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現実《リアルワールド》オンライン  作者: 消砂 深風陽
【ミカミ編】一章 仲間たちとの出会い
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赤い魔石の未知種

 まず目に飛び込んだのは、岩壁に反射する炎の光だった。

 ようやく見えた、それを吐いた主はモンスターだ。何というモンスターなのかわからないが、見た目は、このダンジョンに出て来る川獺(オッター)シリーズに近い。唯一違うのはその赤黒い毛の色だ。

 小さく呻き声を上げ、モンスターに対峙している少女が後退(ずさ)る。

 赤い髪にやや隠れた口が小さく動くのが見えた。もう一歩後退る少女と入れ替わるように、ようやくクーがその場に辿り着く。


「大丈夫?!」


 唐突に現われたクーに、文字通り目を丸く見開いて驚く少女は、それでも何とか首肯し返答に変える。

 ようやくボブとアレイ、それに少し遅れて俺とカルアが辿り着く。

「……見たこともない種です」

 カルアが呟くように言う。

 確かに、行きでは一度も見なかった種類だ。ムーンオッターのような金でもなければ、ホワイトオッターの白でも、ビッグオッターやファングオッターの灰色でもない。

 それが4匹。

「未知種には警戒を!重々注意して下さい!」

 カルアが前衛に声をかける。

 出番があるかは別として、俺も念の為に弓を構えた。

「さっき炎を吐いてたからな、それにも注意しろ!」

 アレイが野次に近い声を上げると、クーが一瞬こっちを向いた。


「ミカミん、時々『開ける』から援護お願い!」


 クーの『開ける』という言葉に、ボブとアレイ、それにカルアが少し俺の前を開くように道を作った。

 僅かではあるが、矢が通るだけのスペースがあればいい。

 意識し、弓を引く。そのままの姿勢で相手の頭に注視し、クーの戦闘を見守っていると、不意にボブが戦闘の中に体を滑り込ませた。

 ギン、とボブの持つ盾にモンスターの攻撃が爪を当て、耳障りな音を響かせた。

 ボブが盾を持つのを見るのは初めてだ。いつもは背負っているだけで、攻撃を盾に受けるのも、敵に背を向けて受ける。今まではそういう使い方をしているのだと思っていたくらいだ。

 だが今は手に持って確実に相手の攻撃を受け止めている。背に負っていた時には斜めに受け流したりすることが多かったが、明らかに狙って真正面から受け止めているところから見ても、ボブがこのモンスターに対して並々ならぬ警戒心を持っていることがわかる。


――と、クーとボブが不意に左右に分かれ、モンスターの姿が露わになったのを見て、俺はすかさず頭に向けて放つイメージを浮かべた。

 ひゅん、と風切り音を立てて矢がモンスターへ向かうと、アレイがぽつりと何かを呟いた。

 矢の軌跡を描くように、微かにキラキラと光っているように見えた瞬間、矢は目標を外したものの、狙ったヤツの肩へと突き立った。間髪入れずに次の矢を構える。

 こっちを憎々しげにちらりと視線を向けた瞬間、それを狙ったかのようにクーの短剣が喉元を切り付ける。

 赤い血が吹き出すのに数秒遅れ、モンスターが唸りながら身を低くした瞬間、別の一匹がクー目がけて爪を振り下ろす。

 すかさず間に滑り込み、ボブが盾で受け止めると、モンスターはそれで爪でも痛めたのか短く悲鳴を上げた。


「伏せてるのに注意して!」


 何時の間に下がったのか、少女が声を上げる。

 そういう忠告をしてくるということは、あれは何かしてくる予備動作なのだろう。

 なら先手を打つ。

 狙いを足元に定めて放つ。当然のように避けられるが、構わず次の矢を番え、別の一匹に放つ。こっちも同じく避けられた。だが、あの予備動作からモンスターが取れる行動は少ない。

 一匹目は後ろに下がり、もう一匹は上へ跳ねた。


「ミカミ、ナイスだ」

「サンキュ!」


 下がった方はともかく、跳ねたのは失策だ。素早くその下に走り込んだクーの短剣がそのガラ空きの腹に向けて振り上げられ斬り付けられる。モンスターは断末魔を上げることもなく落下して倒れ伏した。

 クーは、血塗れになった髪を後ろに払いつつ、次の相手へと向かう。

 一匹仲間を失ったモンスターたちは明らかに連携を欠いていた。ついでに俺が肩に一発入れたヤツは、矢の周辺が凍っており、動きに精彩がなかったこともある。多分アレイの魔法の効果だろう。

