第四話「戦乙女詐欺」
「本日はボクの為にご足労頂きまして――ああ、足を運んだのはボクの方か」
周囲に漂う魂へと語りかけるのは戦装束に身を纏った一人の少女だった。
「あー、それはいったいどういうつもりじゃな?」
リッチに声をかけられた人物の外見は。
「ボクは戦乙女、強き者の魂を新たな戦いの地に誘う女神……という設定なのだけど」
そう、何のことはない。魂に語りかける少女とは、少女の幻影を纏った僕自身だった。
「ほら、女の子の方が好印象何じゃないかなぁって。こういう戦場に動員される兵や将は男性の比率が多いだろうから」
「むうぅ、だとしても神を名乗るにしては威厳とかそう言うものがない様に思えるがのぅ」
参謀役の指摘は尤もなのだが、僕の計画では魂とふれ合い死者と交渉する機会は十や二十ではきかない。
「もちろん生者と会う機会もあるだろうし、場合によっては『冥王』として会った人にこっちの姿で会うかも知れないでしょ?」
神々の授けてくれた三つ目の力は、全ての感覚を死者にすら誤認させてしまえるほどの凶悪な幻惑の力――だったからこそ、僕は幾つかの人物を演じることにしたのだ。活動しやすくする為に。
「中でもこの『戦乙女』は非のつけようのない正義の女神じゃないといけないんだよ」
当然、『冥王』と同一人物だなどという疑いを抱かせるわけにはいかない。
「人払いの為にとはいえ、『冥王』をちょっと厚顔不遜にしすぎちゃったかからね。ボクは逆に親しみやすいフレンドリーな感じで違いを際だたせる作戦なのだ」
先ほどの失敗に懲りて魔法のエフェクトには神聖なイメージの幻影を纏わせてカモフラージュもしてある。若干やりすぎだとか、いい年したオッサンがこんなことして痛いとか言うなかれ。そもそも、小説やゲーム、アニメなどに出てくるヒロインの台詞だって作者が男性でいい年なら、その作者の脳から出てきた言葉なのだ。
「どこに差異があるって言うんだ、と言うかそれがダメじゃオッサンは女の子を作品に登場させられないじゃないか」
いい年したオッサンしか出てこないファンタジー小説、掠われるヒロインも主人公も魔王も女神も全部オッサン。一部の特殊な層にしか受け入れられないんじゃないだろうか、そんなもの。
「そう言うわけで、ボクは戦乙女なんだ! 誰がなんと言おうとも」
「ふむ、よくわからぬが大変なんじゃの」
そもそも、こう割り切りでもしないと演じてる僕のメンタルも耐たない。参謀がかけてくれた言葉で胸の何処かが痛んだとしても、今の僕は戦乙女なのだ、自称がつくけど。
「あ、お待たせしちゃってゴメンね。ボクは戦乙女」
自己弁護と弁解に満ちた時間を待っていてくれた魂達に詫びると、自己紹介を経て僕は本題を持ちかける。
「キミ達を優れた戦士の魂と見込んで、一つ提案があるんだ。勿論、強制じゃないよ? そして、無償のつもりもない」
僕には戦力が必要だった。神の力を使ってぱぱっと乱世を終わらせるわけではない以上、人々が己の力で平和を築きあげたと認識させる以上、超越者レベルに突出した戦士ではなく大勢の兵が必要だったのだ。
「ボクは強き戦士の力を必要としている。ともに、仲間としてボクと戦って欲しいんだ」
ある意味詭弁で欺瞞だった。ただの駒や労働力として使役するつもりなどないが、それこそアンデッドを量産して駒に使う悪役の死霊術師と結果的にはやることが変わらないかも知れないのだ。
(これは、地獄行きを宣告されても文句は言えないよなぁ)
戦いで傷つき、死した者達をもう一度戦わせようと言うのだから。
「ありがとう」
交渉と説得の末、戦ってくれると約束してくれた死者は全体の三分の一ほど。戦乱の世を憂いていた者もいれば、僕の提示した報償が理由の者も居るが、約束してくれたからには、次は僕が彼らの答えに報いる番だった。
「最初にローウェ村、次がディーヤの村、その後に更に北の村三つだったね?」
家族に会いたい、言葉を伝えたいという願いを僕は聞き届けた。
「転送魔法、お願いね。ボクはこの人達の仮の身体を構成するから」
「うむ、任せておけ」
他の死者達に聞き取れない様にした声で参謀に指示を出した僕は、死者達の対面をかなえる為に死者の魂を具現化させ。
「最初の村の人はこれで全てだよね?」
転送魔法の負荷を考え、村一つ分の希望者だけにとどめた面々に確認をとる。
「うん、サーキスが居ないんじゃねぇか?」
「他にも何人か居ないんだが」
「えっ? ……とりあえず、特徴を教えてくれる?」
想定外の返答に僕は一瞬面を喰らったが、思い至ったことがあって問い返した。
「あぁ、その人達なら怪我はしてたけど命は落とさなかったんだよ」
「あぁ、それでか」
死者達から得た情報に符合する数人の男は『冥王』に追い散らされた兵の中に居た気がする。
「じゃあ、いいね? 行くよ?」
僕が発した呼びかけは、実態を得たばかりの死者達に向けたものに見えて、参謀に向けたもの。
「っ」
まだ慣れない転移魔法の感覚から僅かに目をつぶった僕は、次の瞬間森の出口に居た。
「ああっ、帰ってきたんだなぁ。俺達の村はこの先だ」
「良かった。ただ、出てくるのは少し待ってね? 急に死人が帰ってきたじゃパニックになるかも知れないから」
微笑して死者達に声をかけた僕は、この後村がパニックになり少し凹むこととなる。勿論この時点ではそんなこと知りようはずもない。
「さぁ、戦乙女詐欺の序章、第二幕のはじまりだ」
小声での呟きの通り、これはい道のりのはじまりに過ぎない。そう、僕は実感していた。
と、まぁそんな訳で。
実は同一人物だったのですよ。
まぁ、二足のわらじってのは良くある展開ではありますが。
次回からは『冥王』の悪逆非道なふるまいと『戦乙女』の正義に基づく活動を書いて行けたらなぁ、と思っております。




