第二十三話「再訪」
「おい、貴様ら止まれ!」
制止の声をかけたのは、昨日とは違う門兵だった。
「きっ、貴様等山ぞ……」
山賊、と言いたかったのだろう。次の朝、冥王としてリアスの滞在する館へ出向いた僕は、ゾンビにした山賊を幾人か連れてきていた。
「確かに、山賊ではあったな」
中には明らかに生きていてはおかしい傷を負いながら歩いている者もあるのだ、思わず絶句し、無意識に一歩後退たとしてもこの門兵を責めることはできないだろう。
「な、何者だ」
僕が声を発したことでようやくゾンビ以外の存在が居ることにも気づいたのだろう。
「我は『冥王』。この地を治める領主に少々用がある。命が惜しくば取り次ぐがいい」
名乗り、用件を伝える。反発必至であろう傲慢な態度だが「こういうキャラである」と自分で決めたからには、これで押し通すつもりだ。
「ふっ、ふざけるな! 貴様の様な得体の知れぬ者の命に何故従わねばならんのだ!」
「口は達者だが、腰が引けた状態で言われても滑稽なだけよな」
気持ちはわかるんだけどね。正直、ゾンビ数体を相手に一人で対峙するのは見た目的な意味で僕もご免被りたいぐらいなのだから。
「っ! 舐めるなぁっ!」
手にした槍での突きが、僕と門兵の間に立つ山賊ゾンビの体を突き通す。
「くっ、はは。どうだ、思い知っ……」
繰り出した突きは、普通の人間なら致命傷なのだろう、人間なら。
「え、あ?」
だが、狙いが悪かったと言うべきだろう。僕がアンデッド化させた山賊達を滅ぼすつもりなら突きは下策。体を貫通した槍は引き抜けず、門兵は武器を封じられてしまっている。
「浅はか、実に愚か者よな」
しかも山賊のゾンビは複数連れてきて壁にしているのだから、僕が命じればこの門兵は武器も使えぬ状況で自分を囲むゾンビから襲われることになるのだ。
「我にその気があればどうなるか、もう分かろう? 取り次ぐ云々はさておいても汝は内に異変を告げるべきであった」
僕が襲撃目的であり、ここで僕がゾンビ達に攻撃を仕掛けさせていれば館側の人間の対応は、完全な後手に回ってしまったはずだ。
「この状況下、手を出されても我は手を出しておらぬ。それを鑑みても害意がないことぐらい察せように」
アンデッドというものに出くわしたことがなく、冷静な判断を欠いたのかも知れないが、この対応は明らかに拙いと思う。
(そもそも、門兵を単独で立たせておくというのもなぁ。最低でも二人いないと、一人ずつ忍び寄って倒す敵が相手だった場合、あっさり門を突破されちゃうと思うし)
ひょっとしたら人材というか兵が不足してるのかも知れないが、仮にも王族を匿っているのだ。
(いや、この警備の残念さが逆にカモフラージュなのか)
僕は警備の甘さを故意かやむを得ずかと悩み。
「く、くせも」
ようやく僕の指摘することに思い至った門兵が叫ぼうとした瞬間。
「何の騒ぎですか」
門の向こうから聞こえた声は、昨日聞いたリアスのものだった。
「山賊の頭目と幹部の引き渡し?」
「まあ、そう言うことだ」
僕は頷き、指を鳴らす。
「「っ!」」
ゾンビ達が一斉に武器を抜き、思わず身構えた二人の前で――自分の首を切り落とす。
「な……」
「このような者の首を持つのは面倒でな。かといって証拠も無しに報奨金など要求できまい?」
周辺を荒らし回っていた山賊なので首を持ってこれば小金ぐらいくれるだろうと思って足を運んだ、と言うのが冥王としてこの場に足を運んだ理由だ。
僕としても活動資金調達は目的の一つなので、嘘は言っていない。
「首はこの者共に持たせるもよし、汝らで運ぶなりこの場で検分するも良し。金が得られるのならば我は相手が領主でなくとも構わぬ」
ただ、流石に門番の兵に同行できる様な問題でなく、冥王としては|領主以外の身分ありそうな者の逗留を知っているのは不自然だろうと判断したからなのだけれど。
(問題は、ここでリアスがどう出るかだよなぁ)
死体を使役しているところは見せた、そして、目の前では首を落とされたゾンビ達が己の首を拾い、ただ僕の命令を待っている。
(戦力としては生者よりよっぽどしぶといことは理解できたと思うし、手段を選んでるほど余裕がない状況だったりすれば必ず昨日の話を『冥王』にもしてくるはず)
『戦乙女』は一つの村を襲撃した部隊を撃破しただけだが、『冥王』は山賊のアジト自体を制圧し、頭と主立った幹部の首を持ってきているのだ。
(プラス、明らかに邪悪だが戦力としては魅力的であろう死者を操る術の使い手というコンボ)
問題は、僕がリアス達にとっては「尊大で不気味な術を使う見知らぬ男」である点。
(「強いので味方にしたら裏切られました」なんておは目も当てられないから、疑いの目を向けるのも警戒するのも当たり前だろうし)
だが、冥王のキャラを考えると下手に出て自分から売り込む事などできない。あくまで「お、お願いするなら助けてやらないこともないぞ」的なツンデレ対応は外せない。
(下手に王族へペコペコすると勘違いした馬鹿な王や王族が偉そうに無理難題ふっかけてきてもおかしくないし)
自称も『冥王』なのだ。少なくとも国王と同格レベルの態度は崩せない。
(この態度が気に触って「潰してやろう」なんて考える様ならそれこそ正当防衛の大義名分が立つだろうし)
はっきり言って自分の力に物を言わせて国ごと向かってきた相手を返り討ちにするのは、不可能ではないのだ。
(やる気はないけどね)
多分、愚かな王を見せしめに殺すなり凶悪な呪いをかけるなりして、それで終わりにするだろう。
(とりあえず、ここからはリアス次第かな)
こちらは賽を投げたのだ。僕は待つしかなかった、リアスの反応を――。
冥王とリアスの初顔合わせ。
果たしてリアスはどういった反応を見せるのか
続きます。