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ギャルズメロディー3期  作者: キスよりルミナス
4章  新たな始まり
20/30

20話  キズつけた者 前半 (椿)

20話   キズつけた者  前半 (椿)



 生徒会の仕事というのは大変なもので、体育館、特別教室の鍵閉めまで仕事になっている。今日は、その当番が私に回ってきたので、早めに部活を切り上げて仕事をすることにした。

 もうすぐ10月になろうとしているのに、まだ夏の暑さは去ってくれない。部活中も結構な汗をかいてしまう。

 今日も練習着は汗で濡れてしまっている。必ず持って帰らないと、次の日にはカビが生えてしまうだろう。

 私が小学4年生だった夏、とある男子が汗で濡れたの体操服をしばらく放置して、とんでもないことになっていた。そうはなりたくないので、絶対に持って帰りたいところ。

 

 「練習着、忘れそうだなぁ……。」


 忘れないか心配をしながら歩いていると、体育館の前に着いた。中から、ダムッダム……とボールをつく音がする。

 腕時計に目をやると、最終下校時間の18時半を少し過ぎている。バスケ部、バレー部は18時10分くらいには部活を終えるので、きっと残っているのは遊ぶために来た人だろう。

 先輩だったら怖いなとか思いながら、中の人にバレないようそっと中を覗く。


 「華奈……?」


 中でバスケをしていたのは華奈だった。確か足の怪我で、しばらくドクターストップが掛かっていたはずなのに、なぜバスケをしているのかわからない。

 それはともかく、華奈のプレー姿はあの頃と変わらず綺麗だった。

 シューズと床の擦れるキュッキュッという音を、体育館内にきれいに響かせている。

 素早いドリブルからの鮮やかなターン、最後はレイアップで決める。ゴールの時もパシュッと綺麗に入れた。

 ようやくキリがついたようなので、華奈の元へと注意しにいく。


 「華奈、何してるの?下校時間すぎてるよ!」


 私のことに気づいた華奈は慌てふためいて「ご、ごめんなさいっス。」と言い、大きく頭を下げる。

 怪我でバスケをやめてしまった華奈の、あの頃と変わらない華奈を見れて安心した。


 「どーして先輩がここにいるんスか?」


 不思議そうに私のことを見つめてくる華奈を見て、「それはコッチのセリフだよ。」と思う。


 「ボク、生徒会の仕事で体育館に鍵閉めなきゃいけないんだ。」


 「そーだったんスね。ごめんっス。」


 華奈はゴール下に転がっているボールを、急いでバスケボール用の大きなカゴに投げ入れる。カゴの中に、ガゴンと音を立ててボールが入った。 

 華奈はボールを入れ終わると、こちらに走って戻ってきた。足を痛がる様子はなかった。


 「華奈、足は大丈夫なの?怪我してるって聞いていたけど。」


 華奈の細い綺麗な脚を見ながら言った。怪我といっても、外傷があるのではなく、筋肉や骨など足の内部を怪我していたようだ。そのため、パッと見では分からない。

 しかし、華奈がバスケをやめる程ということは、相当な怪我だったのだろう。

 華奈がバスケをやっていた頃は、ケガをしていても楽しそうにバスケをしていたと記憶している。

 

 「この前、いつも行っている整形外科に行ったら、『もう、運動をしても大丈夫なほどにケガは治っている。』って言われたんスよ。」


 華奈が怪我でバスケをできなくなったと聞いた時は、私も悲しかった。いくら華奈と関係が悪くなったとはいえ、本当の妹のようにずっと一緒にいたので、彼女が辛い思いをするのは私も辛かった。

 

 でも、華奈が怪我を治して大好きなバスケを出来るなら、私はそれで良いと思った。


 嬉しそうな様子の華奈を見ていると、昔の華奈を思い出した。

 

 2人で一緒に遊んでいた時のこと。楽しげに笑う華奈を見るのが、私の幸せだった。

 あんな幸せな日々があったと考えると、今の日常は少し寂しいと感じてしまう。

 

