エピローグ
「あの話、おまえが書いたのかっ!?」
「うん、君のイメージで」
「えーっ? お兄ちゃんがケイティのモデルっ? すごいすごいっ。似てると思ってたんだーっ」
「似てないよ!」
「似ていませんか? フィギュアを作る時、できるだけそっくりにしようと思って、すごく注文をつけたのですが」
「あら、二人ともそんなに親しかったの?」
「いえ、ミズ・エリコ。出会ったのは一度きりです。ですが彼の印象は鮮烈に残りました。わたしの心に」
「やだー、意味深―っ」
「なに喜んでるんだ、瑠璃」
「だって榊原に知らせたら、三本は小説書くよ」
「サカキバラ?」
「瑠璃の友だちで、腐った話を書いてる女子中学生」
「お兄ちゃんを見てると、創作意欲が沸くんだって」
「それは、わたしも同じです。彼を思うと何本も、小説のアイディアが沸いてきます!」
「おまえら、変だ……」
「子ども心にも強烈に、彼の気高さは印象に残りました。恐怖に相対しても退かない勇気。弱きものに手を差し伸べる優しさ。
そして、下僕をしかりつける容赦なさ! 素晴らしい女王様でした!」
「女王……っ? なんでそんな特殊な用法で使うんだ、アーサーッッ!」
「言ったでしょう。日本文化を研究したと。君の全てはことごとく、わたしの萌えツボにハマりました」
「専門用語使うなーっ。そんな王子さまな顔でーっ!」
「タカシ。それは差別発言です。顔と萌えツボは関係ありません」
「だからそんな顔で、オタクな発言しないでくれーっ!」
ノーラは水鏡に手をかざすと、映像を消した。
「にぎやかだねえ、あの子たちの周りは」
呆れたように言ってから、にやりとする。
「ま、でも見ていて楽しいよ。時間のねじれも大した事なかったみたいだしね」
「そうですか?」
疑わしげにトリスタンが言う。
「随分と影響が出たように見えますが」
「あの二人はどっちにしろ、出会う運命だったのさ。早いか遅いかの違いだけだよ。
タカシはアーサーに霊感を与える役割を持っていたし、アーサーは作品を作る人間になる運命にあった。なにせ、エレンの息子だし。あたしが妖精だって、一目で見破った人間の子どもだよ?」
「微妙にタカシが気の毒な気がしますが」
「乗り越えるだろ。あたしの孫だよ?」
トリスタンは密かに隆志に同情した。
「それにしても、タイニー・ケイティねえ。よっぽどタカシが気に入ったんだね」
「その名前がどうか?」
「タ、カ、シ。タイニー、ケイ、ティ。似てるだろ? 発音、ほとんど同じじゃないか」
「そう言えば」
「今度、小説読んでみようかね。タカシがモデルだって言うし」
「読み終わったら、私にも回して下さい」
* * *
アーサー・ロイド作『タイニー・ケイティ~私の愛した妖精』。妖精界で、密かに流行中。
終わりです。完結までに三年もかかってしまいました。読んでくださった方、ありがとうございました。
このあとは、後書きなど、少しつける予定。