魔法習得巡り
奴隷商館を出た後、前に魔法ギルドから教えてもらった「居場所」を確認しながら、適当に訪ねてみることにした。
「最初はエーリカ嬢を訪ねるといいでしょうね」
ギルドの居場所情報によれば、その姉の家付近の雑貨屋の主人が動物系魔法を教えてくれるそうだ。……商売人らしく有料のようだが。
さっきフィアが居場所情報を見ながら教えてくれた情報によれば、「雷系魔法」のエーリカ・イルクナーは姉のファタリウスのところにいる可能性が少しだけ高いらしい。
比率は自宅3:姉6:その他1らしく、また家にいるとしても姉の居場所は把握しておいた方がつかまりやすいらしい。フィアの説明を俺がわかりやすい言葉で言えば、極度の姉好きでヤンデレ。要するにそれを頭に思い浮かべつつ接すれば大丈夫らしい。というか姉6:その他4で1.5倍ほど姉のところにいる確率が多いんじゃないか。
さらにファタリウスの家でエーリカに会えなかった場合、魔法ギルドの前を経由して歩けば、フィアが言う「魔法ギルドに売っている魔法書」とやらを購入できるらしい。ちなみにフィアの名前を出さないと買えないそうなので、くれぐれも居場所を漏らさないようにと念を押された。
効率よく訪ねる計画としては、雑貨屋、ファタリウスの家、魔法ギルド、エーリカの家。以上が最も効率がいい経路だろう、と月の魔眼に覚えさせた地図を見ながら考える。地図を魔眼で覚えるのは一瞬だったのが、フィアにもらった手書き地図なのでズレがあるかもしれない。まぁ気にはしないが。
ズレは魔眼で修正されているようだった。綺麗に修正された脳内マップと化しているので、むしろわかりやすい。
特に問題もなく雑貨屋まで辿り付くと、店と思しき建物の入り口付近のベンチに、ひとりの男が座っていた。
「キミがミカミか」
ちらりと視線を向けると、男はギロリとこっちを睨むように呟いた。
「……そうだが、名乗る前に名前を知られているのは気分が悪いな」
「ふむ。……まぁそうだな。すまん。フィアから容貌を聞いていたのでな」
とりあえず男の手がベンチに座れと促すので座ることにする。俺が行くことと、要望もフィアが伝えてくれていたのなら、楽が出来ていいのは確かだしな。
「とりあえず初めましてだ。オレの名はキグゾ。見ての通り二鬼族だ」
見ての通りに、と言われてもな。貴族がどんな格好をしているかなんて俺は知らんぞ、と心の中で突っ込みを入れつつ、「すでに聞いているようだが三上だ」とだけ言いつつ手を出すと、キグゾは俺の手を遠慮がちにぱしんと叩いた。
遠慮がちに見えたのに、ガタイの良い見た目と比例して、叩かれた手が痛いのだがまぁ気にしないでおこう痛い。
キクゾが言うには、フィアが人には決して教えようとしない魔法のひとつに、【囁き】というものがあるらしい。ある程度の魔力を有する者相手にしか使えないらしいが、それはそれで使い道もありそうだ。
意地悪や秘密主義で教えないわけではなく理由があることのようだとキクゾが言うので、まぁ仕方ないことなのだろう。
キクゾが俺の来訪を知っていたのも、フィアが【囁き】によって言って来たからってことなんだろうな。
「……それで、エーリカはいたのか?」
「いや、フィアがくれた地図を見たらこっちの方が近いようだったから、先にこっちに来た」
少し考えるように目を細めてから、キクゾは呟くように「そうか」と呟くように言った。
「フィアも言葉が足りんな」
「ん?」
「……ふむ」
言うと、キクゾはすっくと立ち上がる。
俺の身長の1.5倍はありそうなその巨躯に圧倒され、思わず一歩後退ると、キクゾは「少し待っていろ」と呟いて店の中へと入って行った。