 私が昔のことを懐かしく思っていると、華奈は近くに転がっていたバスケボールを拾って、ボールをつき始めた。


 「ほら!治ってからこんなに動けるんス!先輩、カナって意外とバスケ上手いんスよ。」


 華奈は、私からちょっと離れると、さっきと同じようにドリブルをし始めた。笑顔で居てくれることは嬉しいのだが、1つ気になることがある。


 『カナって意外とバスケ上手いんスよ。』


 このセリフだ。言われなくても分かる。昔から華奈のことを知っている私なのだから、当然知っている。

 そのことは華奈も知っているだろうに、なぜ敢えてそのことを言ったのだろうか。


 華奈のバスケをする姿を眺めながら、少し考えてみたが答えが浮かんでこない。


 「華奈、バスケ上手いね。」


 不思議な気持ちだった。今まで、あの頃のように笑い合えない、そう思っていた。

 しかし、華奈と喜びを分かち合えたなら、あの頃のように戻れる気がした。そして、それが今なんじゃないか。


 いつ以来だろうか。私が、笑顔で華奈に話しかけることができたのは。


 「そーいえば、先輩の名字って何っスか?下の名前は知っていたんっスけど、名字は聞いたことなかったなって。ツバキ先輩が初めて部活に来た日、カナ、用事があって来れてなくて……。」


 華奈は止まってこちらの方に戻ってくる。

 そういえば、私が初めて部活に来た日は、華奈はたまたま部活に来ていなかった。

 アイドル部のメンバーからは、椿か椿先輩としか呼ばれていないから、名字がわからないのも不思議なことではない。これは、華奈が私のことを知らない場合の話なのだが。

 さっきから会話をしていると、どうも私のことをあの椿先輩だと認識していない様子だ。あの頃から髪は手の込んだ編み方はしてないし、おしゃれなんかもやめたから、もしかしたら本当に気づいていないのかもしれない。

 ここで無理に隠し通しても意味がないし、いずれか知ることになるだろうから、今ここで、あの朝比奈椿であることを打ち明けようと決めた。

 

 「そーだったね、あの時いなかったね。それじゃ、改めて自己紹介するね。ボクの名前は朝比奈 椿。生徒会長やってます、よろしく!」


 「……朝比奈……椿……。やっぱり、先輩は、あの椿先輩だったんっスね。」


 「……。」


 華奈の表情が暗くなった。


 「カナ、先輩は、あの椿先輩とは違う人だと思っていたっス。……いや、そう信じたかっただけ……。」


 華奈は、体育館の床に視線を落としてブツブツと呟いている。華奈の声からは、失望している気持ちが感じられた。

 本当にあの椿だったと認識していなかったのだろう。ゆえに、普段は他の人と変わりなく接することが出来ていた。でも、実際は、朝比奈 椿 のことは避けたかったのだろう。

 今まで、全くの別人と思い接してきた人物が、あの 朝比奈 椿 だったということに失望したのだろう。


 「で、でも……。あの椿と同じって思っていなかったの?」


 「だって、変わり果ててるっスから……。一人称が『ボク』だったり、質素な感じになったり。あの頃の可愛い椿先輩とは、全く違うっスよ……。」


 華奈は瞳を潤ませて、私のことを見ている。華奈にとっては悲しいことなのかもしれないが、この事は、私にとっては悲しくなかった。


 あの頃の私は、同性に向けられた愛について、1人で向き合うには無理があった。そして、今でも私はそれについて悩んでいる。

 こんな事、誰にも相談できるわけない。気を許して相談することのできる相手がいたとしても、このことを話すことは躊躇ってしまう。

 相手からみたら、華奈と同じ異質な存在だと思われる。華奈も同性愛であったことを悩んでいるだろうが、告られた私の方も悩み続けている。


 あの時、どうすれば良かったのか。


 そんな悩みに押しつぶされそうなくらいなら、悩みの原因であった『華奈からの愛情』を失くすことが、最適な答えだったと思う。

 

