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ギャルズメロディー3期  作者: キスよりルミナス
5章 アイドルの自覚
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22話 足りないもの (琴音)

22話  足りないもの  (琴音)



 ①    何かが足りない



 今日もハードな練習を終えて、1日の部活が終了した。外の景色は真っ暗になっていて、冷え込んだ空気が窓からビューっと入り込んでくる。普段は寒いと感じる風も、部活後の温まった体には心地が良かった。

 

 「部活後の冷たい風は気持ちいいですね。」


 隣に座っている神楽は、目を瞑って本当に気持ちよさそうに風を受けている。こんなに気持ちよさそうに冬の風を受ける人もいれば、そうでない人もいるようだ。


 「椿先輩!さ、寒いっス!カナはマネージャーだから動いてなくて、体がポカポカじゃないんです。早く閉めて下さいッスよー!」


 「とは言っても、風で涼んでいるのは私だけじゃないし。少しだけ我慢だよ。」


 椿先輩は、自身にギュッと抱きついている華奈の頭を撫でている。前まで、椿先輩と華奈には溝みたいなのがあったように見えたけど、どうやら私達の勘違いだったようだ。2人とも仲良さげにしていて何よりだ。

 そして、椿先輩の一人称が「ボク」から「私」へと変わっていたが、アイドルらしくなるためなのだろうか。どちらの椿先輩も違和感はないが、こちらの方が可愛らしさがあっていいなと思う。

 

 「じゃ、私は職員室に行ってくるけど、早めに帰っておけよ。生徒指導部と田崎先生からも、時間は厳守って言われてるし。」


 部長をしている菜月先輩が、部活動の終了を生徒指導部の教師に伝えに行った。菜月先輩は、自分が部長だからと、部員のダンス等を華奈と一緒に確認し、部活動の始まりと終わりを職員室に告げに行く。他にも色々仕事をしてくれて、本当に頼りになる先輩である。

 

 「大会まで、あと少しですね……。県大会、勝てるのでしょうか……。」


 大会に自信が無いのか、体操座りをしている神楽は床に視線を落としている。音楽の厳しい世界を体験していた神楽だからこそ、事実と理想を区別することができるのだろう。

 これだけ練習してきたから、県大会突破もできるだろうと考えている私とは違った。でも、このままネガティブに考えていては、できるのものできない気がしてくる。


 「勝てるよ、きっと。……気持ちで負けてちゃ、勝ち進めないよ。」


 神楽に微笑んで話しかけたけれども、神楽は床に視線を落としたままである。難しい表情で何かを考えている神楽を見ると、私までも不安になってくる。


 「前回大会、私達がなぜ負けたのかが、気になるんです。」


 神楽は床に視線を落としたまま、ボソッと小さく呟いた。ひとりごとで呟いたのか、私に答えを求めたくて呟いたのか分からない。

 神楽くらいの人なら、この前の大会で負けた理由なんて容易に考えることができるだろうに、腕を組んで真剣に考えている。


 「『八賢伝』と私達には、技術の面で大きな差があった。それだけでしょ?」


 私達と『八賢伝』のライブを観れば、雲泥の差くらいの実力差がある事くらいすぐに分かるだろうに、神楽は分かっていない様子だ。


 「そうかもしれませんが……。技術がついたとしても、『八賢伝』に勝てない気がするんです……。私には正体が分かりませんでしたが、技術の面以外で私達に足りないものがあると思うんです。」


 「技術以外で……?」


 神楽の言っていることが分からなかった。

 アイドルにおいて、ライブでのパフォーマンス技術が命となってくる。アイドルの評価=ライブでの技術。と言っても、過言ではない。むしろ、このアイドル業界では、それが普通のはずだ。

 無敗だったCosmicrownが負けてしまったのも、戦った相手の実力が高かったから。私が、世間からの評価が低いのも技術不足が原因。

 アイドルは、歌やダンスの技術が全て。そのことを踏まえて考えると、さっき神楽の言っていたことの意味が、ますます分からなくなる。


 「私、何かを感じたんです。」


 口を開いた神楽は、立ち上がって開いている窓に歩み寄る。冷たい風がビューっと吹いてくるのを、美しい黒い長い髪をなびかせ、全身で受け止めている。

 そして、開いている場所から夜空に光る星達を眺め始めた。

 

