表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/48

4.料理はクラフト!

「さて、料理という名のクラフトをしますか!」


 台所に立ち、腕まくりをする。手も綺麗にしたし、準備万端!


「あっ!」


 その時、黒猫のシオンさんが声を上げた。


「調理器具の事を忘れていた……。ウチには調理器具がないぞ」

「それなら、大丈夫です! 私の料理技術のスキルがありますから!」

「スキルがあると、調理器具が無くても大丈夫なのか?」

「はい、見ててください。『調理器具召喚』!」


 いつも通りに言葉を口にすると、台所には様々な調理器具が現れた。


「おぉ、これは……!」

「クラフトワールド・オンラインではこんな事が出来るんです。異世界でも普通に使えて良かったです」

「うぅむ、便利なスキルだな」

「では、早速調理を始めますね」


 まな板を置き、包丁を手に取る。アイテムボックスから食材を取り出すと、手際よく刻んでいく。


「手際がいいな」

「クラフトワールド・オンラインでかなり鍛えられましたからね」


 会話を楽しみながら食材を切ると、鍋に入れていく。それが終わると、今度は味付けだ。


「ここで『調味料召喚』!」


 言葉を唱えると、目の前に様々な調味料が現れた。


「なん、だと……。調味料まで出せるのか?」

「はい。前世にあった調味料なら、なんでも出せますよ」

「そ、そうか……。だったら、前世の料理も食べられるということか……」

「食べたいですか?」

「……今度頼めるか?」

「もちろんです!」


 やっぱり、異世界に来ても前世の料理が食べたくなる時がある。それを再現するには調味料が必須だ。私にはその調味料を出す力がある。だから、異世界でも前世の料理が作れるということだ。


 鍋に入った食材に調味料を加えて、味を調えた。あとは、これを煮込むだけ。


「まだ、この世界は発展していない。だから、竈しかないんだが……使えるか?」

「竈を使わなくても出来ますよ」

「……何?」


 私は鍋を竈の上に置くと、鍋の下に向けて魔法を放つ。すると、火が現れた。


「なるほど、魔法を使う訳か。だが、ずっと維持するのは辛いんじゃないか?」

「使い慣れているので、意識しなくても維持出来るので問題ありません。だけど、このままだと出来上がるまでに時間が掛かるんで、違うスキルも使います」

「ほう?」

「『圧縮』!」


 鍋にスキルを発動する。だけど、様子は変わらない。


「今、何をしたんだ?」

「鍋の中身を別空間で取り囲んで、火の力で圧縮するようにしました。即席の圧縮鍋ですね」

「そんな事が出来るのか!? ……クラフトワールド・オンライン、凄いゲームだ」


 これで、あとは放置すれば美味しい料理が出来るはず。


 次に肉の塊を用意して、二枚に切り分ける。その上からハーブや調味料をかけて、味付けする。


「じゃあ、焼いていきますね」


 もう一つの竈にフライパンを設置して、火を点ける。油を一垂らしして、フライパンの上に手を置いて火加減を確かめる。


 もう少し、もう少し……ここだ!


