6話
「対魔人組織……ゼロ課か」
その名前だけは、事前に聞かされていた。
だが実態は曖昧で、むしろ“曖昧であること自体が正常”のような組織だ。
対魔人組織の正式発足は1951年。
しかし魔人の出現はそれ以前、1945年以前とも言われている。
さらに一部では、明治の頃から類似した記録が残っているという。
(結局どれが本当なんだよ……)
そう思うが、誰かに聞けるわけでもない。
情報はあるのに、確信だけが欠けている。
この組織は単純じゃない。
かつては民間に近い集団だったらしい。
だが1970年の大規模事件を境に国が関与し、警察組織の一部として扱われるようになった。
公安に近い存在。
そう言われる理由はそこだ。
だが実際は違う。
警察庁にもない。警視庁にも所属していない。
それなのに“存在していることだけは事実”。
(どこにも属してないって、逆に怖いだろ)
制度の外側にいるくせに、国家規模で動いている。
その矛盾が気持ち悪いほど現実的だった。
(これ以上考えても意味ないな……)
俺は入口へ足を踏み入れた。
事前に渡されたパスワードを入力し、扉を開く。
中は静かだった。
人の気配がない。
監視されている感覚すらない、異様な静けさ。
「……誰もいないのか?」
一階は完全に空だった。
広いだけの空間に、最低限の設備だけが置かれている。
(生活感ゼロって逆に怖いんだけど)
疑問を抱えたまま階段へ向かう。
足音がやけに響く。
二階へ上がった、その瞬間。
空気が変わった。
「……っ」
圧だ。
さっきまでの静けさが嘘のように、空間そのものが重くなる。
息を吸うだけで肺が押されるような感覚。
そこには確かに“人がいた”。
……はずだった。
次の瞬間、その気配は消えた。
(今の……何だ?)
視線を動かすより早く、背後から声が落ちる。
「初めましてか」
振り返ると、男が立っていた。
210センチを超える巨体。膝まで伸びる銀髪。年齢は読めない。
年齢は…50は超えているだろう。ここの責任者か誰かだと思う…
ただ立っているだけなのに、圧が空間を支配している。
「俺の名前は萩裕司だ」
低い声が響く。
「期待はしない。だが、ここに来た以上は結果を出せ」
「えっと……それって」
「君は特別枠だ」
即答だった。
説明はない。ただの断定。
「君が危険に近い存在だという報告は受けている」
(危険……?俺が?)
思考が追いつく前に、男は続ける。
「親を探したいんだろう?」
心臓が跳ねる。
「……なんでそれを」
返事はない。
ただ空気が一段階冷える。
誰にも教えた記憶はない。監視されていたからそれで知ったのはすぐにわかった。
いつの間にか、男の手には拳銃が握られていた。
「まずは軽く試す」
「は?ちょっ──」
発砲。
乾いた破裂音。
体が勝手に動いた。紙一重で弾を避ける。
頬を風が裂く。
(今の……本気で殺しに来てた!)
背中に冷たい汗が流れる。
男は淡々と告げる。
「最低限はあるか」
評価ではない。検査だった。
「覚醒しない限り、この試験は終わらない」
次の瞬間。
男の姿が消えた。
「──っ!」
腹部に衝撃。
息が止まる。
視界が揺れる。
(何が起きた……!?)
痛みというより“圧”だった。
殴られたというより、内側から潰されたような衝撃。
「遅いな。それが貴様か」
声はすぐ耳元。
反応する余裕すらない。
(人間の動きじゃない……!)
年齢でも筋力でも説明できない暴力。
「火力も体力も忍耐力も足りん」
蹴り飛ばされる。
体が宙に浮く感覚。
床に叩きつけられる寸前、必死に意識だけが繋がる。
「甘い。甘すぎる」
冷たい声。
「その覚悟でここに来たなら、お前は雑魚だ」
言い切られた。
逃げ道はない。
ここは“選ばれた場所”ではない。
“試される場所”だ。
──そう理解した瞬間。
視界が揺れる。
「危険だと聞いて呆れたな」
萩の声が低く響く。
「若僧どもの評価にしては弱すぎる」
「グハッ……!」
腕に激痛。
視界が一瞬白く飛ぶ。
(痛い……!)
「実に弱い。何度も言わせるほどだな」
淡々とした声。
その冷静さが逆に恐ろしい。
「終わらせるか」
拳銃が再び向けられる。
その瞬間──
「それはないでしょう!」
声と同時に空気が裂けた。
金属音。
誰かが間に割って入る。
「あの時の……お姉さん……!」
視界の端に黒い影。
女性が拳銃を受け止めていた。
「ほう。試験の邪魔をするか、八倉」
萩が目を細める。
「やり過ぎです。会長」
静かな声。
だがその奥には明確な怒りがあった。
「やり過ぎ……か」
萩はゆっくりと彼女を見る。
「甘すぎるぞ八倉。彼が魔人として覚醒しなければ、生存確率は限りなくゼロだ」
それは正論だった。
だからこそ重い。
「では、お前が相手をするか?」
視線が交差する。
空気がさらに重くなる。
(……終わってないどころか、もっとヤバくなってるだろこれ)
俺は地面に倒れたまま、状況を理解できずにいた
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