フレンチトースト
話の流れで、フレンチトーストを作ることになってしまった。
まぁいいか。どうせ自由時間だし、急いでいるわけでもないしな。
お姉さんが材料を出すので自分も食ってみたいというので、キッチンを使わせてもらうことになった。
まず卵。パンが6枚――なぜかお姉さんのご主人と子供も食べたいとなったので数が増えた。ご主人が2枚食べるそうだ――なので卵も6個使うことにする。残った卵でスクランブルエッグも作るので多くても問題ない。
目分量で適当に牛乳、もとい羊乳を入れ、ちょっと少なかったかなと思いつつかき混ぜる。ついでに砂糖も少なめに入れつつさらに混ぜる。
まぁこの辺は卵の白身がパンにべっとり付かなければそれでいいと思っているので適当でいい。俺が面倒臭がりなのもあるが、そもそもフレンチトーストは本来一晩寝かせるものらしいし。その時点から本格派とは違うしな。俺は面倒なのでほんの表面に卵を染み込ませるだけだ。
パンは、安いものをと条件指定した。
理由としては、高いものはもったいないからだ。
少し固くなったくらいでいいのでと指定すると、本当に時間が経って固くなったものを持って来た。まぁ願ったり叶ったりだが。
……ふと思ったのだが、前にトーストとして食ったパンや、エッグトーストにしたパンもここで買ったのだろうか。あれは美味かった。パンとして焼くには、イースト菌みたいなのが必要だったはずなんだが、ひょっとしてそういう類のものは存在するのか。
一応常識検索しつつパンを卵に浸す。
「え?」
「は?」
浸した瞬間に変な声がしたが気にしない。さっきの反応でそんな気はしていた。
とりあえず手は水でちゃんと洗っているので問題はない。
とりあえず驚く面々を尻目に、フライパンに黄油を敷くと、フライパンの方を持って卵浸しのパンを投入。
「ルナ、弱火に頼む」
「え、あっ、はい!」
ルナが弱火にしてくれている間に卵の付いた手を洗う。
お姉さんは「ふむふむ」などと呟きつつ、どうやら何となく理解してきたようだ。
ここからは時間をかけてゆっくり焼くのが基本なのだが、ひとん家のコンロは勝手がわからんので、少し早めに裏返すことにする。ちなみにこれも、本格派だとじっくりゆっくり焼くらしい。裏返した後アルミホイルを被せて焼くと少しカリっとするらしいが、そもそもアルミホイルとかなさそうだし、そもそも浸した時間も違いすぎるしな。
フライ返しを宛てがい、ひょいと裏返すと、後ろで見ていたお姉さんの子供が、「すげぇかっこいー」と感嘆の声を上げてくれた。ちょっと鼻が高くなってしまいそうだが、実はちょっと裏返すのが早かったなんて言えない。
両面しっかり焼き上げて完成だ。
1枚焼くとパンに当たっていない部分の黄油が焦げるので、じゅうじゅう音を立てながら、フライパンのバターを水で軽く落とし、2枚目の準備のためにパンを浸す。
「ちょっとやってみてもいいかい?」
「え?あぁ、どうぞ」
お姉さんが言うので場所をどける。
俺のやり方をそっくり真似して焼き始めるが、とりあえずひっくり返すところだけは慎重にしっかりフライ返しを使っていた。
「いただきます」
手を合わせたのは俺とルナだけだった。
ひと口大に切ってあるので食いにくくはないはずだ。
ついでに、思ったより残らなかった卵を使ってスクランブルエッグも添えてみたが、あまりに少なかったので卵を1個、羊乳を少し追加した。
「うめぇ!」
真っ先に声を上げたのは子供だった。
「本当だ、美味しいね」
ご主人が次に賞賛の声を上げてくれるが、ご主人の作ったのはお姉さんの作った分なので、俺の手柄ではない。
お姉さんは1枚目で少し焼きすぎたため、もう一枚俺が焼いた。ルナの分と俺の分だけ、俺が作って見せた感じだ。