 そうなればそこをボブやクーが逃すはずもない。

 ほとんど勝負にならず、最後は無傷だった一匹が逃げ出したのを俺とアレイが追い射ちをかけ、最後に俺の矢が頭を貫くと、ようやく最後の一匹も動きを止めた。



「ありがとうございました」

 洞窟を出ると、すでに日が昇りかけていた。辺りが赤く、少しだけ明るさが戻りつつある。

 少女は緊張した面持ちでぺこりと頭を下げる。アレイが「気にすんな」と地面にぺたりと腰を下ろした。

 それを見て、クーが近くに転がる手近な岩に腰をかけ、ボブはアレイ同様に地面に座った。

 俺はとりあえず壁に寄りかかる。カルアと少女は所在なさそうに立っていたが、カルアが少女に目配せしてやると、少女は背に負った弓を横に置き、その下に背負っていたリュックを置いてその上に腰を下ろした。

「大丈夫ですか」

 少女が座ったのを見届け、カルアはそのすぐ隣に腰を下ろす。

「すみません大丈夫です。申し遅れました、私はリーシャと言います」

「リーシャさん、ですか」

 ぴくりとカルアの眉が一瞬動き、その続きを促すように頷いた。

「あなたたちと同じです。あっちから来る途中だったんですが、あんなのが出るなんて知らなくて」

 まぁそれは確かに。あんなのが出ると知らなかったのまで含めてその通りだ。

 思わず苦笑する。

「まぁ、私たちが通りかかってよかった」

 そういえば、クーは結構耳がいいんだな。俺にはほとんど聞こえないような音を、ほとんど確信的に聞こえていたようだ。

 まぁ俺の魔眼(サーチ)で何かがいることはわかっていたとは言え、さすがに俺は言われなければ気付かなかった。

「そういえば、何だったのでしょうね」

 言われ、さっき回収したドロップアイテムを思い浮かべる。

 毛皮と赤い魔石。レッドストーンというらしいが、通常の魔石よりも大量の魔力が詰まった石で、大きな儀式魔法などで使うらしい。当然ながらかなり高価な品物だ。

「まぁ、無事で何よりでした」

 そんなものが詰まった魔物だ。当然そんなに弱いはずもないだろう。

 俺たちが来るまで、リーシャはそれを4匹も相手にひとりで戦っていた。少なくともただの少女ではない。

 少なくとも俺よりは手練だろうと思う。

「あのオッターは多分だが、魔石の影響で赤くなったんだろうな」

 アレイが毛皮と魔石を見比べつつ呟く。

 毛皮は、ジャッジで灰色に変化していた。つまり元々は灰色の川獺が、魔石の影響で変色したということなのだろう。確かにそう言われれば納得できるところもあるが、それだけで納得できるものではない。

「それにしては知恵があった気がしますが」

「そうか?オッター自体知恵がないわけでもないからあんなもんだろ」

 アレイがそう言いつつも、うーむと呟く。

「まぁ、何にせよ無事でよかった」

 ボブが呟くと、クーが「そうだね」と笑いながら言い、それでリーシャも少しだけ笑顔を見せた。



「それでは、どうもでした!」

 ようやく町に帰り着くと、リーシャはぺこりと頭を下げた。

 ついでに俺に近寄ると、ヒミの頭を撫でつつ「ヒミちゃんもバイバイ」と言ってから、俺にもぺこりと頭を下げた。

「お礼なんていいよ。今度ギルドに遊びに来てよ!」

「はい、今度お礼に伺います」

 微妙に会話がズレている気がするが、まぁクーが嬉しそうだからいいだろう。道中もクーとリーシャは気が合うのかよく話していた。

 聞こえたところによれば、二人は同い年らしい。

 リーシャはホビットで、幼く見えるのは種族のせいだということだ。ついでにその時聞こえたところによれば、クーはハーフエルフだが人間寄りの外見なので、男手ひとつで育ててくれたエルフの父親と離れて現在ひとり暮らし。母親の方が人間らしい。