戻って来たキクゾは、手に袋を持っていた。
「エーリカのところへこれを持って行け」
「……食い物か」
「中身には言及せず、キクゾからだと伝えればいい」
中身から揚げ物の匂いがする。
要するにお使いということだろうか。
「それから、これだ」
袋を持った手とは反対の手に、封筒を渡された。
「そいつはお前にだ」
「……これは?」
「――自分が何をしに俺を訪ねたのか忘れたのか」
あ。そういや動物系魔法を習いに来たんだったっけ。ちょっとうっかりしていた気がする。つまりこの封筒は、フィアと同じように呪文集ということか。
「上手くエーリカに魔法を習うことが出来たらもう一度こっちへ来い」
「――ありがとう」
「ふん。礼が素直なのは美徳だな、褒めておこう」
キクゾは口の端をにぃっと歪めると、そのまま店へと戻って行った。
「帰りなさい」
ドアを開けて開口一番、女は言った。
「まだ何も言ってないが」
「……エーリカはいないわ。帰りなさい」
俺の用が筒抜けのようだが、ひょっとしてこっちにもフィアが【囁き】で伝えてくれていたのだろうか。そうかいないのか……と思ったが、家の中からこちらに近付く魔眼の反応がある。多分コレ人だ。
とすれば、エーリカがいないと言うのは嘘か。それとも誰か他に客でも来ているのだろうか。だとすればエーリカがいないというのは本当で、客がいるので帰れということなのかもしれない。
「ちょっとエーリカ?嘘はいけません」
あれ?今エーリカって言ったか。
「だって姉さん、この男きっと姉さんを狙っているに違いないわ。そういう顔してるもの。だいたい男なんていつもいつも姉さん狙いで……」
「相手が口を開く前から判断していたようだけど、どうしてわかるのかしら」
「だってだって、男よ男。可愛らしい姉さんをひと目見たくてやって来たに決まっているもの。姉さん可愛いから」
――オイ、と思わず突っ込みを入れかけたが、機嫌を損ねられても困るので声にはしない。とりあえず用件を伝えてみることにするか。
「……雷魔法を教われると聞いてやって来たんだが」
「それは嘘ね!」
「オイ」
しまった思わず口を突いて突っ込みが。
「私の雷魔法をダシに姉さんとお近付きになろうだなんて穢らわしい。姉さんの可愛らしさに」
「……いや、なら別に家に入らなくて構わないが」
「外からストーキングするって言うの!?なんて男!そこまで変態なの?!」
話を聞かないなオイ。
「そもそも雷魔法なんて私じゃなくてもエィティーに行けば教われる人はいるでしょ、何でわざわざ私のところに来るわけ?姉さん目当て以外の何があるのよ」
「こっちの方が単純に近いからなのだが」
「じゃああなた家はどこ?っていうかどこでもいいわ、どうせここから近いところに宿でも取ってるんでしょ、姉さんとお近付きになるためにそこまでするなんて気持ち悪い男ね!」
いやそのりくつはおかしい。という言葉と狸のような青い猫型ロボットの顔が浮かんで来たがとりあえず頭から追い払うことにする。
尚もギャーギャーと続けるエーリカに辟易していると、ふと見ると姉――ファタリウスだったか――が、手で何かを指差すジェスチャーを始めた。何かを抱えるような仕草と、抱えたものを指差す仕草。
……あぁそう言えば、と手に持った袋を差し出してみる。
「な、何よ」
「キクゾからこんな差し入れもあるのだが」
「――そう?じゃあ上がりなさい」
あっれそんなすんなりと?
いともあっさりと意見を翻したエーリカは、さっきまでの態度が嘘のように、姉の横をすり抜けて奥へと入って行った。
くすくすと笑いながらその後に続くファタリウスは、ちらりと俺の方を見ると「どうぞ」と呟きつつ微笑んだ。




