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現実《リアルワールド》オンライン  作者: 消砂 深風陽
【ミカミ編】二章 アルカナード編
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「あ。ミカミんお帰り」

 金鯱亭の部屋に戻ると、なぜかクーとカルアがそこにいた。

「……ただいま」

 苦笑しつつ声をかける。

 受付でエムリさんに聞いたのだが、クーとカルアが折半して俺の宿泊費を払ってくれたとのことだ。そしてそれを内密にして欲しいという旨も伝えられた。

 内密にしろと言われたらするのが店の責任ではないのかとエムリさんに聞いたところ、店の信用に関わることなので内密にはできないと答えられた。

――まぁ「事情にもよる」と言われたので、内密をバラされて問題ない範囲だったから教えてくれたのだろう。


「意外と遅かったのですね」

「ミランシャと話して来た」


 時間を空けてミランシャのところへ行くと、クーとの話し合いはすでに終わっており、ミランシャは若干ボサボサの髪で、寝ぼけ眼のまま対応してくれた。

「私を探してくれていたと姉から聞きました」

 とそれでも深々と頭を下げられたので、「結局役に立ったのかどうかわからないけどな」と苦笑しておいたが、「ご迷惑をおかけしました」と昨日の夜からの事情を話してくれた。


 まぁ、俺は聞くまでもなくその顛末を知っていたのだが。


 夜、計算上今日の夜まで足りるはずの夜食の買い置きが切れたのだそうだ。

 それを買いに出かけようとして、……あとは俺の知っての通りだ。人違いで攫われ、魔術で目と口と耳を塞がれ、牢へとブチ込まれた。相手の顔は見れなかった。

 ミランシャは魔術師なので――というのはこの話の際に初めて知ったことなのだが――口を塞がれる理由は把握できたが、自分がどこにいたのか、何のために目と耳を塞ぐのか、そう言った理由については心当たりがなかったのだと言う。

 そして今朝、再び目を塞がれ――魔術の効果が切れたのかもしくは切ったのかは知らないが、牢に入れられていた間は目は見えていたらしい。ちなみにこの時の魔術師も見ることができなかったようだ――そして再び運ばれた。

 殺されると思ったらしいが、次に目を開放されたのはミランシャが攫われたまさに現場だった。


「悪いな。人違いだった。本当に申し訳ない」


 目と耳と口を塞いでいた魔術が開放された瞬間にそんな声が聞こえたが、振り返ってもそこには誰もいなかったのだと言う。

――少しだけ約束が違うな、と思ったが関わる気はないので放っておくことにする。

 ちなみに寝る直前に気付いたが、コートのポケットにはいつの間にか金銭3枚があったらしい。

「たぶん誠意のつもりなんでしょうね」

「……誠意とは言わないな、それは」

「まぁ、そうですね」

 ミランシャはそう言って苦笑した。


 その後、クーが待つ自分の部屋に戻り、クーに散々泣かれ、謝り、――と言っても心配されないようにと今回の顛末は伏せたそうだ――昨日の夜するはずだった話し合いをし、クーがあっさり「母さんがそんな状態なら戻らないはずがないでしょ」と承諾し、話はすぐに終わった。このあたりでカルアが戻って来たようだ。

 後はどうするのかをクーを含めたPTメンバーで決め、ミランシャの疲れを取る名目で出発は明日に延期して解散した、とのことだ。


「じゃあ大体知ってる?」

「あぁ。出発までにボブとアレイとリーシャを探してどうするか話そう」

 そこまで言ってから、ふと気付いて「アレイは?」と聞くと、クーがこともなさそうに「あー」と思い出すように視線を上へ向けた。

 アレイはすでにギルドに戻っており、話を立ち聞きしたのかクーが話そうとすると「全部知ってる」とだけ一言、どこかへ行ったとのことだ。

「一応今夜中に話すとは伝えましたが」

「――なら問題ないだろう。ボブやリーシャは?」

「ふたりともギルドにいたので、その時に」

 さすがカルア。抜かりないな。

「そんなことより。安心したらお腹空いちゃった。アレ作ってくれないかな、ミカミん」

 アレって何だ。心当たりは2つほどしかないが。

「……どれだ」

「何だっけ、卵使ったヤツ」

 卵……卵サンドの方か。一応もうひとつも卵使ってるんだがな……と考えていると、「甘くない方ですね。お腹も空きましたので」とカルアが言い、頭の中で卵サンドに確定した。となれば、たまには違うものをと考える俺はきっと悪くないはずだ。

