不条理
何十キロ……いや、何百キロメートル広がってるんだ……この穴……羽ばたきながら呆然としていると、横に浮かぶヒハニーキが
「スキルシステムってのは便利でな。根本的な性格すら変えられるだろ?それで自分の中に揺るぎない道理を創って解決するって方法もある」
「……は、はあ」
「ただ混沌の蓋は生半可な不条理じゃない。んー……とは言え、我々知的生命体は理解できないことを不条理とか言うが、もしかしたら分からないだけで筋が通っているのかも知れないがもなあ」
何言ってんだろこの雲……と思いながら羽ばたいていると、いきなり目の前に女神が出現して満面の笑みで右手を差し出し俺に触れてきた。ヒハニーキが慌てて
「避けろ!それは女神じゃない!」
と言ったが遅かった。
……
風が吹く丘でサナーと並んで座っている。よく覚えてる。これは十六歳とかの光景だ。ボロボロの奴隷服を着たサナーは怒った様子で立ち上がり
「……何で奴隷なんているんだよ!」
「……確かにな」
「人が人をこき使って稼いでるとか!皆、平等であるべきだろ!?」
「……優秀な人が、上に立つのは仕方なくないか?」
「でも!そいつらはすぐ調子に乗って、努力が足りないとか、奴隷も経営者の視点を持て、とか言ってやりがい搾取し始めるんだよ!」
「まあな……」
黙って聞いているとサナーは
「私は本当に大好きなナラン以外には跪きたくない!」
「道理が通ってないぞ。跪きたいのかそうじゃないのかはっきりしろよ」
サナーはサッと座ると潤んだ瞳で
「ナラン、遠くに逃げよう。ゴミみたいなナランの兄貴達も、奴隷で稼いでるお前の家も、ゲロ吐きそうな教会の説法も全部最低だ!」
「その通りだけどなあ」
煮え切らない俺の態度にサナーは悲しそうな顔をした。でも時々この会話を思い出す、なぜだろう……。
……
ここは最初の傭兵の任務の場面だ。目の前で大粒の涙を流して両手を合わせ命乞いをする血塗れのグリーンゴブリンに、鎧がボロボロのサナーは半泣きで
「たああああ!!」
胸目掛け、剣を突き刺した。死闘の末に体力が尽きた俺は本気でホッとしたのを覚えている。サナーは血が噴き出て絶命したグリーンゴブリンを呆然と見ながら
「……なあ、ナラン」
「ああ……」
「殺さないと殺されてた。でも……こいつにも暮らしが……いや、やめよう」
「ひでえ世界だよな……」
「傭兵してたらこんなのがずっと続くんだろうな」
「かもな……」
「この時、そうじゃない世界にしたいって、私言ったよな」
「サナー……?」
気付くとボロボロの革鎧姿のサナーは、愛おしそうに、突っ伏して絶命したグリーンゴブリンを見つめていた。




