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現し世の鑑  作者: 葵日野
第四章:神様のお仕事
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違和感




──そんなこんなで森を進むこと数分、漸く開けた場所に出た。


上がる息を整えながら、額の汗を拭うと目の前の光景に静止する。

“源泉”なるものを見た感想は、毒気を抜かれたものだった。


「源泉って……ただの池……?」


開けたそこの中央には小さな池があった。人工的な感じは無く、自然と窪地に出来たものだということが分かる。

妙に神聖な雰囲気が漂うその場に、夏は息を飲んだ。


「これはのちに川を作る際に必要な知識になっていきますのでよく聞いてくださいね」


水姫は静かに語り始めた。

水神は人間たちに川を授けることで生活に必要な水を与える。

しかし、川を授けるにも様々な準備が必要で、まずは“源泉”成り得る清らかな水を探さねばならない。


「それが、こちらの“源泉”です。これこそが、川を創る“種”となります」


源泉から地中を通して川が出来る。

その際に豪雨などの自然災害を装うのは水神の常套手段で、なるべく人間に悟られないように遥か昔から調整して来た。

──だが、人の手に触れず、人里から離れた綺麗な空気のもと育った清らかな聖水は、必ずしもそのままの清らかさを保つ確証はない。

その為に水神(わたし)がいる。

水姫はそう言った。


「源泉は神聖なもの。大切にせねばなりません。特に、現代は昔に比べて空気が穢れていますから、日本中を探しても新たな源泉成り得る場所は無いに等しい。ですから、今残っている源泉たちを水神は守らなくてはならないのです」


穢れることのないように浄化を繰り返し、何者にも侵されることのないように守り続ける。

水神は何千年もそれを繰り返してきた。


「近頃は枯渇した川が増えました。それも、空気汚染により源泉が穢れた…もしくは、人の手により壊されたことによるものです」

「…そう、だったのか」

「はい。ですから夏様は水神憑として、今後はそれを守っていかねばなりません」


人間界へ水を隈無く普及させるために最も効率がいいのは川だ。

故に水神にとって、源泉が減っていることは近年最大の問題であった。

今の排気ガスが蔓延する日本では仕方がないと夏は思ったが、それでは人間の生活がままならないと水姫は言う。

その為、定期的に空気を浄化する為にも、他の神の手を借り、致し方無く自然災害などを引き起こす。それでも追いつかないほど、空気汚染は進んでいる。

夏はそれらの説明を受けて、いかに水神が人間の為に働いてくれていたかを理解する。

夏がそう思う傍らで、水姫が源泉の前で腰を折り、その水に手を入れる。

ちゃぷちゃぷと少し掻き回すと、そっと頷いた。


「暫く浄化出来ていませんね…。丁度いいです。夏様、こちらへ」


水姫に言われるままそちらへ向かえば、「手を」と源泉に触れるよう誘われる。

少しの緊張感と共に、夏はそっと源泉に手を浸した。

ひんやりとした冷たさが指先に伝わる。


「………」

「………」


しんと静まり返る。

しばらく様子を見た夏だったが、


「…………で?」


耐えられなくなり次の指示を促す。


「え? あ、えっと……どうですか?」

「どうって何が?」

「え?」

「は?」


…………話が噛み合わない。

昼間のデジャブを感じた夏は目を細め「なんとか言えよ」と指示を要求する。こっちは初心者なのだ。何の説明も無しに神事なんて出来るわけない。

しかし、こちらの様子と水姫の様子が明らかに違う。二の句が継げないと言ったような水姫に、夏は首を傾げた。


「何か、感じませんか?」

「何ってなんだよ」

「えっとほら、なんか“汚いなー”とか……。触れている指を通してどれほど汚染されているか、感じてきませんか?」

「…………?」


一度目を閉じてみる。

指先に意識を集中させてみるが、水姫の言う“何か”は感じてこない。ただ水に触れてるだけだ。

……つーか、説明がアバウトすぎてわけわかんないんだが。


「……どうしてでしょう。身体になんの変化もありませんか?」

「うーん……特にないな」

「おかしいですね。通常、触れさえすれば源泉とリンク出来るはずなのですが……」


水姫は怪訝そうに源泉を見たが、そこは水面が静かに揺れるだけで。


そんな静かな森の中、「……とりあえず、浄化を行ってみましょう」と口を開いた。


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