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第五話「冥王様の宿探し」

「さて、我が居城とするに相応しき場所を探すとしようか」

 戦乙女として戦死者達を故郷の村々に送り届けた僕は、幻術を解いて冥王に戻っていた。全く持って一人二役は忙しい。勿論身から出た錆でもあるのだが、送り届けた人達へ明日の朝迎えに行くと言った以上、何処かへ一泊する必要があったのだ。

「ワシの住んでいた塔ではダメかの? 補修すれば仕えると思うのじゃが」

「心遣いは嬉しいが、それは出来ぬ。元の主からお前が割り出されては後々面倒なことになるやも知れぬ」

 そもそもこの世界は乱世なのだ。戦の為に遺棄された城や砦、廃村など探せば今後の活動拠点になりそうな場所には事欠かないだろう。

「戦によって落城、多数の戦死者を出して遺棄され数年が経過した城か砦でもあれば申し分はない」

 常人ならそんな不気味な場所には一泊するのもゴメンだろうが、僕にとっては戦力兼労働力と住居を同時に確保できると言う意味ではまさにうってつけだった。

「なるほどの、その冥王とやらの『いめーじ』を作るにもそう言った場所が良いわけじゃな?」

「落ちてすぐの城では奪還や補修して再利用しようとする者が居るやも知れぬ」

 だからほどよく時間の経過した場所をリクエストに入れたわけだ。

「なら、場所も辺境の方が良いじゃろうな」

「そうですね。参謀殿、拠点候補探しお願いします」

「それは構わぬが、冥王はもういいのかの?」

「今は二人だけですし、今日は色々キャラを作って疲れたんですよ」

 頭を下げた僕にきょとんとした顔で聞き返してくるリッチへ苦笑を返すと朝令暮改も甚だしいと思いつつも、僕は考え始めていた――戦乙女代行の選定を。色々やってみて予想以上に疲れたのだ、特に精神面で。そもそも、僕は武術の方がからっきしダメだった。小学生の頃、剣道を二ヶ月囓っていたがはっきり言って素人と変わらない。

(戦乙女って言えば、やっぱり先陣を切って敵に斬り込んで行くイメージだよなぁ)

 神々の力で身体能力は強化されているし、幻術と闇の神の加護を駆使すれば戦うことも出来はするだろうが、そもそも戦いにおける心構えの時点で蹴躓く。

(真剣持った相手と僕は向き合えるだろうか)

 明らかに腰が引けてる戦乙女を想像して、僕は小さく嘆息する。

(けど、僕の力で乱世を収めないと拙いのにこれ以上人頼みにするのもなぁ)

 何だかずるいことをしている様で微妙に気が進まない。

「冥王殿、冥王殿……」

「えっ、あ、ああ……っうぉ!」

 呼ぶ声に振り向いた僕が仰け反ってしまったのは、ぽっかりと空いた黒い眼窩が至近にあったからだが、これは当然我が参謀殿の目で。

「いかがされたかの?」

「いえ、考え事をしていたので驚いたんですよ」

 嘘は言っていない、が至近距離にあったミイラ化した顔の方が主な原因だったなど言えなかった。この元魔術師にはさんざん世話になりっぱなしなのだ、そんな心ないことの言えるほど僕は恩知らずではなかったし。

「ご希望に添う物件が見つかりましたのでの」

 そう、今から対面することになるはずのだ、おびただしい数の屍と。

「ありがとう。それじゃ、せいぜい邪悪な居城を構えるとしますか」

「じゃの。では、案内するとしよう」

 次の瞬間、僕の周囲にあった景色が歪み。

「到着じゃ」

「うわぁ」

 攻城兵器の跡なのか、あちこちのえぐれた城壁が僕達を出迎えてくれていた。



「して、力及ばず落城。城主たる汝はこの場で命を落としたか」

「ううっ、口惜しや……」

 城壁に囲まれた城の最上階――ではなく、二階最奥の間で僕は先の城主と面談していた。先住者なのだ、(ないがし)ろにするつもりは毛頭ない。化けて出られても怖……もとい面倒なので、心残りがあってこちらで何とか出来そうな者なら叶える腹づもりでもあった。

「願いの内、『家族と共に眠りたい』と言う望みは叶えよう。ただし、我が叶えるはそこまでだ」

 敵討ちなど、死者の為に生者を殺すことなど出来る筈もない。

「汝の領民に夜盗まがいの真似を働く下種共は汝等からすれば捨て置けぬだろうが、我には何の関わりもない」

「では、その魔法は何じゃな?」

 僕に参謀殿が茶々を入れたのは流石と言うべきか。突っぱねるようなことを言いつつも僕がアンデッド精製の魔法をかけた甲冑はむくりと起きあがり、兜の奥に禍々しい赤い光をともして歩き出す。

「戯れ、よ。汝が領民は汝らが守るが良い。我は何もせぬ」

「おおぉ……」

 一人、また一人と起きあがり生前の様に主へ膝を折る人骨や甲冑に感極まった声を上げた城主の霊は僕に向けて頭を下げ。

「ただし、覚えておくことだ。汝らの行動に度が過ぎたるところあれば、かりそめの命などたちどころに消え去ると言うことをな」

 背を向けたまま僕は忠告する。略奪の阻止と敵兵の撃退で気が晴れるなら良し、敵領に進入して殺戮をするつもりであれば、それを許すつもりはない。

「ありがとうございま……」

「礼には及ばぬ、ただの戯れよ」

 所謂ツンデレな反応を元城主に返しつつ、僕は歩き始める。

「汝が家臣数名と客室を一つ借り受ける。今宵の宿を探していたのでな」

 とりあえず寝る場所を確保しなければいけない。

(あれで良かったのかな?)

 数日後、この近辺では元城主達の活動によって二種類の噂が飛び交うことになるのだが、それを僕が知るのはまだ先のことで。

(あ、そっか。この肩書きと態度だと手伝うって言い出しにくいな)

 実体化させた侍女の亡霊達が掃除を始め、客室を人が泊まれる状態まで急ピッチで整える様を憮然とした表情で眺めつつ、僕は嘆息した。

 


『冥王』の悪逆非道なふるまい第一弾、亡霊騎士団誕生(+α)。

この悪逆非道なふるまいによって、かっての隣領兵による略奪に怯えていた領民達は当面の脅威から救われましたとさ、めでたしめでたし。


次は戦乙女側の行動を書けたら良いなぁ。続きます。


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