第5話「大人の階段ワンワンおうどんですわ~」
金欠ですわ~!
でも腹は減る、これこそが現代の哲学この上ないですわ~! 特に小テストの日なんてお脳さまが「飯をよこせ」と最重要命令を出してきますの~! もしもわたくしの手足が熱湯に付けられていても優先すべきは飯だと信号を発するのはゆらぎ無い事実この上ないですわ~!
「わたくし本日はおうどんにしますわ。お安くてもあたたかい。幸せってきっとこのおうどんのことを言うんですの~!」
パッツンさまにそう宣言したら笑って同じものを頼んでおられましたわ~! わたくしパッツンさまのそういう所大好きですの~! そういえば、ガクショクではあまり麺類は頼んだことがありませんわ~! やっぱりお昼はお米。ごはんこそが最強。美味しくて腹持ちが良くて美味しくて、あと……美味しい。ですが本日はおうどんさまに寝返りですわ~! たまたま今日は北風もガチクソ労働されておりましたのでちょうどあたたまれますわ~!
「はいはいはーい! わたくしがかけうどん大盛りの方でございますわ~! え、増やせるんですの!? でしたらもりもりにしてくださいまし~!」
おねぎとお天かすがもりもりなんて太っ腹ですわ~! オバチャマさまは光の速さでわたくしのおうどんにもりもりかけうどんを乗せてくださいましたわ~! 初めは質素だったかけうどんが一気に爆盛トッピングでぜいたくおうどんに大変身ですわ~! こりゃあこちらもバチコリ本気を出さねばご無礼というものですわ~!
「いただきますわ~! うっひょー美味しそうですわ~! おちゅるるるん! ん~これこれですわ~!」
このおうどんをおすすりするのもすっかり慣れてしまいましたわ~! わたくしもニッポンの文化に慣れた文化人ですわ~! 文化的お嬢様なんて死角はありませんわ~! エビデンス!パラダイム!イシューはKPIでウィンウィンですの~! ニッポン語も完璧ですわ~!
「ふぃ!? ぱ、パッツンさま、それはなんですの……? そんなお真っ赤で……それは、お辛いものではなくって……?」
パッツンさまが気づいたら大人の階段をお登りになってましたわ~! わたくし刺激があるものは少々苦手なんですけども……パッツンさまのおすすめなら少しばかり興味そそられますの~! ものは試しにおパラパラですわ~!
「おちゅるるん……んぅ……? おいし……いやこれかっれえですわ! ……でも、なんですの? お体ぽっかぽかですわ~!」
やっぱりわたくしには刺激的すぎますわ~! おとうさまが脱衣所ですっぽんぽん仁王立ちしてたのを目撃してしまったレベルの刺激ですわ~! でもなんだかこの刺激、少しだけなら悪くない気もしますの……この気持ちなんですの……。もしかして、恋!? んなわけねえですわ~! 恋が気軽にかけ放題なんてあるわけないですの~!
「ひーでもこれはお水が美味しいですわ。……いやでもかっれえですわやっぱり!」
これを平気な顔で食べているパッツンさま……こやつ幼い顔して心はお嬢様すぎますわ~! ちくしょうなんだか負けた気がしますわ~! ライバル登場でわたくしピンチですの~! でもピンチはチャンス! これを機にわたくしも大人の階段登頂チャレンジ開始ですわ~!
「かっらいけれど、もう少しおパラパラ……止めないでくださいましパッツンさま! わたくしなんだかもう少しで大人になれそうなの……」
なんだかこの辛さ、もう痛さになっておりますけどやめられないですわ~! すっ転んだときの痛みとは違う口内の痛み。こんなの初めてですわ~! なのにちょっと楽しいってどういうことですの~! なんですのこれ~! かっらくていってえけどちょっとだけ楽しい。わたくしのお脳みそ、おバグりになってしまわれたの~?
「すっ……ってオメグミさま!? なんですのこれ……差し入れ? いいんですの!?」
オメグミさまから差し入れを頂きましたわ~! なんですの格好良すぎますわ~! すっと差し入れしてさっと去る……格好良すぎですわ~! あちらのお客様からですわ。すー……パシッ! 的な格好良さがありますの~! こんなのお惚れになっていますわ~! 今でもだいぶん惚れてしまいましたけれど~!
「パッツンさま、はんぶんずっこ致しましょ! ……なら仕方ないですわねわたくしが二個ともいただいちゃいますわぱくー!」
お腹いっぱいなら仕方ないことですわ~! 間髪入れずわたくしが美味しくいただいちゃいますわ~……って!
「なんですのこれくっそうめえですわ! じゅわって! じゅわって甘いお汁を吸ってるおむすびですわ! これはなんですのパッツンさま!」
お、おいなりさんと言うんですの~!? なんてお可愛らしいお名前! ですが食べ物を「さん」付けするのはやはり親子丼や目玉焼き同様、何かしらのおサイコな感じも致しますわ~! 多様性大国ニッポンですわ~! 第一話を読んでいない方はぜひお読みになって~!
「むむむもしかしてこれ……おずずず……。やっぱりですわ~! この甘いじゅわりのおいなりさん、少し辛くてしょっぺえお汁と相性抜群ですわ~!」
もしかしてこれを狙っていたのかしらオメグミさま~! わたくしが辛く険しい大人の階段を登っているのを見て、甘美でとろけるような助け舟を出してくれたんですの~! 優しいですわ~! 優しさはオメグミさま、オメグミさまは優しさですわ~!
「おずずずず……ぷぅ! これはごち! ごちのそうさまですわ~!」
本日もしっかり完食致しましたわ~! お昼のおうどん、素敵でしたわね……わたくしごはん党から寝返ってしまいそうですわ~! 裏切りのお嬢様カロリーちゃん爆誕ですわ~!
「パッツンさま……またああいう大人の階段あったら教えて下さいまし……。あ、オメグミさま! 先程はごちでございましたわ~! またわたくし、お礼の品をお包み致しますので!」
オメグミさまはひらひら手を振って机に突っ伏してしまいましたわ~! やっぱり格好いいですの~!
「パッツンさま、オメグミさま、お二人はなぜわたくしにこう色々お恵みしてくれるんでしょうか……」
前々から不思議でしたの。確かにわたくしはお嬢様ですし、素敵すぎる美貌を持っておりますし、気品もあって愛嬌もあり、おダンスも踊れればニッポン語もペラペラで賢いとまで来ているとはいえ……少しばかりおサービスがすぎるってなもんですわ~! 昔のわたくしならともかく、今の国から離れたわたくしなんて価値のあるお礼を出来るほど恵まれておりませんのに……。
「……んうぇ!? いまワンちゃんみたいだと仰っいましたの!?」
それは無いですわパッツンさまオメグミさま~! わたくしそんなにキャンキャンお吠えになってはないですのよ~! でもわたくし、大人の階段を登りきったらワンちゃん卒業じゃなくって……? ようしがんばりますわ~! 辛いものもワンちゃんも乗り越えて大人になってみせますの~!
……でもちょっと、次はお休みで。辛いものを食べたら今度は甘いもの食べたくなってしまいましたわ~! あまあまなんてまさしくおこちゃま。こんなの大人の階段どころか上も下も無い無限回廊ですわ~! どなたかお助けを~!