「材料にもよるが、別のものでも構わないか」

「えっ。何新作?」

「……少なくともクーに作ったことはないな」

 キラキラと視線を輝かせるクーに思わず苦笑した。



 この世界には、前の世界にあったものが数多く存在している。

 たとえば卵、ジャガイモ、小麦粉、パン、バターやマーガリンなどがそうだ。

 バターやマーガリンなどが同じ原材料とは限らないが、少なくとも味は前の世界と変わらないし、同じと言って問題はないだろう。

 その一方で、当然ながら前の世界にはなかったものも数多い。肉や魚はほとんどモンスター産だしな。

 エムリさんの持って来た食材もそんなモンスターの肉だ。

「……これはうまいな」

 ぽつりと呟くと、エムリさんがそれを聞き、にこりと笑った。

「――ミカミさんが言うなら間違いはありませんね」

「そこまで持ち上げられても困るんだがな」

 ふふ、という笑い声を聞きつつ、もう一口それを食うと、今度はひと口目には感じなかった程度の臭みと苦味を感じる。俺は嫌いではないが、クサヤなどと同じように、嫌いな人も多そうだ。

 肉の味は羊に近いか。だが臭みは少し違うな。魚かタコに近い気がする。

「……参考になるかわからんが、少し調理しても構わないか?」

「ええ。むしろそのつもりで提供しているんです」

 聞けば、何でもこの食材を使った料理は人気がいまひとつ伸びず困っているらしい。食材自体は安いので大した打撃ではないのだが、それでも一定量を仕入れているため、使わなければ結局捨てるハメになる。そうなる食材だから、ダメ元で俺に調理させ、上手く行くのであれば参考にしたいということらしい。

――もっとも、エムリさんは言葉巧みに俺を持ち上げ、上記のような失礼な言い方はしなかったが、ついつい脳内で自分の言葉に変換してしまうのは悪い癖だな。


 臭みを取る方法というのはいくつか存在する。

 ちなみにこの食材は「ガーグッシュ」という名前のモンスターのもので、半水棲モンスターなのだそうだ。見た目はトカゲ。つまり想像するにヤモリのモンスターだ。

「ヤモリからこんな肉が……」

「ヤモリ……?」

「あぁいやなんでもない」

 つい呟いてしまったところを聞かれ、慌てて誤魔化す。

 調理したことないぞ、ヤモリなんか……。まぁやってみるか。

 さっき食った分は焼いたものなので、いっそ煮てみるか、とも思ったのだが、煮たら旨みがお湯に逃げてしまいそうな気がするのは気のせいか。……まぁお湯に旨みが逃げるなら、それはそれで対処のしようもある。

「ちょっと見た目にはアレかもしれんが」

 言いつつ、いくつかの材料と調理器具を指定する。

 そのうちいくつかは名前が違うのか存在しないのか、首を傾げられたので別のもので代用できないかを画策することにした。


「辛い野菜の漬物……?」


 ひとつ、決定的に足りない材料があった。代用するものがないかと考え、食べ物と言えばクーだ、とばかりに聞いてみると、うーんと一瞬(うな)った後、「辛漬けくらいかなぁ」とぽつりと呟いた。

「辛漬け?」

「うん。見た目赤くてグロいんだけどね」

 何となく、求めているものそのもののような気がするので案内してもらうことにした。


「おぉ……これは……」

 思わず声が出た。それを若干ヒいていると思ったのか、クーが横で苦笑する。

 確かに赤い。そして所々白い。

 白菜かどうかはわからないが、味見させてもらった限りでは日本で食ったことのある懐かしい味だ。

 そして極め付けは、その商品の袋に書かれた文字だ。

 何と書かれているのかはわからないが、間違いなくあれはハングル文字だ。

 いやまぁ当然だよなぁ。あの国からもきっとこの世界に来た人物は存在するのだろう。


 間違いなく、これは白菜キムチだ。


 これがあるなら、できる。

 目指すものはキムチ鍋だ。

――まぁエムリさんに言ったように、高級旅館で出すには見た目的にアレなものがあるような気がするんだが、まぁそこはそれだ。見てもらってダメなら仕方ない。

「これって、どのくらいの期間食える?」

 賞味期限や消費期限などという言葉があるとは限らないので慎重に聞いてみると、「あぁ、大体1ヶ月くらいは大丈夫だね」と店のおばちゃんが言った。


 鍋は手間が非常に簡単だ。

 適当に油で肉と香味ものを鍋の底で炒め、後は鳥ガラスープ……ではないが似たような味のスープでそれを煮込み、最後に野菜と豆腐……いやこれも豆腐ではないが、まぁ豆腐に似たものを入れて蓋をする。