 ついでに「常識」を辿ってみる。

 永遠に近い長寿で白く美しい肌を持ち、長い耳を持つ種族。前の世界での伝承そのままだ。

 エルフは自分たちのうち、純血種を「ハイエルフ」、少しでも混じり血があると「ウッドエルフ」という括りで呼ぶらしい。

 もしエルフが別種族と子を成した場合、その子供は肌が黒く生まれることが多い。肌が黒く生まれた子供は「ダークエルフ」と呼ばれ、親ともども忌み嫌われることになる。肌が白い場合は「ハーフエルフ」と呼ばれるが、この場合、ダークエルフほどでもないがやはり親子とも肩身が狭い思いをすることが多い。……まぁそうなった場合はほとんどの場合は森には帰らず、人間などの町に残ることが多いが。

 ハーフエルフになる場合が多いのは、ハイエルフだ。元々何かの混じり血があるウッドエルフの場合、その混じり血が反応してしまい、黒い肌で生まれてくるとされているが、詳しいことが判明しているわけではないし、そもそもハイエルフからダークエルフが生まれたことも、ウッドエルフがハーフエルフを産む場合も多いらしい。

 ちなみにだが、ハーフエルフになる可能性が高い例としてもうひとつ、「人間とのハーフ」という説もあるらしい。まぁこれも「説」の域を出ない程度の説だが。

 クーの場合は人間の血のほうがかなり強く、見た目はほぼ完全に人間だ。肌が白いのがエルフの血と言えるくらいか。

 成長面で言えば、エルフとは少し違うらしい。

 エルフは10歳程度までを人間とほぼ同様に成長し、その後唐突に成長を止める。だがクーが話していたことには、12歳ほどまでを人間とほぼ同様に成長し、今でも成長は止まっていないとのことだ。いつか成長が止まるだろうけど、老けてから止まるとかだったら嫌だなぁ、と笑っていた。


「ミカミん、朝ご飯どうする?」


 クーの呼びかけで我に返る。考えれば、夜に出発し、洞窟を出た頃には日が昇っていたわけだが、町に着いた頃にはすでに周囲は完全に明るさを取り戻していた。

「眠いなら先に宿戻る?金鯱亭ならまだ空きはあると思うけど」

 実は高級旅館だからな。とは口にしない。

「いや、先に飯を食いたい。ボブやアレイは?」

「俺はいいや。ちっと行きたいところがある」

 アレイはあっさりと手を振って理由を言った。

「後で合流しようぜ、分け前のこともあるし」

「俺は……ちと眠いな」

 ボブも脱落か、と思ったが、「まぁ食ってから寝るか」と苦笑しつつ呟いた。

「そういえば、ボブやクーはどこに泊まってるんだ?」

 金鯱亭に泊まっているのをあまり見たことはないので、普段は違うところに泊まっているように思う。そういえばアレイは逆に金鯱亭に泊まることが多いな。あいつ金持ちなんだろうなぁ。

 言ってやると、クーはにっこりと笑って俺の手を取った。


「じゃあそこで朝ご飯にしよう!」


 連れて来られた場所は、金鯱亭ほどではないが大きい宿だった。

 何と書いてあるのかわからない看板と、唯一日本語で読める値段表。12$か。だいぶ安いが、そんなに悪い宿には思えない。

 門は大きく、玄関もそれなりに広い。――金鯱亭と比べるのは失礼なのでそろそろやめておこう。


「いらっしゃ……、ん」


 声をかけて来たのは従業員だろうか。ひとりの男だった。どこかで見た覚えがある。

「お帰りなさい2人とも。意外と早かったですね」

「ん?予定外があっては困るから長めに休みを取っただけだぞ」

「あぁなるほど」

 そのやり取りで思い出した。いつかカウンター横の依頼掲示板のことを聞いた受付のお兄さんだ。

「えっと、ミカミさんでしたね。あなたもここにお泊りに?」

「あぁいや、クーやボブがどんなところに泊まってるのかが気になってな」

 言うと、お兄さんは苦笑した。

「確か金鯱亭に泊まってるんでしたっけ?」

「エムリさんには恩があるから、しばらくはな」

 あぁ、とお兄さんは苦笑をもう一度。


「いいんですよ。正直あちらと張り合おうとも思えませんから」


 ん?あちら?張り合う?

「……あれ、僕言って、……ませんでしたね」

 少しだけ考え、俺との会話を思い出したのか少しの間を空けて呟く。

「ここ、僕の実家なんですよ」

 言って、ついでに自己紹介をしてくれる。

「ライアス・ハイウォート。ギルドランクはCです」

 意外と高かった。ちなみに俺のランクはFだ。登録したばかりだからな。

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