 「『八賢伝』のライブを見た時に、初めて琴音達のライブを見た時と同じ気持ちを感じたんです。キラキラというか熱いモノというか……。」 


 誰かのライブを観て、胸の中に何かが来るのは分かる。しかし、その正体が何なのかはわからない。さらに、コレが技術と関係があるのか無いのかも、サッパリ検討がつかない。

 ぼーっと夜空を眺めながら、冷たい空気を取り込んだ神楽がついたため息は、白くなって外に出る。その白い息は、一瞬にして夜の景色に溶けていった。



②  アイドルに必要なもの

  

 

 いくら考えても分からないことはある。自分の力だけで解決しようとしても、考える力には限度があるので、答えに辿り着けないことがある。そのことに苛立ちを覚えて、イライラが落ち着かない。

 人のごちゃごちゃしている街中でも歩けば、その気も紛れるだろうと思った私は、土曜日の昼、天神へと足を運んだ。

 天神へ向かうバスも人が多い、駅の南口前を通れば、土曜日も授業のある学生や塾に行ってそうな学生などが多い。確かに気は紛れそうではあるが、人の多さにイラついてしまいそうで、本末転倒のようなことにならないか心配である。

 どこで遊んでストレスを発散させようかと考えながら駅の横を歩いていると、公園の方から何かを宣伝している声が聞こえきた。


 「『八賢伝』、今日の15時から警固公園でライブやりまーす!無料ですので、ぜひ、お越しくださーい!」


 声のした方にいたのは、里見学園アイドル部のグループ『八賢伝』のリーダーを務める久美さんだった。私がアイドルをやめるべきか悩んでいた時に、優しく相談に乗ってくれた。その日以降は会う機会が無かったが、こうした形で再会するとは思っていなかった。

 行き交う多くの通行人に、声をかけてチラシを配っている。声をかけようと思ったが、活動の邪魔になると思い、久美さんが持っているチラシを配り終えるのを待つことにした。

 久美さんの持っていたチラシは、次々に通行人が受け取っていった。チラシを受け取った人々は、特設ステージの方へと足を運んでいる。つまり、多くの人が『八賢伝』に興味を示しているということだ。私達のアイドル部が同じことをして、これほど客を集められるビジョンはみえない。

 どうすればこの差を埋めることが出来るのかと考えているうちに、久美さんはチラシを配り終えていた。せっかく姿を見たのだから、軽い挨拶くらいはしておこうと思い、ステージの方へと向かいだした久美さんに声をかけた。


 「あら、琴音さん久しぶりね。あの日以降もアイドル活動を頑張ってるかしら?」


 久美さんも、姉の引退を気にかけていたうちの1人である。無名の妹のアイドル活動のために、トップアイドルがアイドル活動を引退するのは良い気分ではなかっただろう。

 しかし、嫌味を含んだような言い方では無かった。むしろ、私のことを気にかけてくれているような話し方だ。

 

 「はい……、一応……。」

 

 「怪しいわね。何かあったのかしら?」

 

 久美さんは、私の返事に怪訝そうな顔をする。この人には見抜かれてしまいそうだ。

 今、話している相手は、今度の大会で戦うことになるアイドルグループのリーダー。

 自分たちと相手のグループでは、技術面以外では何が違うのかについて考えている。と、相手のリーダーに弱いところを見せるわけにはいかない。

 しかし、ライブの前に余計な心配も抱えさせたくない。聞き流されるか無視されることを前提に、打ち明けることにした。


 「技術の面以外で、『八賢伝』にあって私達に足りない物について考えていたんです。」


 思い切って打ち明けてみたが、久美さんはハアッと大きくため息をつくだけだった。「それを当の本人たちに聞くか?」と言わんばかりに、久美さんは呆れている様子だった。


 「……ライブ後に、スタッフさんを通して私のことを呼んでもらえるかしら?」


 それだけ私に告げると、久美さんはステージに向かってスタスタと歩き出した。

 なぜ久美さんが今ではなく、『ライブ後に』と言ったのかが分かった。「私達のライブを観て、足りないものを探せ」という意図が伝わってきた。



 ※ ※ ※ ※ ※



 自分達に足りないものを探そうと『八賢伝』のライブを観ていたが、そんなことを考える余裕はなかった。『八賢伝』のライブの完成度に圧倒されてしまい、あの時のように魅了され、ライブに夢中になり過ぎていた。

