トカゲ核爆発
自分の魔法でダメージを負ったクッソ哀れなエルノールを助ける慈母の様なトカゲは深手を負ったドラゴンに襲われる
砂からそそり立つ芋虫ドラゴン。所々傷つき粘度の高そうな透明な体液が傷口から噴き出している。さっきの爆発で傷づいたかザマーミロ!…って死んでないのはいけませんね。突如その傷だらけの芋虫ドラゴンは私に向かって頭をもたげ、急降下してきた。
側に倒れていたエルノールを持ち上げ、転がりながら回避する私。芋虫ドラゴンはそのスピードのまま何もない地面に突っ込みそのまま潜って見えなくなった。
『テギル…私はしばらく動けそうにない。町に走って奴の気を引け!』頭にエルノールの念話が響く。それって囮じゃないですかヤダー!でもまあ私の足なら引き離せそう…あの芋虫遅そうだし。私はエルノールの側から脱兎のごとく町に走りだす。日も地平線に沈みかけていて若干気温も下がってきている。これはありがたい。
だけど…砂の上って凄く走りにくい。砂の柔軟性に足を取られ思ったよりスピードが上がらない。くっ、トカゲのOSを砂漠用に最適化を…ってアニメがあったような。いやいや砂の上で走る訓練なんてボクサーしかやりませんよ!
地面から振動が伝わってくる。あの芋虫ドラゴンが真っ直ぐこちらに向かってきているようだ…ってか速い!意外と速いじゃないかあのドラゴン、芋虫が速いとか反則ですよ!地面の中進んでこの速さはチートすぎる。このままだと追いつかれるのは時間の問題だった。
私はバッグの中を漁る。手に当たるのは魔石…これだ!私は魔石を引っ掴むと途中でピタッと立ち止まった。そして手に持った魔石を一個一個投げていく、私の歩幅の間隔で。一つ…二つ…三つ…四つ…五つ!さすが精密動作に優れるトカゲボディ。アンダースローで投げた魔石は確実に私の歩幅とドンピシャな所に落ちていった。これは社会人ソフトボール部でエースになれますね。
まだブレスの再使用には時間がかかる、MMOで言うとクールダウンだ。どうだ、今ので私が抜き足差し足で5歩歩いたように勘違いするだろう。飛び出して来た所にスーパートカゲスペシャルマーシャルアーツデラックス改 (トカゲキック)を叩き込んでやる。5個目の魔石まで5mちょい…リザードマンのキルゾーンだ。コンマ一秒で最速の攻撃を繰り出せる最適距離…さあ出てこい、出てこい!
遠くで私に迫っていた振動が止む。…どうした?さあ、あの魔石に喰い付いてこい。10秒…20秒…30秒、何かがおかしい。私の足元を魔石に向かって流れていく砂。ん?地面が、凹んでる?
突如、魔石を中心に地面が陥没した。私は反射的にバランスを保つため尻尾を地面に置く、大きい音を立てて…。しまった!!
直下から響く轟音。同時に私の足元から大きな口が顔を覗かせた。円状に牙の並んだワームの様な大きな口が開かれる。見えるのは灰色の内膜と奥に続く深い闇…ひえええええ!
口が閉じられ胴体が寸断される所で、辛うじて手足を芋虫ドラゴンの口の外へ踏ん張る形でこらえる。うおおおおお、力つえええええ!芋虫の噛む力とトカゲの重量挙げの力が拮抗する。芋虫ドラゴンは頭をブンブン振り回し私を飲み込もうと必死だ。そして私も飲み込まれないように必死だ!うおおお処女のまま死んでたまるかあ(トカゲボディにかぎる)!
響く爆裂音。芋虫ドラゴンが頭をもたげたため私の体は水平に戻る。そこには追い付いてきたナオトちゃんと腕を突き出し魔法を放つモリュケちゃんがいた。うおおメインパーティ来たこれで勝つる!3人(人外)に勝てるわけないだろこの芋虫め!
モリュケちゃんが魔法を放つ中、颯爽と駆け寄り持っていたナイフで芋虫ドラゴンに斬りつけるナオトちゃん。透明な体液が飛び散り耳障りな鳴き声を上げる芋虫ドラゴン。前のドラゴンと違ってこいつは打たれ弱いぞ!だから地面の下でこそこそしてんだなこいつめ。だが劣勢と知るやいなや芋虫ドラゴンはどんどん地面へ潜っていこうとする。ちょ、おま!私を咥えたまま潜るのはやめちくり。さすがに地面の下で戦うのはノーサンキュー。
「ちょ、助けてー!」
「アタシ攻撃魔法は炎しか使えないのよー。」魔法を打つモリュケちゃん。
「くそこの!テギルを離せ!」ナイフで切りつけるナオトちゃん。
だが無常にもどんどん芋虫ドラゴンは地面へと潜っていこうとする。ひええええ死ぬうううう!
