第二十四話「ひとつめの選択」
「この領内のことを私が勝手に決めるのは越権行為になる。そこで、こちらから提案がある」
リアスは僕に二つの選択肢を提示した。
「取り次ぐ故ここで待つか、山賊ゾンビを置き武器を預けてついてくるかか」
「少なくとも貴方は兵に手を出さず、害意がないことを示しました」
僕の物言いや死体を操る術を使っていたとはいえ、領地を荒らす山賊を討ってくれたのは事実だから謝礼をするのは当然だと言うことらしい。
(なるほどなぁ)
思わず感心するほど公正な対応だった。
「礼に礼をもって答えぬは非礼にあたろうな」
僕は口の端をつり上げて笑みの形を作ると、杖の幻影を纏わせた剣を通行の邪魔にならない様塀の側の地面へ突き刺す。
「奪われぬ様、その場でそを守れ」
武器を預けても良いのだが、幻影を纏わせた剣は昨日戦乙女の格好で帯びていたものと同じなのだ。纏わせた幻影で同じ物だとバレないとは思いつつも、念のため僕は慎重策をとった。
「我ならばいざ知らず、人の身で持てばどうなるかわからぬのでな。武器を持たねば良いのであろう?」
「っ! 何か曰く付きのものなのか、あれは?」
僕の言に先ほどの門兵が身構えるが、今のところはまだ何もしていない。ただ、この剣は以前立ち寄った城塞の主から餞別に貰った品なのだ。
「朽ちた城塞で得た品よ。城を落とされ討ち死にした城塞が主の秘蔵品。怨念ぐらいとりついておるやもな」
本当は怨念どころか感謝の気持ちが籠もっている様に思えて、人手に渡すのは一時預かりでも躊躇われたから、好奇心から手に取らぬ様そんなことを言っておく。
(僕が持ってても宝の持ち腐れだからなぁ。凄腕の剣客の魂とかに出会えたら、剣に宿って貰うのも手なんだけど)
僕にアイテムを作る様な力はない。ただし、死者の魂を取り付けてアンデッド化させることならできる。
達人並みの剣の腕をした動く鎧や浮遊する剣を作る事は可能で、アンデッドとしての強さを目一杯強力な物にしておけば、平凡な武器防具をある意味チートな武器やチート防具にすることはできるのだ。
(まぁ、取り付いて貰える魂があればだけど)
時間ができたら既に故人となった剣豪や武将の墓所を巡るのも良いかもしれない。
(無理矢理安らかに眠ってる人を起こす気はないけど、中には心残りがある人もいるかも知れないし。そう言う人と取引って形なら……)
「案内しよう。ついてきてくれ」
(っと、いけないいけない)
僕はリアスの声で我に返り、頷いた。
「良かろう」
本当は昨日も来てある程度の道順は知っているが、『冥王』がこの館に立ち寄るのは初めてなのだ。
「山賊を退治した方をお連れした。お前は先に行って領主様にこのことを伝えてくれ」
「山賊を退治? この前の方ならおいでになるのは明日では」
「いや、別の方なのだ」
前回と違ってリアスが僕を連れて行こうとしているが、理由はだいたい分かる。
(物言いが思いっきり尊大だからなぁ、下手して案内の人ともめたら拙いとでも思ったんだろうな)
ちょっと申し訳ない気もするが、ここの先が本番。僕としてもここで態度を変える訳にはいかない。
「領主様、お連れしました」
見覚えのあるドアの前で立ち止まったリアスが、ドアの向こうにいる相手へ来客を告げる。
通される部屋は、昨日と同じ謁見用の一室の様だった。
「では、これにてお引き取り頂きたい。私は多忙の」
リアスの口添えもあったからだろう、僕の尊大な態度にもかかわらず領主はあっさりと金貨の詰まった袋を差し出し、昨日の様に面会を早々に切り上げようとした。
(と言うか、褒美の方はリアスが居たから、かも知れないなぁ)
僕が死体を操っていたことと尊大な態度で居たことを考えれば、門前払いでもおかしくなかったかも知れない。
(さて、あとはリアスがどう出るか、かな)
『戦乙女』と違って『冥王は』邪悪っぽく、尊大な態度をとっている。僕だったとしても、協力を求めるのは二の足を踏みそうだ。
実際、リアスはまだ悩んでいる様で、額にしわを寄せ俯いている。
(気持ちは分かるけど、領主の方が立ち去れオーラ出し始めてるしなぁ)
僕は領主に背を向け、口を開き。
「良かろう、金銭は得た。我がこの場にとどまる必要も」
「待って下さい。私は、リアス・ウォルス。王位継承権第三位の王族にして――」
「っ、リアス様!」
「ほぅ」
僕の足を止まらせた声に領主が思わず叫ぶ。どうやら、リアスは僕へも協力を求めることにしたらしい。
(まぁ、英断って言えば英断だよなぁ)
『戦乙女』と違い『冥王』は山賊の拠点自体を制圧し、首謀者達を全員討ち取っている。
ここまでの戦果だけなら『冥王』の方が上だし、山賊のゾンビを見たリアスなら死体を戦力に変える力を持っていることは分かるだろう。
(手段を問わず、『冥王』が信頼に足るとすればこれが一番確実だし)
ひょっとしたら金銭を求めて来たという僕の言葉から、金を払えば味方につけられると踏んだのかも知れない。
どちらにしても、交渉のテーブルにはたどり着けたということだ。
「我は『冥王』。生と死の道理をねじ曲げ、死者を使役する者」
リアスの名乗りに応じて、僕も名乗る。
「用件を聞こう、王族の者よ。我を引き留めた用件をな」
何を言ってくるかはわかっていた。だが、それは顔には出さない。
ただ、僕はリアスに向き直り言葉を待った――少し興味を引かれたといった表情で。
とりあえずリアスは『冥王』にも交渉を持ちかけることに。
ここまでは『冥王』も想定内の展開だった。
だが、まだリアスと『冥王』の交渉は始まっただけに過ぎない。
リアスの要請に『冥王』はどう答えるのか。
と言った感じで続きます。




