買取完了
ルナの尻尾が揺れると、ちりんちりんという音が鳴り響いた。
同じくらいの年の子たちが、ルナが買われたのを知って示し合わせたように尻尾への飾り物を贈ってくれたのだ。というか皆で同じ店で買ったという申告があったので示し合わせたのだろう。薄く、それでいて鮮やかな水色や白が多いのは、ルナの毛の色を考慮して選んでくれたのだろうか。
ルナに許可を得てそれに触ると、わかってはいたがそのいくつかに鈴が付いていた。音の主は間違いなくこれだ。
【尻尾飾り】
系列:アクセサリ
防御:0
属性:無
防具レベル:0
そういえばヒミの尻尾にも付いてたな。日向ぼっこをしている蛇の姿を思い浮かべつつ、帰ったらちょっと見せてもらおうと思い立った。
ほとんどは同じステータスだったのだが、うちひとつにこんなものがあった。
【魔獣毛の尻尾飾り(鈴)】
系列:アクセサリ
防御:0
属性:神
防具レベル:9
種族制限:亜族
【条件付能力付与(特殊)】条件適合回数:29
前日に鈴が鳴った回数×1%、装備者の幸運耐久値を増加する。
装備者が変更されると数値はリセットされる。
同じ店で買ったらしいので、紛れ込んでいたのか、それともクジの当たり的なものなのかはわからないが、とりあえず冒険者用の立派な装備品のように見える。
――見えるだけで実際にはお守りのようなものなのかもしれないが。っていうか防具レベル9て。高くないか。
とりあえず根元の方に付いていたので、こっそり尻尾の先の方に付け直して鳴りやすくしておいたのだが、意外とちりんちりんと音が響く。ちょっと失敗したかもしれないが、……まぁルナだしリーシャもローリーも許してくれるだろう。
何人かにハグされ、何人かに撫でられた後、ルナはようやく子供たちから開放された。
その後、今度は大人たちにも挨拶を交わしていくルナ。
本当に可愛がられていたんだろうということがわかるほど、ルナは尻尾を振って適合回数をどんどん増やして行く。幸運耐久値とは何だろうと調べながらなりゆきを見守っていると、ルナが少しだけ困ったような顔でこっちを見ていた。大人たちが頭を撫でてくれるのはいいが、なかなか開放されなくて困っているのだろうなと予想する。
ちなみに幸運耐久値とは、要するに幸運による防御力のことのようだ。
例えば、命を狙った銃の弾が胸ポケットのジッポライターに阻まれるとかそういうもののことらしい。例によって例えは悪いが、概ね間違ってはいないはずだ。多分。
再びルナの視線がこっちを向いた。その顔が明らかに困った様子なので、大人たちとの会話に耳を向けてみることにする。
「ラウデュークはどこに行ったんだ。こんな日に」
「――会って行ってやりなよ、ずっと心配していたんだから」
どうやら、ラウデュークという人物に会うように促されているようだ。
困るルナを見る限りでは、ルナはどうやらそれを嫌がっているように見える。何となく珍しいなと思いながら、「そろそろ行くか」と声をかけると、ルナは苦笑しながら「はい」と言いつつ、するりと大人たちの輪を抜けた。
名残惜しそうにしながらも、大人たちは口々に別れを惜しむ言葉を口にする。
「今まで良くして下さって、ありがとうございました」
最後にぺこりとルナが頭を下げると、大人たちのひとりがパチパチと手を叩き始めたのをきっかけに、ルナへと盛大な拍手が巻き起こった。
建物の門のあたりでは、打ち合わせ通りリーシャとローリーが立っていた。
ちらりと時計を見る。まだ少し早い気がするんだが、まぁフィアと話しながら待っていたようなので、手続き自体は終わっているのだろう。
ちなみに手続きとは、主人以外の人物がパーティメンバーなどとして常に行動を共にする場合、準主人としての登録をするのだそうだ。本来は必須ではないのだが、今後のトラブル防止のために念のためとサラディに押し切られ、ふたりはそれを承諾した。
ローリーはそれでも奴隷という言葉に抵抗があるようだったが、サラディの「あの子のためだと思ってくれないか」という言葉で陥落した。
「ルナ」
ローリーとリーシャがこっちに気付くより早く、ルナに声をかける子がいた。
