勝手に異世界召喚されたけど、そちらのご都合主義には合わせません!8
街の中心部にある公園に二人はいた。
芝生が敷かれそのまま座り込む事も出来る区域や、噴水を中心にして周りにベンチを配置した区域があり、街中だというのに木々が生い茂り日差しを遮る箇所もある、街の人々の憩いの場所にいなっているのだろう様子が伺える場所だった。
リンウたちは公園の芝生のある区域の隅の方で先程まで買い揃えてきた荷物を広げ、必需品を確認した上で、同様に先程購入してきたそれぞれの負担にならない大きさの鞄に詰め込んでいた。 朝早くに動き出していたが既に太陽は天の中までいき、昼ご飯を公園で楽しむ家族や恋人たちがちらほら集まりだしていた。
とてもシエが語る彼自身の背景とは同じ世界の中の事とは思えない景色がリンウの瞳に映る。
しかし、彼自身も思い直した。自分のいた国もしくは自分の周りは幸いにも平和だったが世界を見ればそんな事は無かった事を。
「最初にガツンとやられて分かっていた筈なんだけどな。最初だけだきっとこれもフラグだとか思っていたんだけどな」
「ふらぐ?」
「何か大きな事が起こるきっかけみたいなもん。最初にここに来た時もこれはイベントででっかいフラグでそこから俺はのし上って見返す事になるんだと思ってたんだけど、何も起きないなぁ」
「いべんと?ふらぐ?俺にはまだよく分からないから後で教えてくれ。それでこれからどうする?女の服はもう売ればいいだろ」
「売るのか?返すんじゃないのか?」
「返すのか?」
あまりにもきょとりとした表情で質問を質問で返すシエにリンウは戸惑ってしまう。
「あの家にだって不法侵入で…後でバレないか?」
「さぁ?見張りがいるならとっくに見つかってるだろ。見つかってないしあんだけ荒らされてるんだからきっと誰も住んでない。ならいらないものだろ」
「…そういうものか?」
「俺はこうやって食い物を手に入れてきたから。リンウはこれからどうやって食い扶持稼いでいくんだ?」
何に懸念している意味が分からないと素直な眼差しで首を傾げるシエにリンウは口籠る。
「取り敢えずこれだけは手に入ったが、ずっとこんな事しても二人が食べていけるだけの稼ぎにはならない」
そう言ってシエは己のジャケットから硬貨の袋や財布を幾つか取り出す。
「おまっ!これっ…」
目を見開いてリンウがそれらを手にしてシエを見ると、彼はまたリンウの動揺する理由が分からずこてりと首を傾げる。
「俺はあんたの奴隷だから俺が稼いだんだが」
「稼いだ…じゃないだろ。これ、人のポケットから盗んだもんだろ」
周囲の目を気にしつつ、小声で詰めるリンウにシエは当然のように頷く。
「俺には他に金を手に入れる方法を持たない。森の中で金になる物取ってきて売ってもいいけど大して貰えない。俺たち二人分の飯代にもならないぞ」
シエとまだ一日だが一緒に行動していて、リンウがどれだけシエの行動を思い返してみても彼が盗みを働いている瞬間を見た記憶は無かった。リンウ自身が鈍いという自覚もあるがそれよりも他人に気付かせない程にシエは窃盗する事に慣れているのだという事実に衝撃を受けていた。罪悪感も感じない程ごく当たり前の事として。
確かにリンウには今の持ち合わせしか金は無い。必需品を買う為にそれも更に減ってしまった。まだ数日宿に泊まるくらいならあるだろうが、それが尽きても稼ぐ方法は無く早急に何か探さなくてはと思ってはいた。
何に戸惑っているのか分からないと首を傾げ、心配そうにこちらを見上げてくるシエにリンウは何と言っていいか分からない。
シエにとって生きていく為の大切な手段だったのだ。
目の前の硬貨を持ち主に返せと言ったところで、最早誰だか分からないだろうし、見つかった所で警察みたいな組織があればそれに捕まる可能性がある。
そして、シエの言う事は正しくて、リンウたちにはこの先食べていく為の財が無い。
リンウは目を瞑り、そして低く息を吐く。そしてもう一度瞼を開くと、目の前のシエを見据えた。
「よし!俺達には稼ぐ為の知識も無い。もう一度何で稼げるのか街を見て回ろう。冒険者ギルドみたいのがあればいいんだが…あるか?」
「ぼうけんしゃぎるど?」
「大人が働く為の相談をする場所みたいなところだ」
「分かった」
リンウが苦悩する様子に首を傾げながら、何処か覚悟を決めたように目を見開き己を見据える彼に、シエは頷いた。