っと、空の向こうを見るとなにやら鳥の群れ?らしき飛行するいくつもの影。砂漠にも鳥がいたのかーハゲワシかな?って言ってる場合じゃねー!私は必死に口の中から逃れようとするが、ちょっとでも手足の力を緩めたらパックンチョだ。とてもじゃないが脱出できるような状況じゃない。ひえええ、イケメンエルフさんが白馬の王子さまのように現れて助けてくれてトカゲにキスして人間に戻るのが王道ストーリーじゃないんですかーこんなのイヤだーやめろー死にたくなーい!!
だが現実は非情。私はそのまま口に咥えられたまま地面の下へ吸い込まれる。砂が上に積もっていき視界が闇一色になる。呼吸は数十分は持ちそうだが正直この芋虫ドラゴンより長く砂に潜っていられる自信はない。最後は飲み込まれて消化されるか《砂の中にいる》状態で身動きできずに死ぬかのどちらかだ。私は砂の中でも目を開いていられるように目の横から膜を出して覆う。これで汚れた水の中でも目を開けて泳げるって寸法よ。トカゲアイ凄いでしょ…ははは、だからなんだよ。
私が絶望していると、砂の流れが急に速くなる。そして光が差し込んできた。あれ、砂の中なのに光が…ああ天国か。聖戦で死んだ戦士は天国で童貞イケメンエルフとやりたい放題ムフフ。
あれ、なぜか落ちて行く感覚。そのまますごい速度で落ち、途中で衝撃。その衝撃で私は芋虫ドラゴンの口からはじき飛ばされた。イテテテ、何が起こった?体に触れる冷たい感触。水だ!砂で濁った水の下には硬い地面があるようだった。そして両側に絶壁のようにそびえる砂の壁…まるで見えない力で押しのけられているかのような不思議な流れ方をする砂。
「間に合ったようだな…こいつを引き止めていてくれて助かったぞ。」ふいに聞こえる声、上から。ふと上を見上げると、光で影になったローブ姿の誰か…でもこの声は、エルノールだ!
「エルノール!こ、これは?」
「こいつを一箇所に留めていたおかげで魔法を練る時間ができたよ。砂を無くせばこいつは丸裸さ。」なるほど、あなたがモーゼか!?
「じゃ、じゃあ上にあがりたいんだけど!」数十m上にいるエルノールに向かって大声を出す。
「そのまえにそのドラゴンをなんとかしろ。お前を狙ってるぞ!」見ると100m近くはありそうな芋虫ドラゴンがのた打ち回りながら、頭は私の方を向いて跳びかかって来ていた。
「スーパートカゲスペシャルなんとかかんとかー(トカゲキック)!」盛大に放たれた地面に立てた尻尾を軸に左右の足の超速二連発の回し蹴り。芋虫ドラゴンの口はへしゃげ、大量の体液と折れた牙を飛ばしながら激しく痙攣する。ふははは、砂が無ければお前なんかただのサンドバッグじゃ。でかいだけでトロイお前のようなやつを木偶の坊って言うんじゃい。
上からいくつもの影が横切る。鳥が羽を広げたかのようなフォルムの影。ふと上を見上げると、覗くエルノールの更に上。何話もの…いや、無機質で幾何学的な人工物…飛んでる?リザードマンの視力で見る限り、人が乗っているようだった。え、飛行機?この世界あったの?ってか動力何?プロペラ?ジェット?何かどっちもアレには付いて無いような…。
『聞こえるか、ドラゴンを捕えた。今のうちに攻撃をしてくれ。』
『おお、エルノールてめえ生きてたのか!ドラゴンを捕えるなんてやるな!』
『砂の間だ、巨大な奴が見えるだろう。今なら丸裸だ。』
『よし、ドラゴンを観測して急発進してきた所だ。ちょうど極反応魔弾を抱えてる。今から落とすから避難しな!』
『感謝する!』
頭に声が響く。念話の魔法か。ってかこの魔法全体に筒抜けって感じなのか。いや、それより意味深な会話が聞こえたような…。
「モリュケ、ナオト!離れるぞ!」
「ほいさっさー♪」
「はい、マスター!」
覗いていたエルノールが消える。あれ?私は?ねえねえ私は上にあげてくれないの?ちょっと、おま!私はのたうち回る芋虫ドラゴンを横目に砂の壁を登ろうとするがまるで水のようにサラサラと抵抗のない壁に掴まることはできず、濁った水に叩きつけられた。
『避難は完了した。安全圏にいるから落としてくれ。』
『了解だ、衝撃に備えろよ!照準ヨーシ!極反応魔弾発射ああ!』
『ちょ、まだ私がいr…』
すかさず念話に割り込むが飛行機の一機から何かが落ちてくるのが見えた。ドクドクと波打つ蓮コラのようなグロくて丸い物体…あれエルノールが樽の中に作ったやつじゃね?それより何回りもデカイんですがそれは…。
私が逃げる間もなく、私の目の前に落ちてきたそれは強い光を放ち。一瞬で音が無くなり、視界は真っ白になった…。




