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――俺のシーズン初戦。
グランプリシリーズNHK杯。
グランプリシリーズは、国際スケート連盟の公式大会である。
シリーズ全六大会に、各選手は最大二大会にエントリーすることになるが、その二大会の成績上位六名は、頂上決戦であるグランプリファイナルへ出場することができる。
当然、グランプリファイナルに出場することは、選手にとって一つの大きな目標になってくる。
俺は公式練習に参加するためにホテルから会場のドームに向かう。会場に着くと、一緒に滑る他の五人はすでに揃っていた。
――当然、その中には、実の弟の姿もあった。
白河翔馬。
まだ成人さえしていない19歳の少年。
俺と血が繋がっているとは思えない容姿をしている。
すらっとした手足に、どこか中性的な顔立ち。だが、近づくと、その体は確かに筋肉質で、静かな力強さを感じさせた。
「久しぶり」
俺が声をかけると、翔馬はほとんど表情を変えることなく「久しぶり」と答えた。
俺たちは血の繋がった家族だ。でも、翔馬が5年前にカナダに渡ってからはどんどん「他人」になっていった。
普段電話もメールもしないし、試合で会うことはあってもほとんど話さない。
別に無視してやろうとか、そんなことを思っているのではない。
でも、なんとなく、――多分、俺が避けているのだろう。
昔は決して仲が悪い兄弟ではなかった。でも、俺の中で翔馬はいつしか「無敗のフィギュアスケーター」になってしまって、それでどんどん心の距離が広がったのだ。
「元気か」
俺が聞くと、「うん」と翔馬は素っ気なく答えた。
挨拶だけしてそれで終わり、というのでは家族としてあまりにも冷たい。だから、せめて二言三言は喋ろうと思うのだが、何も言葉が出てこない。
沈黙。そして10秒ほど後に出てきたのは――
「……引退、するのか」
そんなこと聞いてどうするんだ――と自分でも思った。
そして、翔馬は頷いた。
「もう、僕に勝てる奴なんていないから」
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