 だから、私はもうあの頃の私には戻れない。華奈から愛されないような存在であるべきなんだ。

 どれだけ華奈が辛くても、苦しくても、悲しくても、私はコレを貫かなくちゃいけない。私と華奈を天秤にかけた時、私はそのような答えを出したのだから。


 「……あの頃のボクはもう戻ってこないよ……。」


 華奈にはそれだけを告げて、体育館を施錠しなければならないことも忘れて、その場を立ち去った。



 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 「1、2、3、4!椿、動きが遅れてる!」


 華奈がいつも立っているところに、ここ最近は菜月が立っている。菜月も練習をしたいだろうに、自分のことは後にして、私達のダンスを見てくれている。本当に菜月には感謝しかない。


 で、どうして、このような状況になっているのかというと、華奈が部活に来ていないからだ。


 体育館での出来事の翌日から、アイドル部に華奈が来なくなった。初めのうちは体調でも壊したのか?と思っていたが、そうではないようだ。

 琴音や神楽が言うには、学校には来ているらしい。しかし、アイドル部にはどうしても行きたくない理由があると言って、来なくなったんだとか。

 

 間違いなく私のせいである。


 そう自覚はしているが、このことは誰にも相談できなかった。相談したくても問題の中心に、誰にも触れられたくない話があるので誰にも相談できずに今に至る。


 「椿、2人とタイミングずれてる。」


 「ご、ごめ……、うわぁっ!」


 ターンの途中に右足と左足が絡まり、転倒してしまった。

 顔が床につく前に、両手を床についておいたので、顔に怪我をせずに済んだ。しかし、床についた両腕からジワジワと痛みが広がっていく。

 とっさに、菜月が私のところに駆け寄ってきた。菜月が手を差し伸べてきたので、私はその手を借りてゆっくりと立ち上がる。

 

 「おい、大丈夫か?……椿は休憩してな。生徒会の仕事もあって疲れてんだろ。」


 「ん……。わかったよ……。」


 私のことを心配してくれているのは、大変ありがたいのだが、その優しさが私の心をチクチクと痛ませる。

 転倒したことに関しては、華奈のことを考えながら部活をしていた私が悪いだけ。それなのに、菜月は『生徒会で疲れている』という理由で私のことを庇ってくれた。

 

 「琴音、神楽。お前らも一旦休憩だ。」


 菜月はダンスの練習中の2人を止めた。それを聞くと2人は、サッとダンスをやめてそれぞれの荷物のもとへと向かった。

 息の上がっている私とは違い、あれだけ練習しても2人は余裕そうな態度である。

 若いって羨ましいなぁ……。と、神楽の方を見ていると、視線に気づいた神楽が私の方を振り向く。そして、表情を変えずに私に近づいてきた。


 「椿先輩、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」


 「え、う、うん……。」


 神楽は座り込んでいる私を見下ろして、微笑むこともなく真顔で私を呼び出した。

 教師や先輩から呼び出されたりすることはあったが、後輩から呼び出されることはなかったので新鮮な気持ちである。

 

 「華奈が部活に来なくなる日の前日の放課後に、体育館で椿先輩と華奈が2人で居たのを見たんです。あの時に何かあったんですよね。」


 あの会話を神楽に見られていたと考えると、一気に血の気が引いた。どこまで正確に聞かれたのか分からないが、少しでも聞かれていたのなら厄介なことである。

 華奈が私のことを好きなのが、神楽にバレてしまっては、神楽の私に対する今後の接し方も変わってくるだろう。

 誤魔化そうとしたけれど、呼び出してまで問い詰められたのでは逃げることはできない。

 

 「……まぁ、いいよ。ボクと華奈の関係から話すね。」


 華奈のプライバシーもあるし、本当は話したくなかったが、ここで黙り込むわけにもいかないので、華奈との過去のことについて話した。

 正直、ドン引きされるだろうな。と思っていたが、神楽は表情を1つも変えずに真剣に話を聞いてくれた。


 「華奈の気持ちを受け入れられなかったのは、女の子同士だから……、ですか?」


 「うん……。同性同士の恋愛ってどうなのかなって。おかしいよね……?ほら、恋愛って異性にするものじゃん?」


 現代でそんなことを言おうものなら、大炎上かもしれないが、本心ではそう思っている人がいないわけでもない。実際、日本の結婚だって同性同士は、未だに認められていないし、そういう考え方が残っていることは確かだろう。

