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第六話「戦乙女の目覚め(前編)」

「んッ……あれ?」

 うめき声と共に目を開けた僕の瞳に飛び込んできた光景はぼやけつつもいつも見ていた天井とは別のものだった。

(ああ、そうか。昨日は参謀殿の見つけてくれたお城に泊まったんだっけ)

 次第にはっきりしてくる視界に映ったのは、染みがある和風の天井ではなくベッドの天蓋。長年従事している人は偉大だと思う。ボロボロだった客室は僕が眠りにつく頃には現役時代のクオリティを取り戻し、埃一つない立派な部屋に戻っていたのだから。

「これは、メイドさん達にお礼を言いたいところだけど……格好つかないよなぁ」

「じゃろうな」

「っわぁ!」

 嘆息する僕にとって、起き開けに出現する魔導死霊は仰け反るに足る破壊力を持っていた。と言うか、朝っぱらからミイラ化した顔に出くわしたのだ。

「おっと、驚かせてしまったかの?」

「そりゃ、驚きますよ。僕、寝起きですよ?」

 勿論寝起きに突然声をかけられた事なんて全体的な衝撃の二十%にも満たない。

「すまんの、この身体に睡眠は不要じゃからな。まして、お前さん以外の者は夜中も働き通しじゃったしの」

「ああそうか。騎士や兵は略奪者の撃退に出かけて……残った人達は城の手入れと墓地の用意だっけ?」

 アンデッド作成魔法の大盤振る舞いを行った為に城は急ピッチで元の姿を取り戻しつつあり、同時進行で今生に未練のなくなった者達が眠る為の場所も整備されつつあったらしいのだ。らしい、とは僕が眠っていて様子を確認していないからなのだが。

「じゃあ、出かける前に挨拶回りがてら城の様子も見てから行こうか」

 勿論、『冥王』としては偉そうにふんぞり返りつつ城をぐるぐる回るだけだ。僕個人としては一人一人には無理でも会った不死者全員に挨拶をしておきたい所だが、それでは威厳が保てない。

「ならばワシは一足早く城主殿に挨拶がてら城を開けるむねを伝えておくとするかの」

「あ、よろしくお願いします」

 参謀殿が連絡しておいてくれるなら、朝の散歩に時間をかけすぎて途中で立たなければならなくなっても角は立たないだろう。

「さてと、どこから見て回ろう」

 昨晩は殆どアンデッド作成魔法の行使で城を歩き回りはしたものの、途中から日が暮れ始め殆ど足下しか見られなかったのだ。準備段階で偶然通りがかった旅人にでも見られると拙いと明かりの使用を徹底的に避けたせいでもある。

「やっぱり、暗くなって見られなかった西――」

「はああっ、たあっ!」

「っ」

 思案しつつ歩いていた僕は、呟きをかき消して城内に響き渡った声にすくみ上がり。

「な……」

 思わず周囲を見回した。それが女性の声だったことに少し羞恥を覚えたが、不意を突かれたのだからそこは大目に見て欲しい。

(って、僕は誰に弁解してるんだろう……そんなことより、さっきのは)

「あっ」

 声のした方を重点的に探せば、先方もこちらに気づいたのだろう。声を上げ、顔を赤らめた女性には見覚えがあった。

「も、申し訳ありません……驚かせてしまった様で」

 縮こまりつつ頭を下げたのは、客室を整えてくれた侍女の一人。何故か手には兵が訓練に使うものらしき木剣が握られているのだが。

「生前の習慣なんです」

 問うまでもなく語り始めた話しによると、この女性は騎士に憧れつつも身分と性別から願い叶わず侍女として城勤めをしていたらしい。

「落城の折も剣を手に戦いましたが……」

(うん?)

 このくんだりまで聞いた頃、僕の脳裏を過ぎったのは、昨晩の悩み。僕は、戦乙女を変わりに務めてくれる人物を求めていたのではなかったか。

(よくよく考えたら一人でスカウトした戦死者達の指揮を執るのは無理があるよなぁ)

 人任せにするのは問題だとは思ったが、分隊長とか武将、指揮官クラスの人材が居なければ組織は立ちゆかないだろう。

(そもそも参謀殿と僕だけじゃ華がないし)

 この時、僕の中で天秤は大きく傾き始めていた。この女性を側近に加えたいと言う方向に。

(けど、何て言おうかな……一応、この人は『冥王』としてしか認識してないんだよなぁ)

「あの、冥王……様?」

 僕が黙っているからだろう、目の前の侍女はおそるおそる僕の顔を窺って。

(って、黙ったまま居たら不審に思われる……っていうか、もう訝しみ始めてるじゃないか。えーと、えーと)

「あの……」

 僕は混乱していた。

「汝が……お前が、欲しい……」

 何であんな言い方になったんだろう、と後悔したのは後のことで。僕の爆弾発言に女性は音でも立てるんじゃないかと思うほどの勢いで凍り付いて。

(いや、確かに人材として欲しいし。美人だし、好みのタイプではあるんだけど……って、そうじゃなくて)

「はい……」

 次に凍り付いたのは僕だった。頬を染め潤んだ目で、しかも上目遣い。確かに彼女からすれば僕は恩人にあたるかも知れないが冥王の方は最初に幻術を使う余裕がなかったこともあって外見は百%自前なのだ。常識離れした魔法こそ使って見せたが、この時点でOKを貰える理由がわからない。

「ついてくるが良い。お前の主にも許可を貰わねばならん」

「は、はい」

 こうなればもう自棄だった。何故目を輝かせて僕の後をついてくるのか、と言うか思いっきり誤解させちゃったんじゃないかなどと胸中で頭を抱えながらも僕は歩き出す。元城主と参謀殿が居るであろう謁見の間へ向かって。

予告詐欺すみません。書いてる内に出発が長引いて『冥王』パートのままずるずると。

一応ヒロイン候補ゲット。

「騎士志望だった剣で戦えるメイドさん(幽霊)」です。


後編は彼女を戦乙女にする話になると思います。

というか、今度こそ予告通りに進めたい。


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