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鳥になれたならそれでいい

「お仕事したくない…。」

「今日も楽しい楽しい、ダンジョンだぞ。」

「ダンジョンの前でひたすら銃撃ってるだけじゃないかよ!」

 何も楽しくないわ!

 叫ぶ同僚の意見はもっともだが仕事なのでどうしようもない。

「空自の連中よりましだろ。」

「…あー、この前空自の連中号泣してたな。」

「…守ってくれるのはうれしいが敵に突っ込んで行かなくてもいいと思わんか?」

「…そう言う方法しか教わってなかったから仕方ないんじゃねえ、釈然としないけどさ…。」

「そうだな、それに比べりゃ俺らは楽なもんだよな、というわけでさっさと行くぞ。」

「あー、やだ、早く終わってくれねえかな…。」

 それこそ神頼みしかないだろうと、いつの間にやら作られた基地内の小さな社に、早くこの異常な状態が終わりますようにとお祈りするのだった、ただし五円玉では効果のほどは微妙の様な気がするので、今度の給料日は奮発してお神酒の一本でもお供えすべきかと頭を悩ます程度には、彼もこの日常に馴染んでいるのだった。


「…どの神様に祈ればあの人たちはこの空中戦免除してもらえるんでしょう。」

 ところ変わってとある航空自衛隊の基地では、目をはらした新米パイロットが先輩に涙声でぼやいていた。

「さあな、基地のお偉いさんたちが靖国行ってご遠慮の祝詞宮司に頼んだらしいがこの前も普通に参戦してたからなあ。」

 先輩パイロットも遠い目をしながら、うちのチビとさほど年の変わらん奴らが敵に突っ込んでいくのを見せられるは勘弁してほしいんだが…と呟く。

「…あんな、技術も何にもないのに、なんで無理やり飛んでくんだよ、守ってくれてるだけで十分なのに…、敵はちゃんと俺たちが倒してやるのに…。」

 えぐえぐと本格的に泣き出した新米に先輩の方もため息しか出ない。

「あんな捨て身の攻撃で守られてもうれしくねえよな。」

 航空自衛隊の守りとして現れる旧日本軍の戦闘機たち、それはつまり先の大戦の戦死者たちのそれであり、神と共に現れる間違いもなく神の眷属となった一団の姿ではあるが自衛隊の戦闘機一機に旧式の戦闘機が数機つく方式で守りについてくれるそれは、彼らが撃墜されなければ固定制であり、つまりはスクランブルを受け空中戦の間共に戦う戦友である。

 ただし、戦闘機の能力は神様の力でどうにかしてもらっているようだが、各々の技量は生前のそれである、先の大戦はもちろんきちんとした訓練を受け、技量の確かなパイロットもいた、しかしその一方で大戦終盤の頃には技量の未熟な年若いもの達が飛び立ち多くが命を落とした。

 そんな者たちが共に戦う時、どうしても技術的に遅れを取ってしまう、それは仕方ないことでそれでも懸命に先立と共に自分達を守ろうと後方につく彼らが前に飛び出す瞬間がある、ほんの一瞬すれ違って止めるすべもないまま彼らは敵の中に突っ込んでいく。

 そうして消えた彼らは二度と現れない、どんなに目を凝らしても、他の誰かのもとに居ないかと探しても、彼らは見つからない、現れない、それに気がついた隊員たちが止めに入ろうとしても他の旧軍の兵たちが間に入ってしまう、まるで邪魔をするなと言うかのように。

「あの人達の覚悟を蔑ろにしてる訳じゃ無いんですよ!でも、ああやって二度と会えなくなるなんて死んでるのと同じじゃないですか!もしかしたらお役目終えてどこかで休んでるだけかもしれないけど、あんな風に居なくなられたらたまらないです!」

 えぐえぐ泣く新人に、先輩も複雑な表情で押し黙る。

 多すぎる魔物に状況が劣勢になってしまう時がある、そんな時に飛び出していく彼らを止められない自分たちが情けない。

 お前たちにはまだ役目があるだろうとばかりに自分達から離れ魔物に突っ込んでいく彼らに向かってどれだけ叫んでも彼等は一顧だにせず飛んでいく、性能ならこちらが上のはずなのだ、なのに全く追いつけない、まるで命を燃やしてすべてをかけて飛んでいくように、彼らは魔物の群れに突っ込んで消えていく。

 声を交わしたことは無い、姿だってぼんやりとした霞のようなものでまともに識別などできない、それでも共に戦っているのだ、飛び方のくせでだんだん相手を認識しだす、恐ろしく腕のいい猛者もいれば、飛び方はへたくそなのに敵を倒すのだけは異様にうまいやつもいる、技術も何もまだまだ未熟でひよっこ丸出しのやつもいた、

 その彼らがいないのだ、次の闘いの時にはどこにも。 

 どこにいった、どうなった、聞きたいのに誰も答えてはくれない。

 この世界の創造主と違って、日本の神々はとても寡黙だ。

 ただ一言、彼らは天の河原で休んでいる、とでも言われればそれでいいのだ、なのに神は何一つ答えてくれない、ただ悲しげに彼らの欠片を抱えて消えていく。

「…あいつら、死んでないですよね。」

「もう死んでるぞって笑われるぞ。」

「…いっそ笑ってほしいです。」

 あいつら薄情なんですよ、夢枕にも立ってくれやしねえ。

 戦友となった者達をつい最近亡くしたばかりの青年がボロボロと泣きながら先輩に訴える。

「…先輩俺もっと強くなりたいです。」

「ああ、そうだな。」

「もう、仲間、死なせたくないです。」

「俺もだ。」

 

 そうして今日も空には不思議な光景が広がる、翼をもつ魔物相手に戦闘機が戦っている。

 その戦闘機も現代的な戦闘機を守るように古めかしい戦闘機たちが群れを成している。


 とある老人ホームの屋上で、その様子をじっと見ている老人が一人。

「田中さん!こんなところにいたら危ないじゃないですか!」

「…すみませんなあ、懐かしい飛行機が飛んでるもんで。」

「ああ、昔の戦闘機ですね、ああやって自衛隊の人達を守ってくれてるんだそうですよ。」

 ありがたいですね、にこにこしながらそう言う介護士に手を取られながら老人は屋内へと戻っていく。

「すまんな、靖国には行けんかったよ。」

 小さく呟き見送る老人が一人、飛び去る戦友たちに敬礼を送るのだった。

すみません前回とは大分雰囲気が違いますが次回はまたゆるい感じに戻ります。

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