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26.まずは工房作り(1)

「まず、工房から作りましょう」

「???」


 全部作り直す と宣言した私は、即座に次の工程へ移った。最初に取りかかるのは、工房づくり。ガラス用品を作る以上、石造りで熱に強い作業場が必須だ。


「というわけで、設計図からですね。ガラス炉を置くスペースが必要で、将来的には鍛冶もしたいですし……陶芸も気になります。となると、ここに窯を置いて……」

「ちょ、ちょっと待てヒナ! 何で工房の話になってるんだ!? 今日はポーションを作るだけじゃないのか?」


 図面を描く勢いで手を動かしていると、シオンさんが慌てた声で割り込んできた。私はきゅっと目を細め、真剣に告げる。


「あのポーション、全部ダメでした。内容も、瓶の品質も論外。あんな物に新作ポーションは入れられません」

「いや、瓶は別に既存の物でよくないか? 中身が良ければ問題ないだろう?」

「いいえ、ダメです!」


 キッパリ言い切った。


「新しいポーションを作ると、最終的な容量が変わります。それに合わせた専用瓶が必要なんです」

「そ、そんなの気にする人いないと思うが……」

「います。私が気にします」


 胸を張って断言した。


「中身が半端にスカスカでは、美しくありません。アイテムとしての完成度が落ちます。それに強度も不十分。割れて中身が零れたら瓶の意味がありません。だから、私が作ります。完璧な瓶を」

「完璧な瓶? いやいや、ポーション作りの話からかなり飛躍してないか?」

「いいえ、これが普通です」

「ヒナの普通って……」


 シオンさんは猫の手で頭を抱えた。


「だから、工房作りからです。クラフターなるもの、まずは環境作りからやらなくては」

「ただのポーション作りから、話がデカくなりすぎている……」


 私は紙に向かうと、図面を引き始めた。頭の中に理想の工房は出来ている。後はそれを現実におこすだけだ。


 ◇


「……我ながら完璧な図面が描けた」


 完成した図面を見て、これ以上にない達成感を味わった。理想を詰め込んだ工房の図面。これを元にして工房を作れば、理想の環境が出来る!


「まさか、図面が描けるなんて思いもしなかった。ヒナはなんでも出来るんだな」

「クラフトワールド・オンラインでは色んな事をしてましたからね。その経験が生きました」

「一体、どんな生活をしていたんだ……」


 クラフトワールド・オンラインは作る事は何でもできた。だから、何でも挑戦出来たし、色んな経験を積むことが出来た。お陰で楽しい生活を送れることが出来た。


「じゃあ、次に材料を集めないといけませんね。木と石と留め具を用意しないと。あと、屋根の瓦も」

「店に行って買ってくるか?」

「留め具と瓦はそれで良いですが、木と石は自分でお気に入りのものを調達しようと思います」

「……自分で?」

「はい。ですから、シオンさん。良い木と良い石があるところに連れて行ってください」


 笑顔でそう言うと、シオンさんはまた猫の手で頭を抱えた。えっと、これが普通なんだけど……。何か、おかしかったのかな?


 ◇


 黒ヒョウになったシオンさんの背に乗せてもらい、森の中を駆けていく。


「この森には建材で使われる丈夫な木が多く生えている。ここなら、ヒナの満足のいく木が見つかるだろう」

「はい。見た感じ、良い木がいっぱいあります。ここなら、必要な木が集まりそうです」


 森の奥へと進むと、シオンさんはようやく立ち止まる。私はシオンさんの背から降り、周囲の木を観察し始めた。


 しんと静まり返った森の空気は、どこか澄んでいて、木々の香りがふわりと鼻をくすぐる。私は一本一本の幹に手を触れ、木目をじっと観察していく。


「この木は年輪がしっかりしていて、幹がまっすぐ。芯も強そうです。建材に使っても歪まないと思います」


 表面に軽く爪を立ててみると、硬すぎず柔らかすぎず、理想的な感触が返ってくる。


「うん、この子は柱に使えそうですね。強度も十分あります」


 少し離れたところに、太く伸びた別の木を見つけて近づく。根元の地面は盛り上がりすぎず、しっかりと大地に根を張っている。


「こっちは梁向きかな。大木だけど、年を重ねたわりに傷みが少ないです。木肌も滑らかで、節も少なめ。加工が楽そうです」


 一本、また一本と見てまわるたび、胸の中にわくわくした気持ちが湧いてくる。まるで木たちが「ここにいるよ、選んで」と語りかけてくるみたいだ。


 シオンさんも黒ヒョウの姿のまま、静かに私の後をついてくる。


「どうだ? 気に入った木は見つかったか?」

「はい、いっぱいあります。どれも建材に使える良い子たちばかりです。この森は本当に恵まれてますね。これなら、丈夫で長持ちする工房が作れそうです!」


 ぱぁっと顔が明るくなる。求めていた材料が見つかった安心感と、これから形になる工房への期待が胸いっぱいに広がった。


「じゃあ、次は木の取得しましょう」

「取得? 伐採の間違いじゃないか」

「いいえ。こういう時にアイテムボックスを便利に使うのが一番いいんですよ。見ててください」


 私は木に向かって意識を集中させた。欲しい部分に範囲を指定して、アイテムボックスを発動させる。すると、木の幹だけが一瞬にしてアイテムボックスの中に収納された。


「なっ! 木の幹だけ、無くなったぞ!」

「はい。これで、木の幹だけ手に入れました。あとは、これを同じ要領で加工していくだけです」

「ア、アイテムボックスを加工に? 一体、どんな風にやるんだ?」

「見て見ますか?」


 そう言うと、シオンさんは深く頷いた。


 私はアイテムボックスから先ほど収納した木の幹を取り出す。また、意識を木の幹に注ぐと、今度は角材に加工する。範囲を指定して、図面通りの太さ長さに調節したら、一気にアイテムボックスの中に入れる。すると残ったのは、切り落とされた廃材だけ。


「これが、アイテムボックスで加工をした角材です」


 そう言いながら、私は加工した角材を取り出した。そこには綺麗に切り取られた角材が数本出てきた。


「なんということだ! 木から一瞬で角材に生まれ変わるとは!」

「アイテムボックスを有効に使う事で、色んな作業が出来ちゃうんですよね。だから、自分で工房を作ろうと思ったんです」

「むむっ。確かに、この使い方をすれば、工房を自分で作れると言えてしまうな。ヒナは凄いな」

「えへへ、ありがとうございます」


 何気使っていた機能だけど、こうして褒められるのは嬉しい。


「じゃあ、この要領で石も切り出していくのか?」

「はい。この機能を使えば、簡単に自分好みに石を切り出すことが出来ますからね」

「なるほど。ようやく、ヒナが自分で材料を取りに行くって決めた気持ちが分かったよ。これならば、買うよりも自分で調達したほうがいい」

「分かってくれて嬉しいです。じゃあ、じゃんじゃん木を取っていきますね」


 シオンさんが満足げに頷いているのを見ると、認められたようでくすぐったい。


 そうして、私は生えている木をアイテムボックスで収納、加工しながら建材を集めていった。

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