にロゴが表示された。
しばらくして、ブルーの画面でアイコンが一つ表示されている状態に戻った。
なるほど。
まだ試したいことがある。
まず、それまで起こしていた上体を後ろ向きに倒して、ベッドの上で寝転んだ状態、つまり仰向けの状態にする。
それからゲームをもう一度起動。
ロゴが表示された後、昇降口の場面になった。
今は、昇降口に突っ立って正面の壁を向いている状態。
あれ? ベッドに寝転がっているのに、なぜ仰向けになって天井を見た状態にならないのだろう?
これはそういうモードらしい。
寝転がりに適している。
そしてメニューも自動的に表示された。
ここで試しに『Config』を念じてみる。
『Config』を選択したことになって、項目が現れた。
次に『View』を念じると、『View』を選択したことになって、項目が現れた。
なるほどである。
設定項目を見ると『Real&Theater』のままだ。値が保持されているらしい。
さて、メニューを抜けたい。
『Quit』と念じる。メニューが閉じた。
なお、メニューにある『Exit』ではゲームが終了するから危険だ。
似ているから注意しないと。メニューではそれらが2つ並んでいるので、改善の余地あり。
さて、初期起動のメニューを閉じて、ゲームスタートだ。
首を上下左右に振ると、その向きに視点が移動する。
違和感がない。
首を元の位置に戻す。今度は正面を向いた。
次は目だけ上下左右に動かすと、その向きに視点が移動する。
これも違和感がない。
首を振りながら目も移動するが、視点の移動に違和感なし。
次に、ベッドに寝転がっている状態から上体を起こしてみる。
画面がちょっと揺れたが、まっすぐ前を向いている。
揺れたのは首が動いたからだろう。
ということは、腰から上、頭の先までがまっすぐ前を向いた姿勢を保っていれば、上体を起こそうが、寝転がろうが、同じになるらしい。
試しに、真横に寝転がってみる。変わらない。
もう一度、上体を起こしてから、頭だけ動かして天井の方角を見てみた。画面も天井の方に移動する。
仮説が成り立った。
なるほどである。
さて上体を再び倒して、仰向けのままプレイを続ける。
初期起動のメニューを閉じたから、ゲームスタートである。
ここで彼女が登場する前に、移動を試したい。
どうやったら前後左右に歩けるのだろう。
ジャンプとかスキップとかできるのだろうか。
試しに『歩け』と念じてみる。
動かない。
そもそも歩くときは無意識だ。自然と前へ足が出る。向きを変えるときは体をひねる。
どうすればいいのだろう。
(前に歩けるといいのだがなぁ。……あっちへ行きたいなぁ)
と何の気なしに思ったその瞬間、画面の景色がこちらに向かってゆっくり動き出した。
「なな……っ!」
こういう画面の移動は、ゲーム中の主人公が前に向かって歩いている証拠だ。
急に動き出したので慌てた。
(止まれ!)
止まった。フーッ……。急に動くなよ。
まさかと思って、他の行動を試してみる。
(右のすのこの上を歩きたい)
おお! 確かに、右のすのこの上を歩いているように見える。
「これだ!」
思わず叫んでしまった。
ある方向に歩きたい、という気持ちを起こせば、勝手にその通りに歩けることがわかった。
自分の思いが、ゲーム中の主人公を動かすのだ。
動かしているうちにコツがつかめてきた。
ぐるぐる回ることもできるようになった。
原理はわからないが、とにかく歩ける。
そろそろ経過報告をせねばなるまい。
メニューから『Chat』を選択するイメージをして『Chat』と念じると、チャット画面が現れた。
ここで閉じる練習をしてみよう。
チャット画面を閉じるイメージをして『Quit』と念じると、画面が閉じた。
単に単語を念じるのではなく、動作をイメージしつつ念じるのがコツのようだ。
もう一度チャット画面を開く。
発言はあれから更新されていない。
完全に、僕の発言待ちらしい。今まで向こうから発言してきたことはないし。
この状態でキーボードもなく入力できるだろうか?
まさかと思って、発言したい言葉を念じてみた。
やっぱりというか当然というか、入力画面に言葉は現れなかった。
もし言葉が画面に現れるとすると、間違って心の声がチャット画面に現れかねないので、この仕様の方が助かる。
今寝転がったままなので、これではキーボードが打てない。
いったん、上体を起こす。
そして、『Keyboard』を選択するイメージをして『Keyboard』と念ると、画面下半分にキーボードが見えるようになった。
後は、キーボードを叩いて普通に文字を入力する。
『DBT>Real&Theaterは今のところ、違和感がありません。動けます』
あれれ? 無反応。
僕の発言がしばらくなかったので、油断しているのか。
しばらく待っていると、怒濤のようにレスが飛んできた。
『イカヤ>あら、そうなの?』
『センダ>初めてなのにさすがですわ』
『カケホ>マジで?』
『イイン>おめでとうございます』
『ノシマ>Real&Theaterがリアルにいけるってことで』
『やまだ>安心しました。続けてください』
おおかた不思議がられているようである。
言われる僕も不思議ではあるが。
画面の中で手を伸ばせば物に触れることができる。その温度も感じる。
イメージして念じれば歩き回れる。
さきほどスキップにも挑戦して、なんとかできた。
再度ゴロリと仰向けになる。
デバッグ体勢の準備完了。
そろそろ、尻尾が生えた女生徒が登場するはずだ。
今度は何が起こるのか。
もし壁抜けが再現したら、僕も抜けてみようか。
などと考えながらキョロキョロして彼女の登場を待っていた。
しかし、登場しない。
では、先ほどと同じく下駄箱をいじってみた。
とその時、左耳から聞き覚えのある女の子の声がした。
「ヘイジー」
きたーーーーー!
僕は、声のする方へ振り向いた。