ボサボサな髪と少し高い背をしているが、声が少し高くて端正な顔をしているため、男の子なのか女の子なのかは一見わからない。
「――ラウ」
「ヒドイね、僕には別れを言ってくれないのか」
「……見付からなかったのですよ」
ラウ、という呼称ですぐに思い出す。
多分この子がラウデュークという子なのだろう。僕という一人称だから男の子か。いや待て僕っ子である可能性が残されている。
「……ルナ、キミにコレを。皆と選んだんだ」
「――ありがとうございます」
少し空気が悪い中、ラウデュークが袋に入ったそれを手渡す。ルナは恐る恐るそれを受け取ると、警戒するかのように一歩距離を置いた。
「じゃあね、ルナ」
「……はい」
ラウデュークは言って、くすりと笑うと、片手を頭上に振りながら背を向けて歩いて行った。
ルナは手に持った袋を見ながら苦笑すると、「行きましょう」と俺の服の裾を引っ張った。
ローリーとリーシャと合流すると、4人でギルドの食堂に行くことにした。
以前ギルドからもらった食事券を使って食おうという魂胆だ。
まぁ食い放題と言ってもそこまで遠慮なく食おうというわけではないが、それなりに食えればいいかなとは思っているので、上限の4人が揃っている間に行こうというわけだ。
「ドロップを売ったお金は残ってしまいましたね」
「……生活にも金は必要だ。使う予定だった金は、パーティの共有財産として使えばいい」
「ですから……はぁ。もう少し物欲をですね」
呆れた声でリーシャが苦笑するが、そう言うリーシャも大概物欲が感じられないのは俺だけか。言わずにもらっておけばいいものを、わざわざ忠告してくれるのは、――まぁ仲間だから、ということにしておこう。
「前回俺が貰わなかった分だけは貰っておくが、残りの話だ」
「……それ、今考えたでしょう」
「バレたか」
冗談めかして笑ってやると、リーシャも苦笑ではあるが笑ってくれたのでよしとしよう。
ギルドに辿り付くと、文字の読めない俺以外、全員がメニューを持った。
ルナは俺の隣に座り、ひとつひとつメニューを説明してくれる。
とりあえず肉が食いたいと言ったところ、「サッディンラム・ミディアムウェル」という料理を勧められたのでそれにする。聞いてみればステーキものらしく、少し生っぽさを残してはいるが比較的よく焼いたもの、ということらしい。
「ミディアムウェルはルナの好みでしょう」
「さすがリーシャさま、バレましたか」
リーシャが言うと、ルナは笑いつつも、結局やってきたウェイトレスに俺たちの分まで合わせて4人分をまとめて注文していた。
やってきた料理は、鉄板の上に乗った、見るからにステーキだった。
「……中々イケるな」
「美味しいです」
焼き具合はどうかというと、俺もそうだがローリーにもちょうど良かったようだ。
「私はもう少し焼いた方が好みですが、これはこれで」
「あ、それなら切った後で鉄板に押し付けるといいですよ、こうやって」
熱い鉄板にルナが少し肉を押し付けて見せると、リーシャはそれを真似し、その後口へと肉を運ぶ。
「――ふむ」
さすがに口を開けるのははしたないと思ったのか、口をほとんど開けずにひと言だけ呟くと、リーシャはもぐもぐと口の中の肉を噛んだ。
試しに俺も真似して食ってみると、さっきまでの柔らかさに、外側が少さらにし焼けて食感が少し変わっている。鉄板が熱い間しかできないが、なるほど、これは確かにルナに任せて正解だったかもしれない。
「ほら、私ミカミさまに会うまでここで――」
「――何となくわかったからもういい」
とりあえず何かを言おうとしたルナだが、何を言おうとしているのか察したので、とりあえず頭を撫でて言葉を止める。
要するに、ルナは長い主人探しのほとんどを、ここでやったのだろう。その結果、他の冒険者たちがコレを食っているのを何度も目撃し、いつか自分も食ってみたいと思っていたのかもしれない。食い方もその時観察して覚え、想像したのだろう。
ルナはそれを「自分の好み」と言った。
――買い取ったのは俺だ。ルナなら少しくらい甘やかしても問題はないだろう。
今までも散々甘やかした気がするがな。