「ミカミさま、これ美味しいです」
「世辞はいいから食え」
大したものは作ってないんだが、褒められると照れ臭いな。ルナは一瞬「えー」という顔をしたものの、すぐに気を取り直して残りを口へ運ぶ。尻尾が揺れているので喜んでくれてはいるだろうと思う。
「パンを浸した時は何事かと思ったよ」
「どうせ浸すから安いものでもいいってことだったんですね」
まぁルナの推察の通りだ。安いパンってのは大抵固いパンやパサパサした食感のものが多いし、そもそも本当に美味くないパンでも大抵美味い。
「美味しいパンで焼けばもっと美味いんじゃない?コレ」
「いや、美味いパンはあんまり卵が染みなくてな」
子供が言ってくるので、思わずムキになって言い返したわけではない。実際、美味いパンってのはしっとりとしていて、……つまり適度に水気があって、あまり卵が染みて来ないことが多い。安いパンをと指定した理由はそこにある。水気がないものが多いので、すぐに染みるのだ。
俺の答えに、『あぁ』とルナとお姉さんの声がハモった。
「そう言えばそうかもしれませんね」
「わざわざマズいパン買って行こうとする理由がわかったよ」
オイ。マズいって自覚があるから安くしてたのかよ……。
食い終わると、子供は友達の家に遊びに行くと言って外へ出かけて行った。
ご主人は奥へと引っ込んでしまったので、ルナとお姉さんと俺の3人だけが残っている。お姉さんの淹れてくれた紅茶を飲みながら、少しだけ寛がせてもらうことにした。
「ちょっと相談があるんだがね」
「……何だ?」
戻って来たお姉さんが唐突に言って来たので、ルナと俺がそっちを向く。
「さっきの料理、ウチで売らせてもらってもいいかい?」
作り方はマスターしたはずなので、わざわざ俺に言わなくてもやればいいのに、とは思ったものの、まぁ勝手にやるとルナの手前ちょっとマズいと考えたのだろうと思い直す。
「あぁ、別にいいが」
とりあえず言ってやると、お姉さんは目を見張らせた。
「……いいのかい?」
「いや、自分でやりたいって言ったんだろ」
思わず突っ込みを入れつつも、アレって簡易的な作り方だからなぁとか、ちょっとマイナスな思考が頭をよぎるが、とりあえず本人が美味いと思って売り出すなら問題はないだろう。まぁ必要なら教えるが、それは本当に売り出す頃でも遅くはない。聞けば、1斤で売るようなパンはそれなりに売れてはいるものの、それ以外は大抵半分くらい売れずに残る上、レパートリーも少なく、最近の売り上げが伸び悩んでいるということらしい。まぁ新しいレパートリーを知ったら試してみたくなるよな。気持ちはわかる。
「なら、……いくらがいい?」
「――ん」
いくらで売り出すかということだろうか。
いやそこは自分で決めろよと思いながらも、「んー」と少しは考えてやることにする。
「そうだな……パンの値段がどんなもんか知らないが、卵と砂糖とミルクの値段を足して、釣り合うくらいの値段でいいんじゃないか」
「……いやそうじゃなくて」
「ミカミさま……」
お姉さんが苦笑し、ルナは呆れたような顔でこっちを見る。
あれ?何か間違ったか、と思い、少し考えて気付いた。
「アンタにいくら支払えばいいかってことだよ」
気付いたことを口にする前に、先に言われてしまったので、「あぁ」とまさに今気付いたかのように言う。べ、別に悔しくないんだから。
「――いら」
「ミカミさま!」
いらないと言いかけたところで、ルナが俺の口を塞ぐ。
「……ちょっと相談してもいいですか?」
「あぁ、構わないよ。あんまり高くしないでおくれよ?」
「ボッタクリはしませんから」
ルナは苦笑し、ようやく俺の口を離した。




