恋をしていますね?
リースが愕然とした顔で槍を落とし
「わっ、私……超神聖大天使セイ様を刺しちゃった……なんてことを……」
真っ青な顔で震え出した。次の瞬間リースの背後にセイが再び出現しリースの両肩に触りながら
「セイ様は、寛容な大天使だ。恋人を想っての攻撃なのは分かっている。金髪美少女、お前なあ……」
「は、はい」
しばらく沈黙が続いた後
「何十万人分の世界のマイナス面を、1人で引き受けながらよくやっていると思う。セイ様は感謝しているぞ」
そう言うと再び消えた。
愕然としていると頬を桃色に染めたリースが飛び上がって俺に抱きついてきた。
「超神聖大天使セイ様からお褒めの言葉が!?マイナススキルも一つ消してくれたみたいだし!これはもう守護されているのと同じでしょ!」
「……ああ、そうだよな」
今のセイと名乗った女性が本当に、あの聖書外伝の神罰で有名な超神聖大天使なのかは分からないが、リースが嬉しそうで本当に俺も嬉しい。それだけだ。ミヤは携帯端末を俺たちに向け首をひねりながら
「やっぱり映らない」
そう言っていた。
3階に魅了が解けたヒト達とサトウウを置いて4階へと向かう。アンジェラとビャクダイインジによると、セイのことを女神の使徒だと全く思わずに救出したヒト達の説明に集中していたらしい。アンジェラが階段を上りながら
「……携帯端末に映っていないのも、人々の記憶や記録にできるだけ残らない様にしているのかもね」
そう話していると、人けのない4階のホールが見えてきて、ド真ん中に立て札が立てられていた。
全員で立て札に近づくとアンジェラが悩ましげな顔で腕を組み
「右の通路奥の部屋で待つ。ゴウダイゴウ。か……」
「スルーしたらー?」
ミヤが携帯端末を端末に向けながら軽く言うと、アンジェラは首を横に振り
「エンマ級に背後から襲撃されたら全滅する危険があるわ。行きましょう」
指定された通路へ進み始めた。俺たちも続く。
通路奥の古く重厚な木造扉を開けると、香ばしいお茶の匂いがする広い応接間だった。広いテーブルにはお菓子が所狭しと並べられ、奥のソファに座る頭髪のない痩せた小柄なローブ姿の老人と、手前のソファに座る白いシャツを着た長い金髪の女性がテーブル越しに座っていた。老人は細く黒い瞳をこちらへ向けると
「来たか。少し、話していかんかね?」
全く敵意のない表情を向けてきた。金髪の女性はこちらを振り向き、口元にお菓子の粉が少し付いた人の良さそうな顔をあどけなく微笑ませ
「あ、ナラン君だよねー?」
俺が頷くと嬉しそうに
「ゴウちゃーん、ナラン君、私見えるって」
老人は真剣な表情でこちらを見ながら
「二つ尾の女神筆頭使徒である大天使ナーニャさんじゃ。隣の部屋に一席設けてある。2人で行くが良い」
あれ……筆頭使徒は、さっき会った超神聖大天使セイだったような……いや、っていうかまた女神の使徒!?2人目!?驚いていると、立ち上がった女性は俺の横に来て、サッと手を取り
「あっちだねー」
応接間の横の扉ヘと連れて行く。アンジェラやリース達が驚いた表情で
「何に引っ張られているの?」
「ナラン……大丈夫?」
心配してきた直後に、ナーニャと名乗った女性は扉を開くと、慌てて付いてきたリースをジッと見つめ
「まあ、良いでしょう。姿みえーるみえーる」
のんびりとそう言いながらピッとリースの額を指差し、また俺の手を引いて部屋の中へと連れ込んでいく。
リースも慌てて入って来ると、扉はひとりでに閉まった。そこは真っ白な空間が何処までも広がっている見覚えがある景色だった。まるで亜空間の端で見た場所のようだと呆然としているとリースが後ろを振り返り
「扉が無い……」
絶望的な顔で呟く。ナーニャは微笑みながら、その場に胡座をかいて座ると
「座ってねー?」
無防備に俺たちを見上げてくる。リースと手を繋いだままその場に座り込む。ナーニャは青い目でリースをジッと見つめ
「うむー……あなた、ナラン君に恋をしていますね?」
真面目な顔でよく分からない質問をしてきた。俺にギュッと抱きついたリースから
「ずっと愛してます!今度結婚します!」
強い口調で言い返され、少し面食らった顔で固まると項垂れて
「うう……ごめんてえ……恋愛についてあまり詳しく無くてえ……」
しばらく1人で落ち込み、そしてガバッと顔を上げ、思い出した表情で
「えっと!女神使徒筆頭のえっと……豊穣の大天使ナーニャって知ってるー?」
そう言ってきた。




