あの光も
次の瞬間には俺は王都上空から、虹色の光が王城へと集中していくのを見下ろしていた。そして、微妙に王城から光が溢れているのに気付き、自然と両手を伸ばして王城へと戻していく。目の前で起こっていることと比べれば、遥かに小さな俺の両手がまるで遠近法を無視したかのように光をすくって王城へと集めていく。何処からか女神の声が
「そうそう!それが微調整!信仰パワーを王城に集めてね!」
頷いて、黙々と不思議な作業を続けていると、王城へと完全に収束した虹色の光が天へと昇り始めた。
逆流する虹色の滝のように上空へと上がっていく光の流れは、夜の雲に混ざり、遠くの山岳地帯へとまるで空の大河のように流れ始めた。驚異的な光景につい
「サナーも居ればな」
などと呟いてしまうと、すぐ横から
「ナラン……何これ……」
サナーの声が聞こえ、慌てて横を振り向くと黒装束のサナーが俺の横に浮いていた。
しばらく2人並んで、大空を流れる虹色の大河を眺めた後、サナーが
「ああ……ナラン、また私を置いていこうとしてるな」
苦笑いしながら言ってくる。
「……そうなんだろか。本当は、自分の力を伸ばせていない俺が、努力してるお前に置いていかれてないか?」
何となくそう呟くとサナーは笑い出して
「ナランは優しいなあ……行こう」
自然と俺の手を取ってサナーは宙を歩いていく。虹色の大河は険しい山岳地帯を瞬く間に越え、大砂漠地帯の上空を流れ出した。その先には一部が切り取られた暗黒地帯も小さく見えている。
俺と手を繋ぎ、砂漠地帯の上空を歩くサナーは前方を見ながら
「どうせ夢だから言うけど、ナラン、もっと私と一緒に居てくれ。金髪女なんかと居ないでさ」
「……すまん」
サナーは暗黒地帯へと届き始めた虹色の大河を見つめながら
「あの光もどうせ、ろくなもんじゃないだろ?私は知ってるんだ。偉いって言われてるやつって沢山の他人を扇動して利用して、自分の力にするんだ。そういう類の臭いがする」
俺は思わず笑ってしまう。当たっているかもしれない。サナーは憤慨した様子で夜空を見上げ
「私たちは生まれた時から、先に生まれた不完全な他者がどうにか創った欠陥だらけのルールの上で生きてる。そんな不幸な私達に、神は祈るだけじゃ何もしてくれないし、救いも一切くれない。それどころか自分がどうしたら良いか考えずに祈ってばかりいた奴隷達は皆、もっと不幸になった。だから私は宗教が嫌いだ」
「そうかもな」
「きっと神には見えてないんだ。人間の不幸なんか。だから私は神とか国とかじゃなくて、自分とナランを信じて精一杯生きる!」
サナーが握った手を強く握りしめると、俺達の身体が虹色に激しく発光し始め、暗黒地帯へと流れる虹の大河の勢いが激しくなった。
サナーは一瞬立ち止まると息を吸い込んでから
「くそ女神!私の想いを勝手に利用するんじゃない!私は、私自身とナランのものだ!私はお前が創った人生じゃなくて私の人生を生きるんだ!」
空へと叫んだ。同時に虹色の大河は濁流となり、暗黒地帯へと襲いかかり、まるで洗い流すかのように暗闇を流し、消し去っていく。サナーと俺が唖然としてそれを眺めていると、女神の声が
「サナーちゃん、あなたが完璧に正しい。ずっと見守っているからね」
響き渡り、俺は意識が落ちる。
……
目を覚ますと、虹色の水で満ちた泡の中で、外からマリオンヌの大きな一つ目と口の顔に見つめられていた。
「ナラン君、おつかれー。とりあえず管理者としての初仕事は無事終わったからねー」
彼はのんびりとそう言って、虹色のスライムボディから先が尖った触手を伸ばし、泡を突いて弾け飛ばす。水は床に吸い込まれていき、一切濡れていない自分の身体に俺が驚いていると、マリオンヌはズルズルと階段を上り始め、慌てて付いて行く。




