尻尾が生えた女生徒が意味不明な言葉をしゃべる
「ヘイジー」
無人だったはずの昇降口で声をかけられたからたまらない。
正直、心臓が口から飛び出しそうになるほど、ギクッとした。
ベッドの上で尻から上の体全体が数センチ飛び上がったと思う。
説明が付かない事象の数々で、神経が過敏になっていたらしい。
ところで、ヘイジー、って言っていなかったか?
平次? 銭形か? それともハイジの聞き間違え?
声の方を振り向こうとするが、どうやって動かそう?
まず首を元の位置に戻す。正面を向くのだ。
それからコントローラで体の向きを声のする方に向ける。
動きがまるでロボットみたいだ。スムーズにならないものか。
見ると、いつの間にか2メートルくらいの距離に、セーラー服を着た紅色の髪でショートボブの女生徒が立っていて、こちらに笑顔を向けている。
さっきまでいなかったのに、いったいどこから湧いてきたのか。
現実ではあり得ない登場の仕方である。
女生徒は3Dで描かれているので、ちょっとツルツルした感じである。
しかし、顔自体がアニメーションによく出てくる、目が大きな女の子の顔なので、現実と違和感があるという突っ込みは不要だ。
彼女をじっくり観察してみる。
面長。ぱっちりした目。茶色の瞳。細い眉。高い鼻。紅色の髪でショートボブ。
ん? 僕が昼にプレイしていた『翼をあげるね』に出てくる塩味リノに非常によく似ているではないか。
それはもう、完コピくらい。
携帯ゲーム機で見る2Dの美少女が3Dになったみたいな感じだが、リアル感が増して実によくできている。
せっかくなので、彼女の周りをぐるりと回ってみることにした。
コントローラを使って、360度、彼女の周りを回って観察しようというわけ。
髪の毛のフサッとした感じはもちろん、セーラー服のしわ、赤いリボン、紺色のスカートのひだ、足の肉付き、光の当たる角度の違いから来る陰影まで、まるで実物のように描かれており、細部までリアルである。
両手の指先を見ると、爪まで描かれている。
クオリティーの高い仕上げである。モデリングでここまで仕上げられるのだと感心する。
そうやって感心しながら、ちょうど彼女の背後に回った。
とその時、とんでもないことに気づいて、思わず彼女のお尻を二度見してしまった。
いや、スケベ根性からではない。
そのお尻には、尻尾が生えていたのだ!!
尻尾は、柴犬のそれに似ていて、スカートからニュッと飛び出て小刻みに揺れている。
いったい、どこの世界の人間だ。尻尾なんぞ生えているなんて。
コスプレのつもりなら、いっそのこと、これに猫耳も付け加えてほしいのだが。
ところで、『ヘイジー』から先に彼女が動かない。
これは、僕がポーズにしたからではなく、次の会話に進めていないだけだ。
コントローラの決定ボタンを押す。
すると、画面下に奇妙な文字が現れた。
先ほどロゴで見たときと似たような形状の文字だ。
今の状況から判断するに、ここに表示されているのはボイスがついていない主人公の会話のはず。
しまった。さっきの『ヘイジー』の表示は確認し忘れた。
ま、いいか。見てもわからない文字だし。
それにしても、これはいったい、どこの国の文字だろう。
これを日本で発売するなら、まずくないか? 原因は、文字コード表の間違いによる文字化けだと思うが、こんな文字は文字コード表にあったっけ?
会話の音声もおかしい。
マジでやばいぞ。
さらに、コントローラの決定ボタンを押す。
「コメンジー」
彼女はそう言うと、にこっと笑って手を差し出す。
画面の下に、また奇妙な文字が表示されている。
彼女に誘われるままに、右手を差し出すと、右手が引っ張られた。
えええっ? 本当に自分が引っ張られる感じではないか。
おいおい、嘘だろ。
慌てて両手でHMDを外す。
またさっきと同じく、誰もいないという現実世界が目の前に。
同じ位置に手を伸ばしても引っ張られない。
まさか、幽霊はいないよな?
またもや、驚きを通り越して、怖くなってきた。