 少なくとも、私はそのように考えている。

 異性だから特別なメリットがあるのか、同性だから特別なデメリットがあるのか。そんなこと聞かれても答えられないが、恋愛は異性とするのが普通だと思ってしまっている。

 この考え方が合っているのか、間違っているのか。そんなこと、分かるわけない。


 「私の個人的な意見なのですが、恋愛感情を抱く相手は異性でなくてもいいと思います。恋愛対象に、どの性別かなんて関係ありませんよ。」


 神楽にスパッと言われても、いまいち納得ができなかった。恋愛対象は異性に対してのみ。という考え方の私には難しかった。


 「う、うーん……。そうなのかな?ボクには分かんないや……。」


 「私は華奈の気持ちが分かる気がするんです。私も似たような気持ちを友達に抱いたことがあるので。」


 「神楽が……?」


 神楽が嘘をついているのでは、と自分を疑った。神楽に限って、こんな真面目な場面で嘘をつくわけないし、きっとこの話は本当なのだろう。


 「はい。長く一緒にいた友達にです。私の場合は、その気持ちが何だったのかハッキリと分かりませんでした。ですが、華奈と椿先輩の過去の話を聞いてみると、どこか似ているところがあるなって思いました。」


 神楽は少し照れくさそうに微笑みながら語った。さっきまで、無表情を続けていた神楽が、やっと表情を緩ませたので何となく安心した。


 「神楽の場合はどうだったの?相手は神楽の気持ちを受け止めてくれたの?」


 こんなこと聞くのは失礼かもしれないな。と思いながら、恐る恐る尋ねてみた。

 

 「私は本人に直接言っていないので、相手の気持ちは分かりません。ですが、きっと受け止めてくれたと思います。それくらい、私はその人と深い関係にあったのです。」


 「神楽が相手の立場だったら受け止められた?」


 自分でも意地悪な質問をしたな。と、尋ねた後に反省する。不快な気持ちになってしまったのでは?と心配したが、その心配もする必要は無かったようだ。

 神楽は、焦った様子の私を見てクスッと笑って話し始めた。


 「えぇ、もちろんです。それに、特別に仲が良かったのなら、大事な気持ちを拒絶されてしまっては、誰だって心にひどいキズを負うことになると思います。」


 神楽にやんわりと責められた気がした。でも、私のした事は責められるべき事だったので、むしろありがたかった。

 自分の罪から目を背けることができなくなったのだから。


 「じゃあ、ボクは華奈の心をキズつけたんだ……。」


 心のキズは、誰も直接見ることはできない。そこから血が出てるわけでも無いし、そこが腫れているわけでもない。

 それなのに、心のキズというのは、残り続けていくものなのだ。どんなにいい薬があったとしても、どんなにいい治療法があったとしても、それは痛みを和らげるだけにすぎない。心のキズは残り続けていくものなのだ。

 私は、そんなものを華奈の心に負わせてしまったのだ。過去のことを振り返って、どう反省してもそのキズは消えないし、痛みも残り続けていく。

 取り返しのつかないことをしてしまったんだ。

 華奈に苦しい思いをさせている自分に対して、怒りと悔しさが込み上げてくる。


 でも、このままでは何も変わらない……。


 どんなに努力をしたって、キズつけた過去のことは変えることはできない。しかし、そのキズの痛みを和らげるために動くことなら可能である。


 「……ボク、華奈に会ってくる。」


 華奈の気持ちを受け入れる決心がついた私は、神楽にそれだけ告げると、華奈のいるであろう体育館へと走って向かった。

久しぶりの投稿となりました

今回のは僕の意見とかではなく、ただ作品として書きたかったものを書きました

次回もよろしくお願いします

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