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陰陽双記譚  作者: 奥義 扇
積暴の魂を打ち砕け
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笑う場所と場面をわきまえよ

 幼児の姿に戻っている一言主は荒い息を整え、おぼつかない足取りで捕らえた陰陽師の元に向かっていた。

 幻獣化したことにより、蓄えていた霊力の半分近くを失い、元に戻ったことで一気に反動がきたのだ。


『わ、われがここまで力を失ったのも、封じられていたせいだ。本来の力があれば、このような結果にはならぬはず。口惜しい』


 ぎりぎりと歯噛みし、憎らしげに前を見る。


『そして、あの陰陽師との戦いで浪費したことも原因か……』


 そこに、意識を取り戻した崇慧(たかとし)の姿があった。

 彼は必死に、巻きついた糸を振りほどこうとしていたが、いまだにそれは叶わず、一言主の帰りを迎えてしまった。


「なんだ、帰ってきたのか。もう一回どこかに行けよ」

『そのような状態にもかかわらず、口の聞き方を知らぬようだな』

「どんな状態であろうと、俺は俺だ」


 睨みつけ、動かない手足を動かそうとしながら反論する。


『そのような格好で足掻いたところで、なにもできはしまい』


 残忍な表情で笑みを作り、手を伸ばす。


「俺の躰の触るんじゃない」

『動けない躰でなにができる』


 太股を触り、舌なめずりをする一言主。

 やはり、触れる。


「なにをするつもりだ?」

『決まっている。貴様を喰ろうて、糧とするのだよ!』


 それまで子供の顔をしていた一言主だが、一気に豹変し、頬まで口が裂け、歯を牙に変えて(かじ)りつかんとする。

 崇慧(たかとし)は歯を食い縛り、眸を瞑ってこれから襲う激痛に反応して躰に力が入る。

 さっきまでと違い、一言主の牙が肉に喰い込んでいく。

 ちくりとした痛みが腿から全身に駆ける。

 だが、思ったほどの痛みではない。

 どうしたのかと眸を開くと、一言主の躰が動いていなかった。

 動いていないというよりも、動けないといったほうが正解だろう。

 見ると、白い布のような物が一言主の手足や躰に絡み付いて動きを止めているのだ。

 白い布の出所を探るように視線を動かして行き、それが解かった瞬間、崇慧(たかとし)の眸が見開く。

 そこには白い狩衣(かりぎぬ)をまとい、一言主を縛りつけている晴明(せいめい)がいたからだ。

 臆病者の晴明(せいめい)が、自分を襲おうといている一言主を押さえつけている。

 予想外の人物が、予想外のことをしているのだ、驚かないはずがない。


「だ、大丈夫、(たか)と……」

「ぎゃははははっ! なんだ崇慧(たかとし)、その格好は!!」

「え? え、え?」

「そんな偽者の神に捕まって身動きできないのかよ!」


 晴明(せいめい)の陰で見えなかった(はれ)が姿を現し、崇慧(たかとし)を指差して大声で笑い始める。


「ちょ、ちょっと(はれ)、今はそんなことを言っている場合じゃないよ。早く崇慧(たかとし)を助けないと」

「え~、もうちょっとあいつの情けない姿を拝ませろよな~」


 両手を頭の後ろで組み、のんきな(はれ)に鋭い視線が注がれる。


「おい、(はれ)……」


 無感情な声が能天気な(はれ)の表情を強張らせる。


「貴様、なにを笑っている」

「お、お、お、俺は、笑っていない。こいつが笑ったんだ。こいつは、俺の深層心理だからな」

「え!?」

「そうだ、こいつは心の奥で、お前の姿を見て大笑いしているんだよ」

「な、なにを言っているんだよ、笑ったのは君だろ。僕は笑ってなんかいないよ」

「いいや、笑った、笑ったん……!」


 責任転嫁をしようとしていた(はれ)だったが、動き出した一言主に気がつき言葉が止まる。

 瞬間、張られていた白い布が弛む。

 引っ張って動かないなら、逆のことをすればいいだけのこと。

 標的を崇慧(たかとし)から自分を戒める晴明(せいめい)に切り替え、迫ってきた。

 引っ張っていた布が弛んだことで、バランスを崩して転倒する晴明(せいめい)


「ばっ、晴明(せいめい)! 何してんだ!!」

「だ、だって!」

「だってじゃないだろう!」


 晴明(せいめい)を罵倒しながら、前に乗り出す(はれ)

 転んだ拍子に布を手放すと、一言主の体中に絡んでいた布が解かれ、戒めから開放されると、嬉々として迫りながら晴明(せいめい)の首に向かって手を伸ばす。

 その手を睨みつける(はれ)は、深呼吸をすると、裂帛の気合と共に吐き出す。


「はぁ!!」


 繰り出す小さな拳が、一言主の大きな掌に突き出される。

 ぱぁ―ん、と肉と肉が弾ける音が響き渡ると、(はれ)の躰が後方に吹き飛ばされていく。


「あ~~れ~~?」


 こんな時にも、(はれ)は気が抜けた声を出しながら、後ろの闇に紛れていった。


「は、(はれ)!?」

『式神のことなど心配している場合か?』

「え!?」


 後ろに気を取られた間に、一言主は晴明(せいめい)を見上げるように佇んでいた。


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