「えっ、まだ完成じゃないの?」

「……あと2分ほど待て」

「えぇー」

 クーは、肉を焼いた時点からすでに食べていいものだと勘違いしていたらしく箸を伸ばしていたが、再三注意してやめさせた。

 鍋奉行というわけでもないが、このメンバーで鍋を知っているのは多分俺だけだ。

 というか、鍋料理を見たことがないのは、単純に鍋料理がないだけなのか、それとも大っぴらに作らないだけなのだろうか。

「そろそろいいですか?」

「……多分大丈夫だ。火が通っていればいい」

 本当は染み込ませた方が旨いんだがな、と心中思うが、まぁ食ったことがない以上仕方ないことではある。全員の視線が集まる中、――ちなみにボブ、アレイ、リーシャと、何故かミランシャも鍋の周りを囲んでいる状態だ――エムリさんが代表して鍋の蓋を開けた。


「ほう」


 最初に声をあげたのはボブだった。

 酒飲みは辛いものが好きだろうと思ったが、ボブに関して言えば大当たりだったようだ。

「……辛そうですね」

 一方でカルアはその色に顔をしかめた。

 まぁカルアは途中、味見と称してキムチを食ったからな。辛さが堪えたのか、鍋にキムチを投入する時も、「本当にそれを入れるのですか」と言っていたくらいだ。

「そこまで辛くはないぞ」

 ハズ、とか多分、という言葉をあえて飲み込む。本心では少しキムチを入れすぎた感があるのだが、それを言ってしまうとカルアは箸を付けないだろう。いや厳密には箸を使えないのでフォークとレンゲだが。

「……ホントだ。おいしー」

 いち早く器に自分の分を取り――とは言っても肉は遠慮したのかまだ盛っていないようだが――真っ先に感想を述べたのはクーだった。

「辛い味が全くないわけではないんですが、……野菜に甘みがありますね」

 リーシャがそんな感想を述べると、ようやくカルアは自分の分を少しだけ器に盛った。ただし本当にほんの少しだ。しかもできるだけ赤くないところから取ったな、今。赤いところが辛いということには気付いているようだ。

「辛味が肉に合うな。ミカミは料理の才能あるぜ」

 アレイに言われて気付く。肝心の肉の臭みはしっかり誤魔化せているだろうか。俺も自分の分を器に持ると、クーがそれに競うかのように自分の分をさらに取った。量はあるのでそこまでがっつかなくても大丈夫なはずなんだがな。

 実際にひと口食ってみると、我ながらいい出来だった。

「ちなみに猫には食わすなよ。ヒミも念のためダメだ」

「え、どうして?」

 刺激物は猫にはダメだったと思うので念のため言ってみると、今まさにキャラットに肉をやろうとしていたクーが、ひょいっとキャラットにやりかけた肉を上へと持ち上げた。

「病気になる場合がある」

「……ダメだってさ」

 言いつつ、クーがキャラットにそう告げると、キャラットは不満そうに「にゃん」と鳴いた。クーがそれに構わず肉をぱくりと食べると、キャラットはせめて匂いをと思ったのか、クーの口の辺りの匂いを嗅ぎ出した。

「こら、ちょ、こらっ」

 さすがにそれには勝てなかったのか、クーは珍しく一旦食うのをやめ、空になった皿を置いた。

 そして肩に乗ったキャラットを片手でひょいと抱き上げ、カルアの膝の上に乗せる。

「……調理していない方なら大丈夫ですか?」

「ん?あぁ。辛くなければ大丈夫だろう」

 見かねたのかエムリが言うので答えると、カルアはキャラットを抱き上げてエムリと保存庫の方へ行った。その後を、ちゃっかりヒミが付いて行くのが見えた。


 そうしていくらか食って確信した。

 これなら、後は見た目にさえ気を付ければ、鍋料理やスープとして出しても商品にはなるだろう。

 まぁクーに言われて作ろうとした料理とはだいぶ違うものになってしまったが、まぁ仕方あるまい。

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