 半分敵城視察のような私ですらライブの虜になっていたのだから、周りの観客は言うまでもなかった。

 観に来ている人全員を惹きつけることができるライブなんて、桜咲のアイドル部ではできない。『八賢伝』の完璧なパフォーマンスあっての結果だろう。


 「さすが『八賢伝』。圧倒的なパフォーマンスだった。でも、それだけじゃない……。」


 パフォーマンスは完璧だったが、それだけではなかった。言葉では表すことのできない何かによって、観ている全員を惹きつけていた気がする。

 歌を耳で聞き、ダンスを目で見る。観客がライブから感じ取ることができるのは、この2つのみである。それなのに、どうしてここまで心惹かれてしまうのだろう。

 心惹かれるための大事な要素が分からないまま、ライブが終わってしまった。申し訳ないことなのだが、何も得られずに終わってしまった。

 ライブ後、久美さんと会うべく、ステージ裏の簡易の楽屋へと向かった。関係者以外は立ち入り禁止のようだったので、近くにいた女性のスタッフさんに声をかけて、楽屋にいるであろう久美さんを呼んでもらった。

 スタッフさんが中に入ると、すぐに制服姿の久美さんが現れた。1時間程度のライブ後なのに、久美さんに疲れた様子は一切現れていなかった。


 「お待たせ。どうだったかしら、私達のパフォーマンスは。」


 にこりともせずに久美さんは言う。自信に満ちている様子でもなく、普通の日常会話をするかのような感覚で言われた。


 「全員の息がピッタリ合っていて、歌もダンスも凄かったです。自然とライブの虜になってしまっていました。」


 「それは良かったわ。」


 私の返答に少しだけホッとした様子を見せたが、またすぐに表情を戻して、私に質問を投げかけてきた。


 「ところで、私達のライブから、琴音さん達に無いものが分かったかしら?」


 「ライブの完成度とかですかね……?」


 『八賢伝』のライブをもう一度頭の中で思い返してみるが、ライブの完成度の違いが1番の理由だと思った。メンバー全員が揃っていて、全員のレベルが高かった。

 今の桜咲アイドル部は、私も含めてほとんどが中学生からアイドル活動を始めた。しかし、里見学園や他のアイドル部の強豪校に所属するアイドルは、多くが小学生の頃からアイドル活動に向けて、歌の教室に通ったり、ダンススクールに通ったりするらしい。

 おそらく、そのような経験値不足が原因なのだろう。と思いつつ、久美さんの顔を見て様子を伺っていたが、私の答えに久美さんは難しそうな顔をして「違うわ。」と言って首を横に振る。

 

 「じゃあ、何が……」


 「久美ー。学校に帰ってすぐに部活しよー。大会まで日にちが無いんだからー。」

 

 私が口を開いた途端、楽屋の方から『八賢伝』のメンバーが久美さんを呼ぶのが聞こえた。

 それに気づいた久美さんは「ごめんなさい。もう時間だわ。」と、それだけ呟いてクルリと私に背を向ける。

 『八賢伝』のリーダーである久美さんが忙しいのは分かるが、何が私達に足りないのかだけは聞いておきたかった。


 「久美さん!私達に足りないものってなんですか!?」


 「これは自分たちで見つけないと意味がないの。」


 久美さんは、振り返ることなく単調な声で私に告げる。少しの間、その場に立ち止まっていたが、「それでは。」と言いメンバーの方へと離れていった。

 久美さんの言葉の意図が分からずに混乱している私は、その場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

投稿頻度が悪くてすみません

これからも書くのでよろしくお願いします

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