すべての幸福を、自分で手放したのだ
ハントは壊れた。
床へ崩れ落ち、声を上げて泣いた。
なぜ、もっと早くヒルダの手紙を開かなかったのだろう。
自分の知らない場所で、息子は生まれていた。
そして、あまりにも短い時間で、この世界からいなくなってしまった。
ヒルダがどれほど苦しんだのか、想像することすらできなかった。
手紙の中の彼女は、愛と待つことだけを綴っていた。
きっと強く子を宿し、この子さえいればハントは戻ってきてくれる、もう他の女を見ず、自分だけを愛してくれると信じていたのだ。
それなのに。
ハントは彼女を裏切った。
彼は最速でヘクトール伯爵領へ戻った。
長い船旅の不快感も、吐き気も、苦痛も、今の彼にはどうでもよかった。
ただ一刻も早くヒルダに会い、彼女を抱きしめたかった。
けれど、ヒルダは前回のように門前で彼を迎えてはくれなかった。
屋敷の門前には、女中や使用人たちが一応並んでいた。
だが彼らの手には、途中までしていた仕事の道具がそのまま握られている。
箒。
水の滴る皿。
布巾。
籠。
どう見ても形ばかりの出迎えで、早く自分の仕事へ戻りたがっているようだった。
ハントは使用人たちを見回した。
見覚えのない顔が多い。
「彼女はどこだ?」
女中たちは顔を見合わせた。
やがて、中央に立っていた赤髪の女中が一歩前へ出て、頭を下げる。
「この一か月、伯爵様からは何のご連絡もございませんでした。ヒルダ奥様は、アイデン坊ちゃまの件でお心を痛められ、気晴らしのためにお出かけになっております」
「お前たちは、私の息子をどう世話したんだ!」
ハントは怒鳴った。
「彼は未来のヘクトール伯爵家の後継者だったんだぞ! それを、お前たち愚かな女中どもが死なせたのか!」
赤髪の女中は、顔色一つ変えなかった。
「誠に申し訳ございません。この一年、奥様は伯爵家の内務すべてをお一人で取り仕切りながら、アイデン坊ちゃまのお世話もなさっておりました。私ども使用人も、力の限りお支えいたしました。けれど、運命の神の召し上げには敵いませんでした」
彼女は淡々と続ける。
「もし伯爵様が、奥様のご懐妊を知らせる手紙を受け取った時点ですぐにお戻りになっていれば、あるいは違う未来もあったのかもしれません」
「女中の分際で、伯爵である私にその口の利き方は何だ!」
「事実を申し上げただけでございます」
「名前は」
「アンジェラと申します、伯爵様」
「お前は今日限りで解雇だ! 紹介状も書かない!」
「承知いたしました。荷物をまとめておきます。家政を預かる奥様がお戻りになりましたら、正式に辞去のご挨拶を申し上げます」
背後の使用人たちが小さくざわめいた。
だがハントはそれを無視し、荷物を掴んで屋敷へ入った。
そのまま寝室へ向かう。
その時、彼は伯爵夫妻の寝室の隣にある一室の扉が開いていることに気づいた。
華麗に飾られた主人夫婦の扉とは違い、その扉は空色に塗られていた。
表面には、可愛らしく簡略化された動物たちが草原を駆ける絵が描かれている。
伯爵家の子供部屋だった。
両親が子を見舞いやすく、使用人が小さな主人の世話をしやすいよう、部屋の左右にはそれぞれ扉がある。
一つは主寝室へ。
もう一つは、養育係の休憩室へ通っていた。
ハントも幼い頃、短い間だけこの部屋で過ごしたことがある。
だが父である先代伯爵は、後継者はできるだけ早く独立すべきだと言い、彼が五歳ほどの頃には大人用の寝室を与えた。
ハントは扉を押し開けた。
部屋の中央には、揺り籠が置かれていた。
柵には精緻な彫刻が施されている。
片側には、野獣が野原で鹿を狩る姿。
もう片側には、茂った草むらに身を隠した鹿と、獲物を見失い飢えかけた野獣の姿。
天井は新しく塗り替えられていた。
深い青色の上に、星々と星座が細かく描かれている。
美しい夜空だった。
床には赤子の玩具が散らばっていた。
小さな鈴。
鮮やかな色の球。
可愛らしい絵の布絵本。
風に揺れると澄んだ音を立てる、不思議な形の毛糸玉。
棚には幼児用の衣服や玩具が乱雑に置かれている。
誰かが激しく感情を乱し、何度も掻き回した後のようだった。
窓辺には、細工の美しい花瓶がいくつも並んでいた。
だが中の花は、すでに乾ききっている。
揺り籠のそばの小卓には、何冊もの本が積まれていた。
どれも何度も読まれた痕跡がある。
ハントはふと視線を落とし、息を呑んだ。
それは、かつて彼が屋敷で好んで読んでいた恋愛小説だった。
一番上に置かれていたのは、結婚前の彼が特に気に入っていた一冊――
『虐げられた奴隷少女は、孤独な大公に溺愛される』。
その物語で、主人公たちの長男につけられた名は―アイデン。
ヒルダは、自分を理解しようとして、彼の好きだった小説を読んだのだろうか。
だから、その名を思いついたのだろうか。
ハントはその場に膝をついた。
呆然と、部屋のすべてを見つめる。
もっと早く、手紙を開いていればよかった。
あの時、くだらない自尊心と照れくささに負けて、ヒルダを置いて行かなければよかった。
もっと早く仕事を捨て、家へ戻り、伯爵としての義務を果たしていればよかった。
もっと早く自分の心を認め、ヴィクトリアと決別し、ヒルダと向き合っていればよかった。
誠実に、彼女を愛していればよかった。
すべての幸福を、自分で手放したのだ。
アイデンはもういない。
では、ヒルダは。
このような自分を、まだ愛してくれるのだろうか。




