根源は思い描きし場所
息苦しくてばたばたと手足と暴れさせ、躰をよじる晴明。
右手は口を押さえ、漏れる空気を逃さないようにしているが、それも無駄な行為。
隙間からどんどん逃げていくのだから。
晴明のもがく姿を、崇慧が冷ややかな視線で見つめていた。
横には天一の姿もある。
いつまでももがいている晴明に、だんだんと苛々を覚え始めた崇慧は、右足を後ろに振り上げ、息を吐き出すと共に晴明の背中を蹴りつけた。
「ふぎゃあぁっ!」
突然の激痛に見舞われ、暴れるのを忘れて背中を押さえる。
「いつまで、溺れたふりをしている」
聞き覚えのある声に、背中を擦りながら顔を向ける。
「た、崇慧? そ、それに天一さん?」
訳がわからない晴明は眸を白黒させて、二人の顔を交互に見た。
「ぼ、僕は水溜りみたいなのに引きずり込まれたんじゃ?」
「ああ、引き込まれたさ。引き込まれて、現世に戻ってきたんだ」
「戻って、きた?」
「そうだ、戻ったんだよ。現世に」
「え? な? もど・・・・・・ど、どうやって?」
「こいつのおかげだ」
親指で天一を指す。
「天一さんの?」
「そうだ。天一の神力だ」
「で、でも、どうやって?」
「お前がいたからだ」
「僕? 意味がわからないよ」
一言主の作り出した世界なのだから、創造主を討てば世界は崩壊するし、晴明は現世に戻る方法をもっておらず、強情な性格の崇慧が十二神将に頼むはずがない。
天一にしてみれば、これらは想像に容易いことゆえ、先手を打っていた。
現世と次元の狭間を繋ぐ触媒として、晴明を使ったのだ。
正確には晴明の持つ、崇慧が与えた複数枚の呪符を。
呪符は崇慧が幾日もかけて作り出した物であり、製作者の霊力が込められている。
それから、晴明の血も。
晴明が使えるように彼の血を墨に混ぜ、崇慧の霊力を編み込んだ、いわば二人の魂が刻まれた符だ。
符を晴明がすべて使っていれば助け出すことはできなかったが、そうしなかったのが幸いした結果でもあった。
「と、とにかく、助かったってこと?」
「そうだ。助かったんだ」
「助かった・・・・・・助かったんだ・・・・・・」
同じ言葉を連呼し、心の底から安心したものの、それを覆す言葉を口にする崇慧。
「本当の敵は他にいる」
「え?」
「やつの封印を解いた陰陽師、そいつを見つけ出さないと」
「一言主の封印と解呪した、陰陽師・・・・・・」
はっと思い出す。
賀茂邸の前で聞いた声。あれが諸悪の根源なのかと。
「だ、だけど、どうやって探すの? あてがある訳じゃないし、難しいんじゃ?」
「あてならある」
「ほ、本当に!?」
「ああ、確証はないが、行けばわかるだろう」
「い、行くって、どこに?」
「会いに行くのさ、一言主の封印を解いた方士がいるだろう、右京にある寂れた邸に」