 ジャストな温度になると、肉を入れてジュッと焼いていく。


「シオンさんは肉の焼き加減はどれくらいがいいですか?」

「希望してもいいのか? そうだな……ミディアムレアくらいがいい」

「分かりました」


 だったら、火加減はこれくらいにして、時間は……。体内時計を使って、肉を両面焼き、パットに置く。余熱で火を通している間にフライパンでソースを作る。


「いい匂いだ……」

「匂いが分かるんですか?」

「この魔力媒体の体は感覚を共有しているから分かるんだ」

「そうなんですね」


 なんとも器用な魔法の使い方だ。感心していると、時間がやってきた。肉を皿に盛り、作っておいたサラダを添え、上からソースとドレッシングをかける。


 鍋に点けていた火を消すと、別空間を解除する。すると、良い匂いが漂ってきた。


「これは、いい匂いだ」


 くんくんと鼻を動かして、シオンさんは嬉しそうに笑った。その様子を見ながら、器にスープを盛り付ける。買ってあったパンも皿に乗せ、トレーに皿とカトラリーを並べる。


「これで準備が出来ました」

「ヒナ、ありがとう。では、一つ貰うよ」


 そう言うと、私の目の前から用意したトレーが一つ消えた。


「食事を受け取った。ヒナは対面だと緊張してしまうからな、別々に食べたほうがいいだろう?」

「シオンさん……ありがとうございます」


 シオンさんの気遣いに胸が温かくなる。私は食事を持って自室に行き、机に向かった。すると、ひょいと黒猫が机の上に登ってきた。


「ヒナが作ってくれたからな。こうすれば、話せながら食べれるだろう?」

「……はい!」


 人と話しながら食べるなんて、何年ぶりだろう。自然と心がワクワクして嬉しくなる。


 私が手を合わせると――。


「「いただきます」」


 二人の声が重なった。それだけで嬉しくなって、口元がニヤける。


 スプーンを手に取りながら、私は小さく息を呑んだ。目の前に並ぶ料理たちは、自分でも驚くほど綺麗に仕上がっている。けれど、味は、実際に食べてもらわないと分からない。


「……口に合うといいんですけど」

「見ただけで美味そうだがな」


 黒猫の姿のシオンさんが、ふわりと尻尾を揺らした。その仕草は落ち着いているのに、どこか楽しみにしているようにも見える。


「じゃあ、いただくぞ」

「は、はい……!」


 黒猫が静かに目を閉じた。


「……」


 沈黙。怖い。胸がきゅっと締め付けられる。もし、不味かったら……?


 だが次の瞬間、黒猫の瞳がぱっと開かれた。


「――うまいっ!」

「えっ?」


 黒猫の体がびくっと震え、立ち上がる。尻尾をピンと立てたまま、興奮気味に声を上げた。


「うまい! 味の層が深い! 素材の良さを引き出している! 塩加減も絶妙だ! こんな味、王都の宮廷料理人でも出せるか怪しいぞ!」

「ほ、本当ですか!?」

「本当だとも! このスープ……飲めば体が温まり、魔力の循環まで良くなる! ヒナの料理は魔法のようだな!」


 黒猫の向こうでカトラリーを動かす音が聞こえてくる。すると――。


「……っ!! 柔らかい! 肉に旨味が閉じ込められている! 外は香ばしく、中は瑞々しい……完璧だ!」


 まるでグルメ番組の実況みたいに、次々と感想を口にするシオンさん。黒猫の姿なのに、全身で感動しているのが分かる。


 そんな様子を見ていたら、胸の奥がじんわり熱くなった。視界が滲む。頬を伝うものを指で拭おうとして――気づいた。


「あ……泣いてる……?」


 涙が止まらない。こぼれ落ちるたびに、胸の中から温かい何かが溢れ出す。


「ヒ、ヒナ!? ど、どうした!?」


 黒猫のシオンさんが慌てて私の腕にすり寄り、ふわふわの毛で涙を拭ってくれる。その柔らかさが、余計に涙を誘った。


「ち、違うんです……! 美味しいって言ってもらえて……嬉しくて……!」

「……嬉しくて?」


 私は嗚咽混じりに、言葉を絞り出す。


「ずっと……ずっと一人で作ってきたんです。誰かに食べてもらうことも、褒めてもらうこともなくて……。でも今日、シオンさんが美味しいって言ってくれて……。それが、すごく嬉しくて……」


 黒猫はそっと前足で私の手を押さえた。まるで「もう大丈夫」と言うように。


「ヒナ……」


 その声が優しくて、涙がまた零れた。


「ありがとう……シオンさん。私……こんなに誰かに褒めてもらって、嬉しいの、初めてです……」


 泣きながら笑う私に、シオンさんは静かに尻尾を巻きつけた。


「……なら、これからも言わせてもらおう。ヒナの作る料理は、世界一うまい」


 その言葉は、どんな祝福よりも温かく響いた。私は黒猫をそっと抱きしめ、涙で濡れた頬を押し当てた。


 いただきますの後に、こんな幸せがあるなんて、思いもしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

収納魔法を裏返したら世界最強でした!~極小収納しか使えない無能と辺境に追放されたので、もう好きに生きます~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった

この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~

ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~

魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